*アザロさま宅のガシャモクさん、パルグラスさん、マツモさんお借りしました

*クオリア入団前の出会い話を書いてみたくてやらかしました









大した仕事ではないから、とたったふたりで出てきたのがいけなかった。と、ガシャモクは思考する。

簡単に言ってしまえば、いまのガシャモクとパルグラスは敵に襲われ囲まれ追い詰められているのだった。どこで自分たちのことを聞き付けたのか、仕事の帰り道、疲れきっていたところを集団に襲われたのだ。多勢に無勢。数の暴力。そして疲れやすいという弱点を持つガシャモクの身体。背中合わせの体勢で、ふたりはただ最悪だ、と思う。背後で苦しそうに息を吐くガシャモクに、パルグラスは焦りを覚える。せめてマツモを連れて来るんだったか、そう考えても終わってしまったことは仕方がない。

自分がガシャモクから多少離れて敵を一掃してしまえば良いのだが、この状態の彼を放っておくのには…相当の不安が付き纏う。しかしこの最悪の状況だけはどうにかしなければなるまい。音波を、使うか。互いに押し黙ったまま、思考を巡らせていた、そのときだった。

「おいおいおい、何だよあんたらは…いかにも怪しくこんなとこにいっぱい集まっちゃってよぉ。通行の邪魔だっつの。まぁ一般人の通行の邪魔になんねぇようこんな裏道まで移動したのかもしんねーけど、裏道には裏道でおれみたいな通行人がいんだから邪魔だよ、邪魔じゃま!」

「それとも何だ、こんなとこで大道芸でもやっててあんたらはそれに群がってんのかよ」ぺらぺらと、独り言なのかそれともただ苛立っているのか、よく喋る少年だった。背は低い。瞳の大きな、幼いと思わせる顔立ちだ。ただその顔面にピアス。両の耳にも、だいぶ派手なピアスが下げられている。腕には刺青。幼さと同時に十分な異質さを放つその少年。首を傾げて、こんな物騒な裏道に堂々と入ってきた割には武器のひとつすら持っていない。むしろ手ぶらだった。何だあの頭のおかしい子ども。囲まれているふたりも囲っている多勢も、真っ先にそう思っただろう。

ふたりからはその少年の姿を捉えることが出来たが、少年のほうは背の低さで中心にいるふたりを見ることが出来ないらしく、怪訝に眉を潜めながら爪先立ちをしてみたり、ぴょんと跳ねてみたりと、何やら頑張っているようだ。「…パルの、知り合い?」「そんなわけない、だろ」「だよねぇ」何なんだ、あの子ども。敵ではなさそうだが味方とも判断は出来ない。

「ん、お? 何なに。中心にいるおにーさんたちは。あー、あんたらまさか、そのひっでぇ数であのまさに疲れきってますよって顔したおにーさんたちを苛めてたわけ?」
「な、んなんだ、このガキが!」
「む?」

ガシャモクたちを追い詰めていた集団の内ひとりが、少年の能天気さが頭に来たのか、明らかに何も考えず武器を振りかぶり少年に向かっていき────

「何なんだって…名前は、クオリアってんだけど」

──首から大量の血飛沫をあげ、地面に倒れ伏した。少年は吹き出した血を避け肉塊と化した男を避け、そして自分たちのいる中心へと踏み出す。面倒くさそうに溜め息なんて吐きながら。

ぽかん。
そんな表現が適切であろう顔を、ガシャモクとパルグラスはしてしまっていた。「!」すぐにハッと気を取り直したものの、ふたりは少年に対し、薄れていた警戒心を強固なものへと変える。
向かっていった男、それを容赦なく殺してしまった少年を見るからに、彼が自分たちの敵でないのは確かだが…じゃあ、あれは、何と言えばいいと言うのか。万全の体調でないふたりには、不確定要素でしかない。ぐ、と構える。今まで追い詰められていた敵たちにでは、ない。少年に対してだ。あの少年を見てしまっては──奴らは、もうふたりにとって脅威ではなくなっていた。
よくわからないものほど対策の立て方がわからないものだ。

しかし、構えたふたりに。後退りをして少年から距離をとる敵たちに。
よくわからない少年がとった行動は。

「あんたたちさぁ、おれから見るに全員いい歳した大人だろ? なのに数に物言わせて何やってんだよほんと。弱いもの苛めか?万全ならそこのおにーさんたちもこんなくだらない奴等にゃ追い詰められたりしなかったんだろうけど。呆れるね。クオリアくんは呆れちゃったね!」

いつの間にやら少年の左手には大きな包丁らしき武器が握られていた。どさくさに紛れて召喚したらしい。これまたその包丁をかったるそうに振り上げながら。

「やっていいこと悪いことってのが、あんだろーがよ。あん?つーわけで非常に不本意で多分クソつまんねぇんだろうけど」

あんたらはここで虐殺決定ね、と軽く呟いて。近くにいたから、と言い訳でもしそうに、包丁の届く範囲でいちばん近くに存在した敵の頭を、勢い良くかち割った。






*






「で、おにーさんたち大丈夫?」

少年曰く虐殺とやらが終わったようだった。時間にして三十分程度。血塗れの武器を気にしたのか、それを振りやすいナイフ程度の大きさに変え、血を払っている。…どうやら伸縮自在、らしい。自分たちも虐殺の対象に含まれていたら、いまの状態では危なかったかもしれない。

