◎ 入れ替わり(1/4)
「訳が分からないわ」
腕を組みながら眉をひそめて険しい表情を浮かべたビアンキは目の前にいる葵とツナを見つめながら言った。
すると葵が手を挙げながら一言。
「オレがツナで」
次にツナが手を挙げて言った。
「オレが葵なんだ」
「…………」
「「…………」」
「訳が分からないわ」
このやり取りを初めて数回。
混乱して信じられないと言ったビアンキもこの有り得ない状況を受け入れなければ2人の言うことと辻褄があわないと察したのか頭を抱えながら言った。
「つまり…葵とツナの体が入れ替わったって事ね」
「さっきからそう言ってるじゃんか〜!」
「ツナ、ビアンキが信じれないのも無理ないよ…」
ツナの見た目をしているが中身は葵。
葵の見た目をしているが中身はツナ。
「一体あなた達、何があったの?」
「「実は……」」
◇
それは遡ること数分前のいつもと変わらない朝。
いつもな奈々や葵に何度も起こされてツナはやっと起きるのだが珍しくセットしていた目覚まし時計で起きることが出来たのだ。
珍しいこともあるんだとあくびを漏らしながら階段を降りようとちょうどツナを起こしに行こうとした葵の姿が見えた。
「あ、ツナ今日は起きれたんだね!」
「うん。おはよう、葵」
「おはよう。ちょうど朝ご飯できたところだから一緒に食べよう」
「うん!ん……?」
再び足を進めようとした時、ずるっとツナは足を滑らせてしまう。
寝起きでまだ頭も体も起ききっていない状態でどうにか出来るはずもなくそのまま階段から転げ落ちていく。
「ツナ!?」
「うわああ!!葵避け――」
いきなりの出来事で葵も避けきることも出来ず起きた拍子に頭をぶつけ、ゴツンと鈍い音を響かせた。
余りの衝撃と痛みで2人は頭を抱えながらうずくまっていたのだが何か違和感を感じる。
「いたた……ごめん、葵。大丈――…え?」
「ツナも怪我はな――……!?」
顔を上げてみると驚くべきことに鏡でしか見たことの無い自分の姿が目の前にあり、思わず言葉を失う。
一瞬フリーズした後に有り得ないとは思いつつこの状況は……
「もしかしてオレたち――」
入れ替わってる!?
◇
「ということがあって……」
「……ベタね」
「ベッタベタな展開だな」
「ベタとかそんなこと言ってる場合じゃないだろ!?てかリボーンもいつから聞いてたんだよ!」
「あなたが話し始めた時からいたじゃない」
「何逆ギレしてんだ。元はと言えばツナ、お前が階段から落ちなければこんなことにはならなかっただろ」
「そ、それは……」
鋭いリボーンの指摘に思わずツナは言葉を詰まらせる。
その様子にやれやれと言った様子でリボーンとビアンキは首を振ると今度はツナの姿をした葵に視線を移す。
「葵、すまねぇな。戻り方はオレらでも調べてみるから少しの間はダメツナの体で我慢してくれ」
「オレ達もいろいろも試してみるよ。な、ツナ」
「そうだね(葵の体のままなんて持たないよ〜!)」
「……ツナ。何かやましい事でもしたら…手加減はしないわよ」
「ひいい!!?」
「葵の顔で間抜けな表情すんじゃねえ。外面変わってもダメツナはダメツナのままだな」
葵の姿にも関わらず溢れ出るコレジャナイ感にリボーンとビアンキはため息をこぼす。
葵も見た目は自分なのに、確かに溢れ出るツナ感になんとも言い難い不思議な気持ちが溢れる。
このままではいけないという気持ちは共通のものだったので早速戻るために何か試そうとした時、奈々の声が響く。
「ツー君、葵君。早くしないと学校に遅刻するわよー?」
「タイムアップだな」
早く起きていたとは言いつつ、入れ替わりの件で思ったよりも時間を使ってしまったらしく気づけば家を出る時間ギリギリになっていた。
2人は仕方ないと笑い合い、今日1日はなんとか乗り越えようと決めると葵はツナの体のまま、ツナは葵の体のまま学校へ行く準備をまとめると家を飛び出した。
はたから見たら何の変哲もない日常。
ただ当の本人達からしたら普通ならありえないような非日常が幕を開けた。
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