◎ 標的06 彼から彼女へ(3/5)
結局あれからシャマルに長々と捕まってしまい気づけば下校時間になっていた。
カバンを取りに教室に向かうとそこには山本の姿があり、どうやら部活に向かう用意をしているようだ。
「お、葵!午後から保健室でサボってただろー」
「いろいろあって……山本は今から部活?」
「おうよ!」
「そっか、頑張ってな!」
そう言ってニッと笑うと山本も少しだけ頬を赤らめながら笑い返す。
山本以外の生徒はもう帰っているようだが、ある席にはカバンが残っていた。
「(あの席って――)もしかしてツナ、まだ学校にいる?」
「ああ、補習があるみたいだぜ」
「そういえば英語の小テストの点数良くなかったって言ってたな……あれ?山本は――」
大体補習を受ける面子は決まっていて、1-Aではツナと山本の二大巨頭となっているのだが……その山本が得意げに笑いながらピースする。
「今回は大丈夫だったのな!」
「そうなのか!やったな!」
「葵に教えてもらったとこがちょうど出たんだ。ありがとな!」
「なら良かった。またみんなで勉強会しような。今度はツナも脱補習だ!」
「だな!んじゃ、オレ部活行くわ」
「また明日な」
山本が出ていくと教室内は葵だけになり一気に静かになる。
葵は帰る準備をしようと自席に戻るが、残ったツナのカバンが目に入る。
「(そういえば――ツナと1日会わないのって今日が初めてかも)」
同じ家に住んで、同じ学校のクラスメイトで、同じ仲の良い友達がいて、
気づけばツナがいるのが当たり前になりつつあった。
「(……カミングアウトしようと決めた途端、会わないなんて――逆に変なの)」
小さく笑みをこぼした。
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