「…君は、何なんだ?」
「んー……ピンチのおにーさんたちを使命により助けた、正義の味方とかどう?」
「ふざけないでくれるか。こっちは手負いなんだ…正直君が何なのかわからないいまは、警戒を解くわけにはいかない」
「そっか。まぁそうだわな。軽く自己紹介するなら、さっきも言ったけど名前はクオリア」
「さっきの腕前を見るに相当な力持ってそうだけど…聞いたことないね。偽名?」
「本名だよ、本名」
「…じゃ、質問を変えるね。君、世間じゃなんて呼ばれてるのかな」

「…おじさんたち頭良いだろ。質問がいちいち的確だもん」包丁が水となってどろりと消えたところで、クオリアと名乗る少年はにやりと笑った。「君も話をはぐらかすのが好きだねぇ。助けてもらったことには感謝するけど…それとこれは別だ」「あはっ」血塗れた笑顔だ。おまえからはぶっちゃけ恐怖しか感じられねーよ、というのがいまのふたりの感想だった。

長々と、自分たちがアヌビアスと呼ばれる傭兵団であること、活動等話した後、クオリアもその口を重たそうに開いた。

「殺人鬼、かな」

首のなくなった死体に「ごめんねー」なんて言ってどっかりと腰を下ろしながら、クオリアは言う。ふたりは立ったままだ。只でさえ疲れていたのだ、座りたいところだが。周囲はクオリアの暴れまわった証拠とでも言わんばかりに血と肉塊に溢れていた。座りたくとも、座れないのだ。
そしてクオリアの一言。

世間で、殺人鬼と呼ばれている?

「きみ、いくつだ?」
「えーと……おれはいま十八だけど」
「十八…?」
「十八…だけど、え、なんだよその反応」
「きみ、ちゃんとご飯とか食べてるの?」
「食べてるよ!馬鹿か!そしてツッコミ所はそこじゃねーだろ!」

少年どころか青年だった。しかもちゃんと食べているらしい。そのわりにはちょっと…というかかなり小柄だが。「うん、そうだねすまない。全うにツッコミを入れようか。殺人鬼ってどういうこと?」ガシャモクが咳をひとつした後に問う。パルグラスは、小さくそれに頷いた。

「そのまんまだよ。最近結構好き勝手やってたからなぁ…聞かないか?犯人不明目的も不明、そんな殺人事件の噂とかニュースとか」
「…ちょっと待って、まさかあれ全部犯人きみなの?」
「おじさんが言うあれ全部ってのがどれだかわかんねぇけど、最近のなら多分、そうだな」
「待てって。軽く頷いてるけどいいのかよ?そんなこと、知り合ったばかりのあたいたちに話して。それこそ捕まえられても文句は言えないぞ」
「いいんだよ別に。文句は言えなくてもあんたらは殺せるから」
「それ、ばらしたら殺すってこと?」
「さぁな。おれにもわかんない」
「………」

意味がわからない。
話し疲れたのか戦い疲れたのか、クオリアは能天気に欠伸。「…いや、うん。流石に助けてもらったんだ、きみを売るような真似はしないよ」「おー、まじ?助かる助かる。で、おにーさんたちアヌビアス傭兵団なんだよな?」話題の転換が急すぎる。「そうだけど」「んじゃ、今度暇になったら遊びに行くわ」「は?」ぴしゃりと血で濡れた地面を踏み締め、立ち上がるクオリア。
ガシャモクは首を傾げ、パルグラスは眉を潜める。

「おにーさんたちいまから帰るんだろ?おれはいまから遠出しなきゃなんないから」

死体の身体をまさぐり始めたクオリアを見てふたりは引いた。正直、引いた。殺人鬼というくらいだ、妙な趣味でもあるのだろうかと心配すらしそうになる中。「こんくらいあればいいかな」売れそうな金品と財布を手にしていた。本来なら絶対に見逃しちゃいけない者なのだが、ふたりはひたすら疲れてしまったのだ。言い訳にすらならないが、ただ、疲れた。

「ほんじゃーまたね、おにーさんたち」

嵐のように現れて、嵐のように去っていく。このとき、ふたりが彼に抱いた気持ちと言えば、『出来ればもう会いたくないなぁ』くらいのものだ。
ふたりはもう暫く、その場でぼうっとしていた。またね、と言って去っていった殺人鬼を名乗るわけのわからない青年が、後にアヌビアス傭兵団に入団することになるなど、微塵も思わずに。










おまけというか入団後仲良くなってからのお喋りというか



「なあ、あたいたちずっと気になってたんだけど」

「ん、何々?」

「ガシャたちとクオリアが初めて会ったときのこと」

「あーうん、あれはドラマチックな素晴らしい出会いだったな」

「…クオリア、敵のひとりを武器もなしにやっちゃったじゃない。あれ、なにしたの?」

「あれかぁ。あんときおれはただ平手で振り払おうとしただけなんだよ…うざかったから」

「………」

「ちょっ…何だよ何だよそんな睨むなよ!たまたま偶然爪が鋭く尖らせてあっただけでだな、」

「よしわかった爪を出せ」

「ガシャ爪切り持ってくるねー」

「うえええ冗談だろ!?前に言ったじゃん!おれ武器の手入れが好きって前言ったじゃん!!」

「つまり自分にとっちゃ爪も武器のひとつだからきちんと手入れをしたいと」

「うん」

「…問答無用、だねぇ」

「うんうん」

「やだってばああもうマツ兄も見てねーでなんか言ってくれよおおお」

「怪我人が減りそうだな。やっちまえ」

「よいしょ」

「あっ」


ぱちん!






…現在クオリアが二十歳としたら二年前くらいに出会って…とかですね、妄想してましたすみません
爪切り話の掛け合い書くのがいちばん楽しかったですまる!
ありがとうございましたあああ!