◎ かぜの日(3/3)
「失礼します…」
「なんだボンゴレか。オレは男は見ねーぞ」
相変わらずだなとガーンとなりつつツナは保健室へと入る。
「京子ちゃんから聞いて――葵のカバン持ってきたんだ。体調はどんな感じなの?」
「ま、熱は結構高めだな。今はぐっすり寝てるみたいだが…お前んとこに居候してんだろ。迎えとか頼めるのか?」
「母さんはいると思うけど…葵ふらふらしてたから母さんだけだと心配で――うち車もないし」
なるほどなとシャマルは顎に手を当てて考えるとオレが送るかと呟く。
それを聞いて、今は体調を崩しているから手は出さないとは思うが女好きのシャマルと葵を2人っきりにするのは…と不安が過ぎる。
今は昼休みで午後からも授業はあったがツナは自分も一緒に早退すると言った。
「(さ、流石にオレもいればシャマルも手を出せないはず……!)」
「……お前失礼なこと考えてんだろ」
「んな!?(ば、バレてるー!)」
「流石に病人には手ぇ出さねーよ。仮にもオレは医者だぞ?」
そう得意げにシャマルは笑った。
◇
あれから無事にシャマルに送り届けられ、葵は自分の部屋で眠っていた。
奈々はランボやイーピン達に静かにしててねと言うと水の入った桶とタオルを持って葵の部屋まで向かった。
まだ熱が高いのかしんどそうな顔をしている葵のおでこに手を当てると水につけたタオルを絞ってそっとおでこに乗せた。
その時うっすらと葵の目が開く。
「……奈々さん?」
「あら、起こしちゃったかしら」
「いえ……」
熱が出るとやけに弱気になる自分がいたけどそれを悟られないように葵は笑った。
だが、奈々はそれを察して穏やかに笑うとそっと頭を撫でながら言った。
「葵君はしっかりしてるからツー君やランボちゃん達のことを任せちゃってたけど…今日くらいは甘えたって良いのよ?」
「!」
葵は少し考えた後、布団で顔を隠しながら恥ずかしそうに言った。
「……寝るまで――」
「ん?」
「オレが……寝るまでそばにいてくれませんか……?」
「ふふっ、おやすい御用よ」
それからしばらくしてツナが帰ってきて、葵の様子が気になったのか葵の部屋をうっすら開けて覗き込む。
すると中にいる奈々と目が合って、奈々はしーっと人差し指を口に当てながら笑った。
それを見てツナは葵が寝ているのだと気づき小さな声で奈々に尋ねた。
「葵……大丈夫?」
「薬も飲んだし、後はゆっくり寝ればきっと大丈夫よ」
「良かった……」
「ここは母さんに任せてツー君はランボちゃん達の面倒見てあげてくれない?きっと暇してると思うの」
「家で遊んで葵を起こすと悪いから公園にでも行ってくるよ」
「お願いね」
◇
あれからしばらくして葵は目を覚ました。
ゆっくり寝たおかげか先程に比べて気だるさがマシになったような気がした。
ぼーっとしながらもふと机の上に置いてある袋に目がいく。
「(これ……なんだろ?)」
袋を開けてみるとプリンやゼリーやマスクなどが入っていて1つ1つにペンで何か書かれていた。
ゼリーには早く元気になれよと山本から、
マスクには10代目に伝染すなよ!と獄寺から、
プリンにはゆっくり休んでねと京子から、
それを見るや否や葵は嬉しくて小さく笑を零した。
「葵君起きてる?」
「あ、はい!」
返事をすると奈々が部屋に入ってくる。
その手にはうさぎ型に皮の剥いてあるリンゴが乗った皿があり、これ良かったら食べてと渡される。
お礼を言って食べようとした時、いくつかうさぎ型と言うには不格好なリンゴがあって葵は首を傾げる。
そんな葵を見た奈々はこっそり教えた。
「このリンゴ、ツー君が買ってきてくれたの。普段なら皮剥いたりしないのに、葵君のためだったんでしょうね」
「ツナが――」
ツナの優しさに顔がほころぶ。
そしてツナが剥いてくれたであろう不格好なリンゴを食べて美味しいと小さく呟き笑った。
どこか特別感のある、そんな1日だった。
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