50万打フリリク企画 | ナノ


▼ ノットイコール

鳴瀬はよく言う。自分のことをかっこいいだなんて思っているのは、きっと俺ぐらいだと。

確かに彼はいわゆる「モテモテ」という形容詞が当てはまるようなタイプではない。女の子の影もちっとも見当たらない。

問題なのは、本人がそれを自らの容姿に対する正当な評価だと捉えていることだ。

事実は全く違う。

口数は少ない。高校生らしく友人とバカ騒ぎするわけでもなく、放課後も休日も部活に明け暮れ娯楽らしい娯楽も知らない。おまけに背は高いわにこりともしない鉄仮面だわで人当たりのいい風貌でもない。

つまり、鳴瀬はとにかく「とっつきにくい」タイプの人間なのだ。

――とっつきにくいというのは、最初のとっかかりが難しいだけで。

「……」

俺は先程から視界の端にちらついている女子たちの方へ視線を向けた。

「ほら、鳴瀬くんあそこにいるよ。行ってきなって」
「いやいや、試合前で集中したいだろうし、邪魔したくないし……」
「わざわざ休日にこんなとこまで来て応援しにきたのに、何も言わずに帰るつもり?頑張ってって言うだけじゃん」
「でも」
「応援されて迷惑なんて人いないって」

俺が迷惑するんだけど、と心の中で毒づく。

同じクラスの女子たちだった。向こうは俺には気が付いていないらしく、それをいいことに彼女たちの会話に耳をそばだてる。

「私がここにいる理由とか聞かれたらどうしよう」
「鳴瀬くんの応援に来たって言えばいいんだよ」
「そんなこと言ったら好きってばれちゃう」
「ばれてもいいじゃーん」
「いやだよ!」
「もしかしたらここから恋が始まっていくかもよ?まずは一歩一歩ね、距離を詰めていくのよ」
「ないないない!大体鳴瀬くんにもう彼女がいたりしたら、それこそ迷惑になっちゃうよ」
「いやー、いないでしょ」
「だって鳴瀬くん、真面目だし、剣道してるとことかかっこいいし、優しいし」
「知ってる知ってる。体育で足くじいたときに、鳴瀬くんが保健室に連れて行って手当してくれたんだよねーそれで好きになっちゃったんだもんねー」
「そ、それだけじゃないよ。教科係で重いプリントの束運んでるときとか、いつも気がついて手伝ってくれたり、傘貸してくれたりとか、他にもいっぱい……」

――鳴瀬のバカ。なんでそういうことすんの。ベタすぎるわ。少女漫画か。

「……鳴瀬くん、本当に優しいんだよ」

そう。

鳴瀬は俺とは違う。

俺みたいに見た目だけで判断されたりしない。たくさんの女の子に言い寄られたりチヤホヤされたりしない。

鳴瀬を好きになる女の子はいつも、本気だから。

最初はとっつきにくくても、長い時間をかけて少しずつ鳴瀬のことを知っていって、ちゃんと鳴瀬を見て、本気で鳴瀬を好きになる。

「だったら大丈夫だよ。鳴瀬くんならちゃんとあんたの言葉を受け止めてくれるって。頑張ってって言うだけでしょ。ほら行ってきな」
「……うん」

彼女は俺には気づかないまま、真っ直ぐに鳴瀬の方へ駆けて行った。ふわりと女の子特有のいい香りが鼻先をくすぐる。

「鳴瀬くん」

彼女の呼びかけに気が付いた鳴瀬が振り返る。予想もしていなかった人物がそこにいたことに驚いたのか、少しだけ目を瞠った。

「あの、鳴瀬くん、試合これからだよね。ごめんね邪魔して」
「いや、こちらこそこんな遠くまで」
「ううん!それはいいの!たまたま近くまで来たから…えっと、これに勝つと次は地方大会だっけ?」
「相手も強豪だから、勝てるかはわからないけど」
「鳴瀬くんなら大丈夫だよ。いつも一生懸命練習してるし。折角だし、試合最後まで見てくね。応援してるから」
「ありがとう。すごく嬉しい」

俺はそんな二人の様子を後目に、ぼそりと口の中で罵倒の言葉を呟いた。

「……鳴瀬のバーカ」

――鳴瀬はモテない。だけどそれは、鳴瀬を好きになる人がゼロだってことじゃない。



試合が終わった後、すっかり暗くなってしまった道を二人で歩く。

「さっき話してた子、誰?」

……なんて、相当鬱陶しい台詞だ。自分で言ってて虚しくなる。

「誰って、同じクラスだろ。覚えてないのか」
「なんで同じクラスの子が鳴瀬の試合を見に来てるわけ?わざわざ休日に、こんなとこまで」
「たまたま近くで用事があったから、ついでに寄ってくれたらしい。この間、学校で壮行会があっただろ。それで覚えていてくれたみたいだ」
「そんな言い訳、本気で信じてんの?」
「言い訳?」

