置いて行かないでと手を伸ばす。どうしてこんなにも必死に、息を切らしているのに、足が震えているのに、走ろうとするのか。小さくなっていく背中を見て、襲い来る孤独と恐怖から逃げるように。そう、追いかけているのではない。逃げているのだ。目標などなかった。何にも負けないよう、強さを欲しているだけ。そこに理由など見つけられない。誰にも敗北してはならないと、自分自身に言い聞かせているだけの、自分で自分を縛っている、強迫観念のみ。


「だから弱いんですよ」


もう走れないと膝をついた俺の前で少年は優しく微笑んだ。


「そんな有様では先導アイチにも雀ヶ森レンにも勝てません」
「…だから、どうした。何が言いたい」


尋ねると少年の口元が歪み眼前に掌を翳された。ポゥと放たれた光を見た瞬間、底なし沼に沈むような感覚に陥る。けれど救いの手など差し伸べられるはずもなく、ゆっくりと足から頭までズブズブと落ちていく。不思議と、怖くはなかった。もう二度と這い上がれないかもしれぬ恐怖も、引きずり上げてくれる人がいない孤独も、そこにはなかった。あるのはただ、心が力で満たされていく心地良さだけ。

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