*アザロさま宅アラゴンさん、アンモくんお借りしました
*メインはアラゴンさんとうちの捺姫の遊び、です









珍しく仕事もなくのんびり過ごせるはずだった今日。
今後の予定をチェックしながらコーヒーを味わっていられた平穏。が、壁と爆風と共に吹き飛ばされた。
がらんがらんと瓦礫と化した壁が派手な音を立てる。

…来るのは構わないけど普通に登場しよう。と、以前言ったはずなんだけどなぁ。

「あんまりに欲求が溜まりすぎちゃったからさぁ、わざわざここまで遊びに来てみたんだよね」

はろー、なんていい笑顔で挨拶してきた彼女に苦笑いを返す。長く伸ばした、というよりは伸ばし過ぎたんじゃないかと思うくらいの黒髪。所々にメッシュなんかも入っている。それをポニーテールに結い上げた、外見だけなら小さな少女。「…捺姫」「あっれ、反応薄くね?おいおいおい、せっかくこんな最高にかわいくてその上めちゃくちゃに強い女の子が遊びに来たんだからもっと喜んでよー」悲しそうに眉尻を下げるも口元はにやにやと笑っている。…まぁこの際外見や表情はどうでもいい。重要なのはその見た目は少女、中身は野生児である捺姫の周囲が見事なまでに破壊されていることだ。

「可愛い女の子は壁を壊して遊びに来たりしないんじゃないか」
「あは。そこはちーっと目を瞑ってくんない?ぼく、早くアラゴンに会いたくて…」
「なにかわいこぶってんの。修理代くらいは置いてってほしいんだけど」

わざとらしく首を傾げて俺を上目に見る捺姫にはもう慣れた。「んじゃ、まぁ修理代とかは置いといてさ」「置いとかないで拾ってよ」「そんなつまんねーこと言わないでよ、」ひゅおん。風を切る音が耳をすり抜けた、と思いきや背後で壁の崩れる音がした。溜め息を吐いて、拳だけで壁を粉砕した捺姫を見る。

「早く始めようぜ?…あんたもそろそろムラムラしてんだろ」
「その表現は止めてほしいとこなんだけ、ど!」

電撃を加減なく捺姫に撃ち込む。毎回のこと故にギルドのメンバーは早々に避難をしたらしい。ばちばちと、俺の放った電撃が唸る。煙に紛れて、小さな体躯が見えた。「…ん、んー……はあ、やっぱさぁ、」にやにや、いつものように笑って。「たまんねえよなぁ戦いってのは、」目は怖いくらいぎらぎらしていた。平然と立ち上がらないで欲しいなあ。全く、楽しくて嫌になる。

「あははははははっ!そんじゃーこっちもいっちゃおうかなあ!」
「相変わらずだよねぇきみは!」
「あんたもだろーがよッ!」

捺姫の鋭い爪先が俺の頬を切り裂いて血が舞う。そのまま彼女の右腕を掴み引いて、身体を床に叩きつける。「う、…っ!」見た通りの小さな身体は軽く跳ねて、「っと、危ねぇなあ」綺麗に着地をした。危ない、なんて呟きながらも捺姫はやっぱりというかなんというか、にやにやと楽しげに笑っている。こっちは頬からの出血が酷いというのに。

「おー、頬っぺた真っ赤だぜアラゴン。なんだよ、あんまりにぼくが格好いいから照れちゃった?」
「君が裂いたんだろ…」
「つーかあんた叩きつけるとか…肋と右腕イッちゃったじゃん」
「あれ…脆いんだな、身体だけは」
「その調子で加減すんなよ」
「…肋と利き腕折れてるのに続けられるのかい?」
「ああ?愚問中の愚問だぜその質問」
「だろうと、思った」

「知ってたかよアラゴン」「何を?」右腕をだらんと下げたまま、左腕をぱきぱき鳴らして捺姫が笑う。一歩、踏み込む。俺に向かって走り出す。左腕を振り上げ、そしてその手には焔が。「!」思わず、青ざめた。「ぼくって実は器用な両利きちゃんなんだぜ!」「両利きなんかより問題は焔だろ…!」焔を纏わせた腕を振り上げ飛び掛かってくる捺姫に慌てて電撃を撃ち込もうと構える。糸を絡めておくべきだった。複数の電撃を用意したかったけれど、間に合わないな。

「なあ、あれ今日はいつ終わると思うよ」
「知らん。なんで俺に聞くんだ」
「あの豆女に関しちゃ俺よりおまえのが詳しいと思ったから」
「俺は別にあの女とそんな関わりねえんだよ。むしろあれ女なのかよ。所属してるチームがそもそも違うだろうが馬鹿アンモ」
「ばっ…!?てめぇべにうめ、やる気なら俺はやってやんぞ!」
「パス。あれに巻き込まれたりしたらたまんねえだろ」

