◎ 標的06 彼から彼女へ(5/5)
「10年くらい前かな――オレが並盛の近くにあるショッピングモールで母さんとはぐれて1人で泣いてた時…」
「10年前……ショッピングモール…………」
葵の頭の中でその時の様子がフラッシュバックする。
まだ両親が生きていて、母さんの実家のある日本に来ていた時、たまたま入ったショッピングモールで泣いている男の子がいた。
今ならよくわかる。
あの時の男の子は紛れもない、目の前にいるツナだ。
「思い出した……!確かにあの子、ツナだ――すごいな!!こんな事って……!」
偶然なのか、運命なのか。
葵はすごいと驚きつつも嬉しそうに笑った。
「……ずっと返さなきゃと思ってたんだ」
「?」
「葵」
ツナは葵の手を掴むと微笑みながら一言。
「一緒に帰ろっか」
◇
帰ってからいつものように奈々さんのご飯を食べて、みんなとの団らんを楽しんだ後、お風呂に入ろうとした時、ツナに呼び出されて部屋へと向かう。
するとツナは葵に綺麗な装飾の施された匣を差し出す。
「これ――!」
「10年前に落としたよね?返したかったけど葵がどこにいるかわからなくて……だけど――はい」
そう言いながらツナは葵に匣を握らせた。
それを懐かしそうに、少しだけ悲しそうに見ながら葵は言った。
「……父さんがおばあちゃんからもらったもので大切にしてたらしいんだ。だけど、オレ勝手に持ち出しちゃって挙句の果てには失くして……怒られなかったけど、父さん悲しそうな顔してたんだ」
「そうだったんだ…だったら早く返してあげたら良かったね……」
「ううん!元はと言えば落としたオレが悪い訳だし……」
葵は改めてツナに向き直ると最高の笑顔で言った。
「ツナ、ありがとう」
「!!」
顔が熱くなるのはなんでだろう。
どうしてこんなに葵の笑顔を見ると胸が苦しくなるんだろう。
オレの中で葵が男の子から女の子になったからかな?
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