◎ 標的07 野球少年の憂鬱(2/3)
「……!葵、まだ帰ってなかったのか」
「うん。山本のこと待ってたんだ」
「そっか――あんがとな」
そう言いながら笑うが、先程の事が堪えているのかどことなく引きつっていた。
帰り道もいつもなら途切れることの無い会話もどこかぎこちなくて、葵はそんな山本のことを心配していた。
バッティングセンターの前を通りかかった時
、山本は立ち止まる。
「山本?」
「……悪い、ちょっとここ寄ってくわ。葵も来るか?」
「ああ」
初めてのバッティングセンターに葵はきょろきょろと辺りを見渡していると、山本は慣れた様子で店内に入っていく。
葵は入口近くにあった売店で牛乳を買うと山本の後を追った。
「こうなってるんだ!あっこからボールが出るのか……なるほど」
「あはは。来るの初めてなのか」
「うん。あ、ゲームもあるんだ……」
はしゃぐ葵を見て、小さく微笑みつついつものようにバットを選んだ、機械にお金を入れてバッターボックスの前に立つ。
次々とボールが飛んでくるが、上手くバットに当たらない。
山本の額に汗が浮かび、歯をギリッと噛み締める。
買った牛乳を飲みながら、そんな様子を心配そうに見ていた葵は山本のあることに気がついた。
「ははっ……散々だったわ」
「おつかれさま。これ良かったらどうぞ」
「お、牛乳か。サンキューな!」
ごそごそともう1つ牛乳を取り出す葵に山本は首を傾げる。
「あれ?さっきも飲んでなかったか?」
「うん。少しでも身長伸びるように……!」
「ははっ。無理して飲んで腹壊すなよ」
「それは山本もだよ」
そう言われて山本は疑問符を浮かべる。
「何か目標があって、早くそれに近づきたい気持ちもあるけど……みんな一気に進めるわけじゃない。オレの牛乳もしかり――」
自分で言いながらも少しだけ眉をひそめる葵に部活終わりから強ばっていた山本の表情が緩む。
「山本のバッティング見てたんだけどさ、どんどん早く降ってるように見えたんだ。だから焦らないでちゃんと球を見れば打てるよ、きっと」
「…………」
「だって誰よりも野球が好きで、練習してきたんだろ!あんなに嬉しそうに野球の話をしてくれたんだ。伝わってくるよ」
ニッと笑う葵の頭を何も言わず山本はわしゃわしゃと撫でる。
そして一言。
「ありがとな、葵」
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