俺の電撃と捺姫の振るう拳が派手な音を立てる中、崩れた壁の向こうからぎゃんぎゃんと騒がしい会話、というよりは口喧嘩が聞こえてきたが気にしてなどいられない。「それでいいよ…っ壊すくらいの勢いでこい!ぼくに加減なんかしたら殺してやるんだから、なあああ!」凶悪に笑って特攻してくる捺姫に若干に引きつつ、自分も笑っているのに気づく。ああ、これは避けられない、か。少しでもダメージを減らすのに受け身をとるため構えた。
捺姫が今日いちばん楽しげに微笑んで、こちらもそれに応えるように笑い返して、それで──





「あ、おまえんとこの起きたぞアンモ」

気づけばアンモと、その友人らしい金髪に介抱されていた。
聞けばあの後捺姫は右腕のみならず左腕も衝撃でぼろぼろ、脚も電撃で麻痺してしまって動けなくなってしまったらしい。ふてくされたように床に伏して、渋々と「クラボの実、くれよ」と呟いたそうだ。なんと言えばいいのか…捺姫には保身だとか、そういった概念が無いのだろうか。俺は頬の傷の他にも出血が酷かったようで、そのまま気絶。頬に触れれば雑にガーゼが貼られていた。

「…とりあえず豆女は俺が知り合いんとこ背負って持ち帰るわ。修理代はそっちに請求してくれ」
「おう。まったく迷惑かけやがって」
「俺のせいじゃねーだろ!」
「おまえの知り合いだろうが!」
「それ言ったらこいつはおまえのギルドのメンバーじゃねえかよ!」

仲良いなぁ、と思っても口には出さない。いつもならからかって反応を楽しんでやるところなんだけど、いまの俺は満身創痍だ。激しい運動をしたなら休憩はしっかりと取らなければならないしね、なんて。

「…ねえ、捺姫は?」
「あん?おまえまさかまだ戦うつもりなんじゃねぇだろうな」
「とてもとても。貧血で立ち上がるのすら億劫だよ」
「あっそ。あのチビならほら、そこ」
「?」

指差された方向に、上半身だけを起こして目を向けた。「…なーに見つめちゃってんだよ、アラゴン」「え、いやだって何それ脚とか。立てないの?」「久々だったから肉体を酷使し過ぎたらしーよ。ほら、ぼくって精神の強固さに肉体が釣り合ってないからさぁ」「は…?」「ま、あんたが気にすることじゃねーぜ」戦闘が半端なところで終わったからなのか、まるで不機嫌ですと顔に書いてあるようだ。そんな捺姫の表情を見てか、アンモたちは空気を読んだらしく部屋を出ていった。

「あー、くっそ…足りないよ足りねぇよ全っ然足りねぇんだよ…ぼくはさぁ、もっと加減なく容赦なく全力で楽しみたいんだよ」
「うん、そこは同感だ」
「でも駄目なんだよなー…肉体がぼくの強さに追い付いてくんないんだ」
「君はたまに難しいこと言うよね…鍛えてるもんじゃないの?身体って」
「鍛えてはいるよ。この身体の限界まではね…なんつーかそういう次元の話じゃねーんだな、これが」
「はあ」

「そのうち話してやんよ」ぼやきながら、俺たちが暴れたせいでどこからか転がってきた木の実を一応使えはするらしい左腕で掴む捺姫。埃を払って噛みついた。「…ちゃんと埃とか払うんだ、捺姫って。吃驚した」「あんたぼくのことなんだと思ってんだよ!」「動物?」「そこまで野生に目覚めてねーよ!ぼくはこう見えても結構な綺麗好きなんだぞ!」「う、嘘だろ…?」「なんでそこまで疑問系なんだよ!」「あははっ」俺の軽口に律儀にツッコミを入れる捺姫に笑いを返しながら、体調が良くなったら今度はこっちから遊びに行ってやろうかなぁなんて考える。

「くっそ…すぐ治してすぐ遊びに来てすぐあんたなんかぶっ倒してやんだからな…」

木の実にかぶり付きながら不吉なことを呟く彼女。

「仕事行ってるかもしれないよ」
「仕事先まで追いかけてやるから安心しろよ」
「ふふ、じゃあ期待していようかな」

次は半端に終わらなきゃいいなぁ、なんてね。





ふたりにとっちゃ戦闘という名の遊びです。
ほっぺとか裂いちゃってすみませ…もう…捺姫ェ…!

でも本音すごい楽しく書かせていただきました!ありがとうございましたああ…!!