目を覚ますと俺は見覚えのない部屋にいた。まるでモデルルームのように生活感がない部屋だ。一体、ここは何処なのだろうと辺りを見回すと、テーブルの上にヴァンガードデッキが二つ置いてあった。クランを見れば誰なのか分かるかもしれない。そっとデッキを確認すると、驚くべきことに、かげろうとなるかみだった。自分の周囲でそれらを持っているのは一人だけ。つまりこの場所は。


「…櫂の家なのか?」


まだ訪れたことのない親友の家に、どうやら無断でお邪魔していたらしい。前後の記憶が曖昧なことを考えれば、恐らく夢であるのだろうが、そもそも夢と自覚している時点で夢なのかも怪しい。しかし瞬間移動したわけでもないし、櫂が招き入れたわけでもないだろう。ならば自分が思い描いた部屋なのかもしれない。なんと残念なことだ。今度会った時に話をすれば家庭訪問ができるだろうか。などと呑気に考えていたら、ガタッと物音が聞こえたので振り返る。そこには、部屋の主だろう男が扉の前に立っていた。


「おう、櫂ー。元気してたか?」


そういえば櫂は学校に登校していなかったから、顔を合わせるのは久々だ。ヴァンガードファイトが大好きなのは理解しているが、留年になったらどうするのかねえと少し不安にもなる。できれば一緒に卒業したいけど。まあ、そのあたりはちゃんと管理しているはずだと気にしないでいるのだが。


「いやそれにしても、お前ってヴァンガード以外にすることねぇの?他にも趣味を持つとかさあ、年頃の野郎のお部屋にしては、随分とシンプルすぎるだろー」
「………」
「櫂?」


何も言ってこない友人の様子に首を傾げる。
―――夢だからなのか?
マネキンのように櫂の体はピクリと動かない。
―――もしかして夢じゃない?
思い浮かんだ疑問に、冷や汗が流れる。ならば不法侵入で怒られてもおかしくない。いくら親友でも問題があるだろう。


「えーっと、あのさ、何か話してくれないと困るんだけど」
「…何だ、お前!?」
「え?」


耳に届いたのは間違いなく櫂トシキの声だ。しかし目の前に居る彼からではなく、自分の背後から声が聞こえてきた。振り向くと壁に凭れ掛かり、怯えた表情をする櫂がいて。扉の傍にも櫂がいるのに。
―――どうして櫂が二人もいるんだ!?
夢だとしてもあまりにも現実味があるせいか頭が混乱する。ふと目線を下に落として、さらに訳が分からなくなった。扉の前に立っている櫂の手には、まるでゲームにでも出てくるような長剣が握られていたのだ。そちらの櫂は無表情のまま歩き出す。向かう先は分かっていた。


「まっ、待てって!櫂!」


止めようとして櫂の腕に手を伸ばした。けれどするりと手は櫂の体を擦り抜けた。触れられないのだ。もう一度、今度は羽交い締めにしようとするも結果は同じ。そんなことをしている間に櫂はもう一人の櫂の前に辿り着き、そして躊躇いなく怯える櫂に剣を突き立てた。溢れ出る血が見えて目を背ける。


「…は、あはははは!」


長剣を持つ櫂は壊れたように笑い出す。己と瓜二つの存在を殺めたのに。震えた。ガタガタと情けない程に震えた。初めて櫂トシキに恐怖を感じた。櫂は返り血が付いた指をぺろりと舐める。そうして満足気に微笑んで、こちらを向いた。俺の右隣には櫂がいた。左隣にも櫂がいた。標的と見定めて血塗れの櫂は剣を振り下ろす。どうすることもできないまま、俺は剣を持つ櫂が何をするのか見ることしかできなかった。


「…やめ、ろよ…櫂…何で、何で」


何でそんなにも自分を殺すんだ!


「―――!」


目を覚ますと自室のベッドにいた。鳴り響く時計のアラームを止めて起き上がると、Tシャツは汗でびっしょりだった。嫌な夢だった。起き上がってカーテンを開けると雲一つない青空が広がっているのに、俺の心はもやもやと曇ったまま。嫌な予感がする。ただの夢なんかじゃない。ハッキリと鮮明に記憶に焼き付いた夢は、数日会っていない櫂に何かあったことを伝えているのではないかと思って。すぐさまカードキャピタルに行く準備を俺は始めた。


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アニメでは三和くんは櫂くんの家を訪れたことがありましたっけ?


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