◎ なんのために(3/5)
時間は少し遡り、雲雀との見回りを終えた葵は共に並中へと到着。
風紀委員の活動場所にしている応接室か、それとも素直に教室に戻れるかどっちだろうと考えているとその予想にはなかったある場所へと雲雀は足を向けた。
「(屋上……?)」
いつもと違う様子に首を傾げながらも雲雀に続き葵は屋上に足を踏み入れる。
するとその瞬間、殺気を感じ取る。
それとほぼ同時に雲雀のトンファーが顔ギリギリのところを掠めていく。
「(危なっ……!)」
「やっぱり当たらないか」
一先ず雲雀から距離を取るとすぐに動けるように葵は構えながら言った。
「…随分急ですね」
「いつか君を咬み殺してみたいと思ってたんだ。今日は特に仕事も溜まってなかったから良い機会だと思って」
「(ヒマだからってことか……!?)」
ガーンとなりつつも葵は構えていた拳を下ろす。
「オレは戦いませんよ、ヒバリさん」
「……聞こえない」
そう言いながら雲雀はトンファーを構えつつ葵へ突っ込んでいく。
またしてもその攻撃を避けると葵は苦笑いをうかべた。
「(やっぱり聞いてくれないか───)」
「赤ん坊と同様ずっと戦ってみたかったんだよね」
「…………」
「葵、力にはいくつか種類がある。その1つとして人を傷つけるだけの力と護るためにある力があるわ」
「……護るため───」
「…誰かを護るためにはそれ相応の力が必要。その為には強くなければいけない。だから……葵。あんたが自分の拳を振るう時、振るわない時をあんた自身がしっかり考えて選択肢しなさい」
「ヒバリさん。オレはあなたとは戦いません」
「…………」
「すみませんが今日はこれで失礼しま……」
そう言いつつ扉に向かおうとした時だった。
いつもトンファー殴打に使う接近戦を雲雀はメインにしていたが、距離があったためかトンファーを葵に向かって投げつける。
それをしゃがんで避けたタイミングで雲雀は突っ込んでいきもう片方のトンファーを振るった。
「!」
だがそれを葵はキックし、足の裏で受け止めそのまま蹴り上げて防ぐ。
体制を建て直しつつ距離を取る隙に雲雀は投げたトンファーを拾って構えた。
「ふぅん。なかなかやるね。だけど、逃げてるだけで本当に良いのかな」
「…………」
確かに雲雀は並中の最強の風紀委員長で、実力もかなりのものだった。
だけど、あくまで雲雀はマフィアの世界の人間ではない。
葵は任務や仲間に害が出る場合を除いて、一般人には手を出さないことを誓っていた。
それは戦闘狂の雲雀にも言えること。
「…へえ、無視か」
「……(この状況どう打破するか……)」
繰り出される雲雀からの攻撃をとりあえず避けてその場をしのいでいるものの、根本的な解決にはならなっておらず葵は眉をひそめた。
前に了平に頼まれて道場破りを倒した時のように武器であるトンファーをとりあげてしまおうかとも考えたが、先程の蹴りで全く手放す様子がなかったのと、今回はトンファーを使い慣れている雲雀が相手というのもあり難しいと判断し、その案は一旦保留に。
雲雀は避けてるだけで良いのと挑発してくるが、その通りでせまい屋上で逃げ切るには確かに限界があった。
「(どうしたもんか……)」
キーンコーンカーンコーン
その時学校のチャイムが鳴り響く。
だが、そんなのお構い無しで雲雀は攻撃を繰り返していく。
「(……本当にヒバリさんの動き無駄がない。だけど、その分───)」
「!」
「(次の攻撃が予測しやすい……!!)」
「……本当に逃げてばかりだね」
「言ったじゃないですか。オレは戦わないって」
「…………」
その時だった、屋上の扉が開く。
「!」
「───あれ?葵と……ヒバリさん!?どうしてこんなところで……ってか何してるんですか!?」
「ツナ!」
「僕は今虫の居所が悪い」
「なっ!」
ヒバリはツナを見るや否やトンファーを構え直して走りだす。
「邪魔するなら───咬み殺すよ」
「ま、待ってください!!んなあ――!?」
だが、葵が雲雀とツナの間に滑りこんで自身のカバンでトンファーを防ぐ。
そして防御に使ったカバンを雲雀に向かって投げた。
それを雲雀は軽々を避けるが、狙いはそれではなく、雲雀の右手に持っているトンファーを掴みくるりと捻りあげ、動きのとれない状況にしめると今度は葵が雲雀に向かって思いっきり殴り掛かる……が、拳を顔面寸前のところで止めた。
それは一瞬の出来事で何が起こったかわからないといった様子でツナは腰を抜かして呆然としていた。
すると後ろからバタバタと獄寺と山本が姿を現し、獄寺は座り込むツナに慌てて駆け寄る。
「じ、10代目!?お怪我は───」
「どうしたんだ!?ツナ!」
「お、オレにも何がなんだか……」
「おい!テメーら何して────!」
「…………」
見たことの無いような表情を浮かべる葵を見て獄寺は思わず口をつぐむ。
眉間に皺を寄せて、まっすぐ雲雀を睨みつけている葵からは殺気が出ており、その異様さはその場にいた全員が感じたのか一瞬で沈黙に包まれた。
「葵……?」
「!」
恐る恐るツナが名前を呼び、それに気づいた葵はハッとし、今の状況を把握する。
怪我こそは負わせてないが一般人のましてや自分と関わりの持つ雲雀に手を出そうとしたことに思わず眉をひそめた。
「あ………」
あくまで自分はマフィア側の人間。
一般の世界で生きている人達とは違う。
慌てて葵はトンファーを持つ手を離すと酷く動揺した様子で小さく呟く。
「ご、ごめんなさい……っ」
「おい!」
山本の制止も虚しく葵は屋上から走り去ってしまった。
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