◎ なんのために(1/5)
「はあ…はあ…………」逃げなくちゃ。
「……っはあ……」後ろなんて振り返っている暇はない。
足の裏がどれだけ傷つこうと気にしている余裕はない。
早く逃げなくちゃ。
少しでも遠くへ───
ダンッ
「あっ……」
「……っ」
裏路地から飛び出した私は誰かに思いっきりぶつかってしまう。
その衝撃で思わず尻もちを着いてしまった私に女性は手を差し出しながら言う。
「大丈夫?」
そう、これが初めての出会いだったよね。
◇
「!」
いつものように目覚ましが鳴り響いて目を覚ますと、体を起こし寝癖のついた頭のままぼーっとしていた。
久々に見た夢は懐かしい昔のこと。
「…………」
その夢を見たせいかいつもよりもすぐに動き出せずにいて、ふと自分の右手を見つめると小さく呟いた。
「最近は見てなかったのにな……」
◇
「ツナー!起きてる?」
「起きてるーっ!葵、ごめん!先に行ってて!!」
寝坊したのかバタバタとツナが部屋から出ていく。
制服こそ着ていたものの頭には寝癖がついていたりと準備が終わるにはもう少し時間がかかりそうな様子だった。
そんな姿が少し可笑しくて葵は小さく笑うとツナの言葉に甘えて先に向かうことに。
「いってきまーす」
「いってらっしゃい。葵、今日はクッキー焼いて待ってるから早く帰ってきてね」
「(び、ビアンキの料理……!)あ、ありがとうね……あはは」
いつものように沢田家のみんなに見送られながら家を出ていく。
何も変わらない朝の風景、小さく伸びをしながら歩いていると曲がり角に差し掛かった時、小さな誰かが突っ込んできたのだ。
葵は慌てて誰とぶつかったかを確認するとそこには尻もちを着いている小学校低学年くらいの女の子の姿。
どうやら尻もちをついた拍子に怪我してしまったのか膝からは赤い血が流れていた。
「ごめんね!大丈夫!?」
「う…うわーん!」
どうしたものかとあわあわと慌てているとふと今日の夢のことを思い出す。
昔、自分もこんな風に転んだことがある。
その時に───
「!」
「立てる?」
優しく笑いながら手を差し伸べてもらった。
女の子は小さく頷くと葵の手を取って立ち上がるが傷が痛むのか必死に口をつぐんでこれ以上涙が流れないように堪えていた。
葵はそれに気づくと背中を差し出しながら言った。
「送っていくよ。学校と家どっちが良い?」
「…………学校」
「わかった。道案内してくれるかな?」
「うん」
「ありがとう!よーし、しっかり掴まっててね!」
そう笑うと葵は女の子を背負って歩き始めた。
◇
キーンコーンカーンコーン…
「(ふ〜…なんとかセーフ…)」
チャイムと共に教室に駆け込むツナ。
まだ先生は来ておらず遅刻は免れたと安堵しつつ席に向かった。
「10代目!おはようございます」
「獄寺君、おはよう」
「いやーギリギリセーフでしたね。流石っス!」
「いや、これに関しては流石も何もないというか…」
ツナは苦笑いを浮かべた。
まだ先生が来そうにない気配を察したのか周りのクラスメイトたちも獄寺に触発されて話し始めていた。
その様子にうるせーなと舌打ちしつつ、きょろきょろと教室内を見渡しながら一言。
「そういえば葵のやつ今日は一緒じゃなかったんですね」
「うん。今日寝坊しちゃったから葵には先に行っててもらったんだ」
「でもまだ来てないみたいっスよ」
「え!?」
ガタッと席を立ち上がり教室内を見渡してみるが獄寺の言葉通り葵の姿はない。
それどころか席にカバンも置いてある気配はなく、なんで!?とツナはガーンとなっていた。
変な事件に巻き込まれてしまったのか?
もしかして事故に合ったとか!?
ツナは頭の中でぐるぐると考えてはひとり焦りを隠せずにいたが、反面獄寺はあっけらかんとした様子で笑いながら言った。
「道にでも迷ってるんじゃないスかー?」
「通学路で迷うことある!?」
「ま、葵のことですし大丈夫ですよ」
「で、でも───」
するとガラガラと扉が開く音がしたかと思うと先生が少しだけ息を切らせながら入ってきた。
「遅れてすまない。席につけー授業始めるぞー」
「(授業始まっちゃったよー!……でも、確かに獄寺くんの言う通り葵なら大丈夫か)」
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