◎ 標的12 バレンタインデー(2/3)
教室に着けばそれはそれでクラスの女子生徒から葵は囲まれてチョコを渡されていた。
ツナはそんな様子を見ながら小さく苦笑いをうかべた。
「(すごい人気…一体どれだけ貰うんだろう――)それに比べて……」
全く手元にチョコのない自分の状況にため息を吐いた。
「(オレは今年のバレンタインデーもチョコ0個…か。ま、いつものことか)」
すると放送を鳴り、誰かが声を発するより先に誰かを鈍器で殴るような音が響き渡り、賑やかだった教室が一瞬で沈黙に包まれる。
「な、なんだ!?」
《1-A 山下葵。すぐに応接室に来て》
「(いつもは電話なのに今日はなんでわざわざ放送なんだ……?)まあ、行くか――」
「(さすがヒバリさんの呼び出しなだけあって、引き止める女子1人もいないー!)」
雲雀からの突然の呼び出しに少し面倒くさそうに葵は教室から出ていこうとした時だった。
《この放送が切れて2分以内に来なければ……咬み殺すからね》
「んな!?」
「やっば……!」
葵は慌てて教室から出ていき、その様子をクラスメイト全員が気の毒そうに見つめていた。
◇
バンッ
「はあ……はあ…………」
「1分ジャスト。想像より早かったよ」
「それはどーもです……」
葵は肩で息をしつつ、応接室の部屋奥にあら椅子に座る雲雀を見つめる。
「どうしたんですか?校内放送なんて珍しいじゃないですか……」
「君は取り巻きが多そうだからね。この方が手っ取り早いかと思って」
「(あの鈍い音は…………いや、今は聞かないでおこう)」
「葵、今日は何の日かわかる?」
雲雀は部屋奥の椅子から立ち上がると入口付近で立ちつくす葵を手招きし、向かいあわせで置いてあるソファに座るよう勧める。
特に反抗する理由も無かった葵はそのままソファに座るとなぜか雲雀は向かい側ではなく、隣に座るとずいっと葵に詰め寄り、真っ直ぐ見つめた。
「え、と――今日はバレンタインですね……」
「そうだね」
「…………ヒバリさん、誰かからチョコもらったりしましたか?」
「群れるの嫌いだから、その前に咬み殺すだけだよ」
「(ちょっと話噛み合ってないような……!?)」
ヒバリは小さくため息を吐くと葵に手を差し出した。
そして一言。
「チョコ」
「へ?」
「僕にくれるよね」
「…………ふふっ」
「…………何」
「いや……ヒバリさんってミステリアスな感じだったんですけど、チョコが欲しいって……普通の男の子みたいでギャップが――」
「バカにしてるの?」
雲雀はムッとした様子でトンファーを構える。
「わー!そういうわけじゃなくて!!」
「じゃあ何」
「……オレ、今日がバレンタインってことすっかり忘れてて――ヒバリさんにはお世話になってるんだから渡すべきでしたよね。すみません」
「……そう」
少し腑に落ちてなさそうな雲雀に小さく苦笑いを浮かべる。
「また改めてチョコ作って渡しますね。それまで少しだけ待っててください。美味しく出来るかは自信ないですが……」
「美味しくなかったら咬み殺すからね」
「ええ!?それはそれで理不尽!まあ、尽力します……」
すると少し満足したのか雲雀は小さく笑みを浮かべる。
そんな雲雀を見て葵もとりあえず安堵の息をもらした。
そして教室に戻るべくソファから立ち上がろうとした時、ガシッと雲雀に腕を掴まれる。
何事かとその方向に振り返ると同時に腕を引かれ、気づけば雲雀の唇が葵の頬に当たっていた。
「……!!?」
「遅れる分、これで勘弁してあげる」
そう言うと雲雀は意地悪そうに笑う。
「し、失礼します……っ」
葵は先程の出来事と雲雀の表情に顔を真っ赤にさせて、わたわたと応接室から出ていった。
「(オレ……今何された……!!?)」
驚きと動揺を隠しきれないままキスされた頬を抑える。
並中最強の風紀委員を束ねる委員長からは想像つかないかわいらしい姿を見たかと思うと、その後のしたり顔を見せつけられ、葵は混乱していた。
“雲雀恭弥”という人物が葵の中で更に謎になっていた。
そして雲雀と約束したのもあり、いつもお世話になっているツナを初め、沢田家みんなにも葵は手作りチョコを渡した。
するとツナは泣いて喜んでいたとか――
prev|
next