心臓の音がうるさくて止めてしまおうと思った。まるで予期していたかのように鋭利な刃物は何処にもない。けれど、どくんどくんと脈打つ臓器が煩わしくて。止めることが死に繋がるとしても良かった。正常な思考を保てない。櫂トシキという存在が何だったのか。今までどうして必死に足掻いていたのか。諦めてしまえば良いと誰かが囁いた。喉を掻き毟ってしまえば良いと。なのに未だ諦められない自分がいる。もう少し待っていればきっと助けてくれるはずだ。身体を動かそうとしても力が入らないのに。指一つ満足に動かせないのに。それなのに生にしがみつこうとしていることに自嘲した。やめよう。こんなにも辛い思いをして生きる必要なんてない。助けてくれる人なんて。


「櫂っ!」


まるで願いが神に届いたかのように、諦めようとしたその瞬間開かずの扉は開かれた。焦ったように部屋に飛び込んで来たのは、鮮やかな紅色。閉じ込められた世界に他人がやって来たという安堵感に、全身の力が抜けて床に倒れ込む。けれど悲鳴に近い声が名を呼び、しっかりと体を支えてくれた。


「大丈夫ですか、櫂!しっかりして!」
「…、…レン、…どうして、ここ…に…?」
「手紙が届いたんです、櫂を監禁したと。返してほしければ全国大会にAL4は参加するなって。僕と櫂の関係をある程度知っているようでした。でも良かった、櫂が無事で」


震える手でぎゅっと俺の身体をレンは抱き締めてくれた。


「……レン、…もっと…、…俺に…」
「…はい、いくらでも、抱き締めてあげます」


強くはない抱擁はとても優しくて温かくて、ぐちゃぐちゃだった思考は徐々に落ち着きを取り戻していった。今までレンに対して抱いていた恐怖も嫌悪も、一瞬にして消え去って。今はただ、レンに抱き締められている、一人ではないという安心感に包まれていたかった。




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