明日晴れるかな(日常編) | ナノ

 標的07 野球少年の憂鬱(1/3)



秋晴れで清々しい天気の中、風紀委員の仕事で遅くなった葵は帰ろうとした時、ふと部活をしている生徒の声が響くグラウンドが目に入る。

陸上、サッカー、野球、テニス――
様々な部が活動している中、よく知る顔が…
頑張っているなと見ていると、目が合いニカッと笑いながら手を振る。



「お、葵ー!」



無邪気に手を振る山本に葵も小さく微笑みながら手を振り返す。
すると山本はちょうど休憩に入るところだったらしく葵の元へと駆け寄る。



「今から帰りか?」

「うん!ヒバリさんに呼び出されちゃって。山本、部活頑張ってたな!野球してる姿すごくかっこいいな!」

「ははっ!ありがとな、葵」

「うおっ」



山本は嬉しそうに笑いながら葵の頭をわしゃわしゃと撫でる。
サイズ感が良いのか、葵はよく山本に頭をわしゃわしゃと撫でられていて、いつものことだと思いながらも葵もニッと笑った。



「そうだ!良かったら部活見学してけよ。転校してからそういう機会なかっただろ?」

「確かに――いいのか?」

「もちろん。葵にも野球好きになってもらいたいのな」

「わかった」



するとまた嬉しそうに笑いながら頭をわしゃわしゃと撫でる。

すると顧問から練習を再開する掛け声がかかり、山本はチームメイト達の元へと戻っていく。

フェンス越しに野球部の練習を見ているとボールとバットがぶつかって鳴り響く金属音に弧を描いて飛んでいくボール、それを魔法のようにグローブでキャッチする部員。
その光景に葵は目を奪われていると急に後ろから声をかけられる。



「あれ?葵じゃん」

「!」



振り返ると同じクラスの男の子がいて、体操服を着ていることから部活中だと理解する。
部活に入ってない葵が放課後グラウンドにいるのが珍しかったらしく、クラスメイトは声をかけたのだ。



「山本に誘われたんだ。せっかくだから見学したらどうかって。あんまりスポーツ見ないんだけど…結構面白いな!」

「あー山本が――」



なんとも言えない表情で山本に目をやるクラスメイトに首を傾げる。



「山本がどうかしたのか?」

「テニス部もここから結構近いとこで練習してて、野球部の様子見えたりするんだけど、あいつ最近調子悪いみたいでさ」

「!」

「期待のルーキーもスランプには叶わないってか……」

「(山本、今スランプに陥ってたのか――さっき話した時はそんな風に見えなかったけどオレに気を使ったのか……?)」

「やべっ。オレも戻るわ!また明日な」

「ああ。部活頑張ってな!」



ニッと葵が笑うとクラスメイトの頬が何故か赤く染る。
クラスメイトを送り出すと再び野球部の練習風景に視線を移すとちょうど山本がバッターボックスに立っていた。



「(……山本?)」



先程クラスメイトに言われたのもあるが、どことなくバットを持つ山本の表情は憂鬱そうで、いつもの明るい様子とは少し違っていた。
そんな様子に気づき葵が心配していると、その心配が現実のものとなり山本のバッティングは上手くいかずボールに当たりもせず空振りが続く。

するとその様子を見ていた顧問がため息を吐くとバッティングはいいから守備に回れと支持する。
その指示通り守備に回る山本の背中はどこか苦しそうに見えた。







「(くっそー……なんで上手くいかねーんだ……!?)」



誰よりも野球が好きな自信があって、
誰よりも野球と向き合ってきたつもりだった。
だけど現実それが実を結んでなくて、ましてや今までよりも出来なくなっているように感じて、焦りや不安が募る。



「(葵に野球を好きになって欲しいとか――そのオレが嫌いになりかけてるくせによく言えたな)」

「おーい山本!そっち行ったぞ!」

「!お、おう!」



バッターが打ち上げてしまったらしく綺麗な弧を描いて飛んでくるボールの着地点に回り込みグローブを構える。
すると綺麗にボールがグローブに吸い込まれていく。



「(よしっ!)」



だが――



「なっ……!」



1度は掴んだと思ったボールが地面に向かって落ちていく。
誰でも取れるような打ち上げた球を山本はエラーしてしまったのだ。

慌てて拾って一塁へと投げるが、焦って手が滑ったのか思っていたところとは違う方向へ飛んでしまった。
野球部員もあの山本が……と驚きを隠せない中、顧問が立ち上がり山本を呼び出す。



「どうした。お前らしくないぞ」

「す、すみません……(本当に何してんだ……試合ももうすぐ控えてるってのにこのままじゃ――)」

「…………」



しばらくの沈黙の後、顧問が口を開く。



「山本、今日はもう帰れ」

「!!でもまだ――っ」

「良いから帰れ。焦りすぎている。そんな状況で練習しても周りの者にも迷惑だ」

「……っ」

「一度よく考えてみろ。それが出来るまでは部活に来なくていい」



言い返す間もなく顧問は練習へと戻っていく。
顧問に言われたことが図星だった山本は重い足取りでグラウンドから出ていった。





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