◎ かぜの日(2/3)
「えと……資料室は――」
授業が終わった同時に先生に呼び出されて向かってみると資料室へ授業で使ったものを片付けて欲しいとの事だった。
よく先生から頼まれ事をされていて、それを手伝っているのだが、今回もいつも通り葵は嫌な顔ひとつせず先生の頼みを承諾した。
資料の扉を開けると昼にもかかわらず日が差し込まない資料室は薄暗く電気をつけなければ周りが分からないほどだった。
手探りに電気のスイッチを探すため壁に手を当てている時だった、突然体の力が抜けてしまい持っていた道具を落としてしまいかつ、自分の体を支えるべく咄嗟に棚に手をかけたのだが運悪く棚のものも床に落としてしまった。
ガシャーン
「うわっ……やっちゃった……!!」
なかなかに派手な音を立てながら物を落としてしまい、焦りつつ電気を探しつけてみると無惨にも床に道具が広がっている光景が目に入り頭を抱えた。
しょうがないと思い床に落ちたものを拾おうとした時だった。
「大丈夫!?」
「!京子ちゃん」
恐らく派手な物音を聞きつけて心配してくれたのであろう京子が慌てて資料室へと入ってきた。
京子は葵と床に拡がった道具を交互に見ると状況を察したのかしゃがみこむ葵に近寄ると心配そうな顔で覗き込んだ。
「怪我はない?」
「う、うん。ちょっとふらついただけだから――心配かけてごめんね」
床に落ちたものを拾い立ち上がるとニッと笑った。
だがどこか足取りがおぼつかないのを察して京子もまだ床に落ちている道具を拾うとニコッと笑った。
「これ落ちちゃった道具だよね?棚にあったのかな」
「うん。ごめんね、手伝わせちゃって……」
「ううん。葵君こそ、いつも先生の頼まれ事やってくれてるのに……手伝えなくてごめんね」
「謝ることないよ!むしろ好きでやってる所もあるし――」
もともと頼まれる事自体嫌ではなかったし、ありがとうって感謝されるのが嬉しかった。
だから、謝らないでとで言った。
「…葵君って優しいよね」
「へ?」
「だからみんな葵君のこと頼りにしちゃうかもしれないけど――葵君もその分みんなに頼って良いんだよ」
京子は笑いながら葵の持っている道具を取ると棚に戻していった。
「葵君、今日体調良くないでしょ?そんな時くらいは無理しちゃだめだよ。ここ片付いたら一緒に保健室行こう」
「……うん。わかった」
すると京子はニコッと笑った。
「京子ちゃん」
「どうしたの?」
「……ありがとう」
「!」
いつもと同じ笑顔のはずなのに、体調を崩して熱があるせいかいつもより少しだけ色っぽく見えて、不覚にもドキッとしてしまう自分がいた。
「どういたしまして」
◇
「38.6℃。こりゃ早退だな」
京子と共に保健室に向かい体温を測ると案の定熱があって、体温計を見ながらシャマルはため息を吐いた。
「こんだけ熱高けりゃしんどかったろーに」
「大丈夫?」
「ありがとう。でも伝染しちゃ悪いし…もう教室戻って大丈夫だよ」
「そうだな。お嬢さん、授業も始まるし教室に戻りな。葵はオレが見ててやるから」
シャマルに言われて京子は頷くとお大事にと声をかけて教室へと戻っていった。
いつもならちょっかいをかけるシャマルだが、今日は葵のことを気づかって大人しく寝かせることに。
キーンコーンカーンコーンと普段なら教室で聞いているチャイムの音を保健室のベッドの中で聞くことに違和感を覚えつつ、葵はそっと目を閉じた。
「…………」
小さい時、熱を出すと母さんが頭に冷えたタオルを置いてくれて、オレが寝るまでそばにいてくれたんだっけ。
父さんはオレが食べやすいようにって果物を買ってきてくれて、兄さんは風邪が伝染らないようにって距離を置かされてたんだけどこっそり部屋に忍び込んではオレが退屈しないように本とか漫画とか持ってきてくれたんだよな。
…なんだか懐かしいや。
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