明日晴れるかな(日常編) | ナノ

 標的06 彼から彼女へ(4/5)



「あ〜〜…やっと終わった……」



補習でみっちりしごかれたツナは疲れた様子で教室へと向かう。

昨日のディーノとの一件があってから、今日は葵と話そうと思った矢先、朝から1度も会えてない始末。
帰ってから会えるものの……今日は話すなと言われているような気分になり諦めようとした時だった。



「あ、ツナ!補習終わった?」

「葵……?帰ったんじゃ――」

「ツナに話したいことあったから待ってたんだ。寄り道して帰ろうよ」

「……わかった!」



たわいの無い会話を交わしながら、葵のリクエストの河原へと向かう。
河原に着くときらきらと目を輝かせながら葵はその景色を見ていた。



「アニメとか漫画で見たまんまなんだ!すごいな!」

「あはは、ただの河原だけどね」



2人は河原の土手に川を眺めるような形で並んで座る。
少し冷たい風が心地よく2人を包み込む。



「…ねえ、葵。話したいことって何?」

「……あー…………えっとね…………」



覚悟は決めたもののいざ話すとなるとやはり躊躇いが生じて、言葉が詰まる。
そんな葵を気遣って、ツナが口を開いた。



「……じゃあオレから。オレも葵に聞きたいことあったんだ」

「聞きたいこと?」

「…昨日ディーノさんと話してて思ったんだ。オレ、まだ葵のこと何も知らないなって」

「!」



どこで生まれて、
どんな所で育ったのか。

どんな両親で、
兄弟はいるのかいないのか。

好きなもの、嫌いなもの――



「だからそのこと聞きたいなって思って――そしたら1日会えないんだもん。びっくりしちゃった」

「朝から全く会わない日なんて今まで無かったもんね」

「そうそう」

「そっか――確かにオレの話はあんまりしてなかったかも。ツナのことは奈々さんとかから聞いたりしてるんだけどね」

「母さん何言ったんだよ!」



いたずらっぽく笑う葵にツナはガーンとなりながらも、その笑顔に癒されていた。



「オレの話をするには――やっぱりまずは言わなきゃな」

「??」

「ツナ、オレさ――……本当は女なんだ」



葵がそう言った瞬間、ツナは大きく目を見開に固まってしまう。
そして少し経つと顔を真っ赤にしながらいやいや!と手を振りながら葵から1度目をそらす。



「な、何言ってんだよ!確かに葵はかわいいって思う時あるけど……それと同じくらいかっこよくて……」

「…………」



真っ直ぐと見つめる瞳が嘘をついてるとは思えなかった。
ツナは1度視線を逸らすと口ごもりながら聞いた。



「本当に……女、の子なの?」

「…………うん。今は男装してるんだ」

「…………」



そうハッキリと葵が言うとツナは手で顔を覆いながら膝へと埋めていく。
そんなツナの様子を見て、葵は不安そうな表情を浮かべながら言った。



「ツナ、ごめんね。騙すつもりはなくて――……いや、こんなの騙してるのも同然か…………本当にごめん……」

「ち、違うんだ!!」

「!」



ツナは慌てて顔を上げると熱が覚めない真っ赤な顔のまま葵を真っ直ぐ見つめる。



「葵が女の子で嫌だとか、黙ってて怒ってるとかじゃなくて――その……」

「……じゃなくて……?」

「は、恥ずかしいんだ――」

「!」

「〜〜〜ッッ」



再び葵の真っ直ぐな瞳に耐えきれなくなって、また目をそらすと1人悶えていた。

そして落ち着くと小さな声で言った。



「……ありがとう、教えてくれて」

「!」

「オレ以外は誰が知ってるの?」

「リボーンとビアンキと……ディーノさんやシャマルも知ってるな。後はヒバリさんも――」

「ヒバリさん!!?」

「初登校の日に即バレたんだよね……」

「ああ、あの時か……」

「イタリアにいた時に関わりがあった人は男装する前に出会ってるからオレが女だってこと知ってるんだ。だけどそれ以外の人で自分からカミングアウトしたのは……ツナが初めてだよ」

