◎ かくしごと(2/3)
シャワーを浴びて着替えようとしたが巻いていたサラシも見事に雨が染み込んでびしょびしょになってしまっていた。
男装していることを黙っている状況でサラシを乾かしてもらうことは出来ず、かといってサラシを巻かないまま出ていくのはリスキーでどうしたものかと頭を抱えてつつ何か代わりになるものがないかカバンを漁っていると何故か真新しいサラシが入っていた。
全く身に覚えのない葵は驚きつつもラッキーと思い取り出すとついていたメモがひらりと地面に落ちる。
するとそこには「もしもの時のために呼び入れておいたぞ リボーン」と書かれていた。
「!(リボーン…ありがとう……!!)」
◇
場所は変わって沢田家。
「……」ニッ
「どうしたんだよ、リボーン」
雨が激しく降る外からは遮断された部屋の中でツナはゴロゴロと漫画を読んでいたのだが、突然口角を上げて笑うリボーンにぎょっとしつつ尋ねる。
だが上手くはぐらかされてしまい、それどころかうるさいぞと手首をひねあげられる始末。
「いででっ!!?」
「葵がいねーから乗り気じゃないとは言わせねーぞ。オレはいつでもみっちりねっとりとやるから覚悟しとけ」
「ひ、ひい!?(葵早く帰ってきて〜〜!!)」
◇
無事に着替え終わった葵は部屋から顔を出してきょろきょろと辺りを見渡す。
そして獄寺の気配がする部屋を見つけたが勝手に入って良いのかわからず、とりあえず扉越しに廊下から声をかけた。
「獄寺ー?シャワーありがとう」
「!お、おう。サイズ大丈夫だったか?」
「うん!」
獄寺に比べて小柄なため若干服は大きめではあるが、スボンはウエストの紐で調節したらズレることはなく、Tシャツもオーバーサイズではあるが問題なく着れていた。
「借りちゃってごめんね。制服は――」
「適当に脱衣場のとこにかけとけ。あと、今ちょっと手ェ離せねーから、そっちの部屋で待っとけ」
「わかった」
獄寺に言われた通り制服は脱衣場の所にかけさせてもらって、いくつかある部屋の1つの扉を開けるとそこらリビングと思わしき部屋で恐る恐る入るものの勝手に座って良いのかわからず立ったままきょろきょろと辺りを見渡す。
「(立派なマンションだなー。ちゃんと片付いてるし、獄寺って綺麗好きなんだな…)」
するとリビングに面している扉が目に止まる。
家主がいないのにうろうろするのはと思いつつもその部屋が少し気になってみてついていた小窓を覗いてみるとそこには立派なピアノが置いてあった。
葵はそれを見るや否やイタリア語で「pianoforte」小さく呟いていた。
「……少しだけなら獄寺も怒らないかな」
ピアノに心を惹かれてしまった葵は扉を開けて中に入る。
少し重みのある扉を閉めると外の音が遮断されて静かな空間が生まれ、聞こえるのは自分の足音と服の擦れる音のみ。
蓋を開けると白と黒の鍵盤が姿を現す。
その1つを押すと綺麗な音が部屋に響き渡る。
「(チューニングはちゃんとされてるみたいだ。埃被ってる様子もないし、今も弾いてるのかな?)」
獄寺がピアノを弾けるということを知らなかった葵は少し意外な趣味だと驚きつつもどんな演奏をするんだろうとわくわくしていながら獄寺が来たら弾いてもらおうとニッと笑った。
葵は椅子に座りそっと手を鍵盤の上に置く。
「(懐かしいな…)」
昔、お母さんからピアノを習っていて簡単な曲くらいなら今も弾けるはず。
いつからピアノを弾かなくなったんだっけ?
いや、それは…あの時からか……
「…………」
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