◎ 一つ一つ(2/8)
最後に、と言葉を紡ぎながらエンデヴァーは俺を見る。
「俺の“譲受”で複数の個性を扱うことが出来て“温冷水”と最近発現した“圧力”を扱えます。“圧力”の取扱に慣れたいのと二つの個性を切り替える時のラグを最小限にしたいです」
「“圧力”はどんなことが出来る」
「こんな風に───飛んだり、人やものを押し付けたり出来ます。あと“温冷水”との組み合わせで“ドライアイス”を作れます」
「ふむ。ラグはわかるが取扱とは具体的に」
「使い慣れてないから頭で考えてから発現しちゃって…緑谷と近いかも。あとまだまだ制御が上手く出来てなくて移動速度が十分でなかったり…ブレてしまったり…」
どんなヒーローになりたいか?
ヒーローになって何がしたいか?
何度も何度も自問自答を重ねてきた。
まだ皆のように確かなものは見つけられていない。
でも────!
「いち早く困っている人たちの元に駆けつけて…少しでも辛い思いをする時間を減らしたい。笑顔にしたい。でも今のままじゃそれは敵わない。そうならないように精度を上げたい」
「…………」
「ヒーローと言えば敵を倒すってなりがちだけどさ。それも突き詰めると困ってる人を救けたい、笑顔にしたいってことだ。戦うことも駆けつけることもその手段でしかない」
「なあ轟。おまえはどんなヒーローになりたい?」
エンデヴァーはそうかと一言零すとくるりと俺たちに背を向ける。
そして早速行くぞと歩みを進めようとした時に轟が呼び止めた。
「俺もいいか」
「ショートは赫灼の習得だろう!」
「ガキの頃おまえに叩き込まれた個性の使い方を“右側”で実践してきた。振り返ってみればしょうもねェ…。おまえへの嫌がらせで頭がいっぱいだった」
轟は左手を見つめた。
「雄英に入ってこいつらと…皆と過ごして競う中で…目が覚めた。エンデヴァー、結局俺はおまえの言う通りに動いてる」
けど、そう言って轟はまっすぐエンデヴァーを見つめた。
「覚えとけ。俺が憧れたのは…お母さんと2人で観たテレビの中のあの人だ。俺はヒーローのヒヨっ子として、ヒーローに足る人間になる為に俺の意思で“ここに来た”」
テレビの中のあの人。
きっと緑谷や爆豪と同じ、元No.1ヒーローのことだ。
「俺がおまえを利用しに来た。都合よくて悪ィなNo.1。友だちの前でああいう親子面はやめてくれ」
「「「…………」」」
「ああ。ヒーローとしておまえたちを見る」
俺たちはエンデヴァーに連れられ街中のパトロールへと来ていた。
先頭を歩くエンデヴァーに俺ら四人が着いていく並びでエンデヴァーは前を向きながら話した。
「救助、避難、そして撃退。ヒーローに求められる基本三項。通常“救助”か“撃退”、どちらかに基本方針を定め事務所を構える。俺は三項こなす方針だ」
管轄の街を知り尽くし僅かな異変も逃さない。
誰よりも早く現場へ駆けつける。
被害が拡大しないよう市民(やじ)がいれば遠ざける。
「基礎中の基礎だ。並列思考、迅速に動く、それを常態化させる」
「(並列思考…!)」
「雄英で“努力”を、そしてここでは“経験”を山の如く積み上げろ。貴様ら4人の課題は“経験”で克服できる」
この冬の間に一度でも俺より速く敵を退治してみせろ。
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