強くなんてなかった、守るつもりで、守ってもらっていたんだ。徐々に白くなる肌と濁る瞳。吐き気を催す臭い。飛び散った肉片と血。過程は違えど結末は変わらない。逃れられない、助けられない。最初は泣き叫んだ。臆病で何も出来なかった自分を悔やんだ。その次は声が出なかった。まだ努力が届かないのかと自分を責めた。そうして何度も何度も繰り返した。次第に心が冷えていくのが分かった。かつて出会った頃の櫂トシキはいなくなった。周囲からは冷徹非道な人間だと囁かれた。けれど痛みは感じられなかった。人間ではないことに後悔はなかった。未だに助けられないことだけが残っていた。


「櫂くんは変わらないよ」


俺は変わったという誰かの言葉にアイチはそう答えた。


「僕も最初は分からなかったけど櫂くんは櫂くんだから」


手足が小刻みに震えて息が絶え絶えになるも、その場から動くことが出来なかった。アイチ、アイチ、アイチ。声にならない言葉が次々と出てくる。目から零れ落ちそうになる滴を手で拭った。君がいるだけでどれほど救われたのか、君には分かるまい。だからこそ闇は深まる。助けられなかった己自身が憎くてたまらないと。どうしてこの手が届かないのかと。


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時をかける櫂くん

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