「!!……どうしてオレに言ってくれたの?」

「ボスだからとか、一緒に住んでるからとかいろいろあるけど――なんかツナにはオレの過去の話とかしたいからそれのためにも言っときたいなーって思って」



女の子だとわかってからツナの目に映る葵がやけにキラキラとしているように映る。
眩しいのはきっと夕日のせいだけじゃない。



「オレはイタリアで生まれて、両親はノットゥルノファミリーっていう小規模のマフィアのボスをしていたんだ」

「(ノットゥルノ、ファミリー)」

「代々その子供が跡を継ぐことになっていて、オレには少し年の離れた兄さんがいるからいつもの流れなら長男である兄さんがボスになる予定だった。だけどノットゥルノファミリーには変わった掟があって、その血筋で女が生まれた時は兄弟関係なく、女が跡継ぎになるっていう」



時代が時代というのもあり男尊女卑とか、か男だから、女だからという話を聞いてこないツナは何処か新鮮な気持ちで葵の話に耳を傾けていた。



「オレは女だからノットゥルノファミリーの跡継ぎになることが決まってた。ちなみに兄さんはアッビサーレファミリーっていうマフィアのボス夫婦の間に子供が出来なかったから養子として引き取られて、時期ボス候補としていろいろ頑張ってるみたい」

「お兄さんとは仲良いの?」

「うん!日本に来てからも連絡取り合ってるよ。また日本に遊びに来たいって言ってたからその時は紹介させてね」

「うん。楽しみにしてるよ」



ツナは葵の話を聞いていてある疑問が浮かんだ。

葵はノットゥルノファミリーの跡継ぎとしてボスになることが決まっていた。
だけど、今はボンゴレファミリーに所属していて、次期ボス候補の自分を守護する命を受けているわけで――……その事に関して質問すると葵は少し切なそうな表情で笑った。



「ノットゥルノファミリーは……オレ以外みんな殺されてて、もうなくなっちゃったんだ」

「え……」

「だからオレの両親ももう死んじゃってる。……マフィアの世界では誰かが命を落とすことはよくあるから――」

「よくあるって――」

「……ノットゥルノのボスは本来女の人のみ。本当はボンゴレと同じくらい古い歴史を持ってるけどオレを含むとまだ2人しか正式なボスになった人はいないんだ。そしてそのボスになる人には――特別な力っていうのがあるらしい」

「特別な力?」

「正直オレもどんな力なのか知らないんだよな。とりあえず、裏社会のマフィアたちや表社会のお偉いさん達も欲しがるような――そんな力があるらしくて……それを狙ってノットゥルノは襲撃を受けて、結果壊滅したんだ」



それを聞いてツナは言葉を失う。
平和に生きていた自分と生きてきた世界が違うことを思い知らされていき、なんとも言えない気持ちが混み上がる。

葵はそんな空気を変えるようにニッと笑った。



「そこで9代目に拾ってもらって今に至るってわけ!んで女より男の姿をしている方がノットゥルノの生き残りだってバレる確率が減るから男装を命じられてるんだ。なかなかにぶっ飛んだ作戦だよな〜」

「確かに男装するって発想はなかなか生まれないね……」

「面白い人なんだよな……そういえばツナも9代目に似てるよ?」

「ええ!?」



マフィアというイメージだけでも良くないのに、ましてや大規模なマフィアのボスと聞くだけで強面のいかにもカタギと言ったような人をツナは思い浮かべてガーンとなる。

だが続いた葵の言葉はそんなツナの想像を裏切るものだった。



「優しくて、温かくて――落ち着くんだよね」

「!!」



すると葵は立ち上がりズボンをはらいながら言う。



「さてと。奈々さんたちも待ってるだろうし、帰ろっか」



そう言って笑いながら座っているツナに手を伸ばすと、ツナはある場面と重なる。
昔、迷子になって泣いていた時、自分に手を差し伸べてくれた女の子。

そうだ、あの子は――



「……葵。昔、オレのこと助けてくれたよね?」

「え?」





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