鳴瀬はわけがわからないといった表情を浮かべ、立ち止まった俺の顔をじっと見つめ返してきた。

「どうして言い訳をする必要があるんだ?」
「あの子が鳴瀬のことを好きだからでしょ」
「は?」
「好きだから、休日にわざわざ遠く離れた試合会場まで来てくれたんでしょ」
「お前はまたそういう……」
「事実なんだってば!」

思ったよりも大きな声が出てしまう。自分でも驚いたが、鳴瀬はもっと驚いた顔をしていた。

「鳴瀬は全然わかってない」

イライラする。俺の他に鳴瀬を好きな人がいることも、それに気づかない鈍い鳴瀬にも、いちいち嫉妬してしまう自分にも。

「俺、男だよ」
「……?見ればわかるが」
「男なのに鳴瀬のこと好きなんだよ。女の子じゃないよ」
「?」

男だとか女だとか、どうでも良かったはずなのに。

――なんにも言えなかった。

あの子の後姿を黙って見ていることしかできなかった。鳴瀬は俺と付き合ってるんだよって、声を大にして言いたかった。

いっつもいっつも、俺ばっかり。

「いっつも俺ばっかり、鳴瀬のこと好きじゃん」
「八名……」
「女だったら良かった。女の子だったら良かった」
「……」
「俺が女だったら内緒になんてしなくていいし、堂々としてられるのに。男だから、男だから」

鳴瀬は俺のだって、言えたとしてもそれは冗談になってしまう。冗談としてしか言えない「好き」だなんて、そんなの悲しすぎる。

「男だから、なんにも言えない」

本気で言うことができない。黙って見ていることしかできない。

「……八名川」

鳴瀬は突然、俺を抱きしめた。

「!!」

驚いて固まる俺の身を、鳴瀬はその大きな腕ですっぽりと覆ってしまう。

「ごめん」
「……」

汗の匂いがしたけれど、ちっとも不快な気持ちにはならなかった。それどころか、もっと近づきたいとさえ思えた。

「お前がそこまで悩んでいるなんて、知らなかった。気が付かなかった。ごめん」

ぎゅう、と痛いくらいに抱きすくめられる。道端で抱き合っている男子高校生なんて傍から見れば不審極まりない絵面だろうが、珍しく彼の方からそんな風にされることが嬉しくて、まぁいいかと思う。

「鳴瀬……」
「俺は応援するから、好きなようにすればいい」

――応援?

「……何を応援すんの?」
「お前は自分の性に悩んでいて……女性になりたいんだろう?」
「……」
「どうしてもっと早く相談してくれなかっ……いや、そうだな。言い辛いか。デリケートな問題だからな」
「……あの」
「俺のことは気にしなくていい。女性であろうと男性であろうと、健康でいてくれるならそれが一番だ」
「健康……」
「だからそんな顔をするな」

どうやら彼は、盛大な勘違いをしているようだ。

「ぶふっ」

堪え切れずに彼の腕の中でふき出してしまった。

「八名川?」
「あのさ」
「なんだ」
「鳴瀬は俺が男でも女でもどっちでもいいの?」
「いい」

即答だ。

「そっかぁ」

俺は嬉しくなって、きつくその身体を抱きしめ返す。

「じゃあ俺、やっぱり一生このままでいいや」
「……いいのか?」
「うん」
「俺は気にしないぞ」
「鳴瀬」
「ん?」
「大好き」

何だ急に、と鳴瀬が言った。

急にじゃないよ、ずっと好きだよ、と俺は言った。



「おい……」

艶っぽい吐息混じりの声がする。

「ん……?」

口の中に含んでいたそれをゆっくり舐めあげながら外に出すと、頭の上に置かれていた指先がくしゃりと俺の髪を乱した。気持ちいいのかな。かわいいね。

「それ、やめろって言ってるだろ……」
「なんで?」
「……せめてシャワーくらい浴びさせろ。汚いから」
「やだ。匂いが消える」
「お前なぁ」

抗議の声を無視して、再び口で咥えこむ。じゅる、と唾液と一緒に先端を吸ってやれば、ぬめった液体が舌の上に広がった。

「ん、んぅ、ふ……っ、んぐ」

あー、もう。おっきい。エロい。こんな鳴瀬、誰にも見せらんない。見せてやんない。俺だけが知ってればいい。

「……っ」
「んむっ」

折角いい気持ちでしゃぶっていたのに、やめろと言わんばかりに鳴瀬はぐいぐいと俺の額を押してくる。

「なに、もう……」
「……」

鳴瀬は無言で俺を抱き上げると、今の今まで俺が舐めていたその熱い塊を入口に押し当ててきた。

「もう、いい」
「やだ。もっとする」
「いいから」

そして耳元で囁く。

「……挿れたい」
「……っ」

ぶわ、と全身に甘い疼きが広がった。

――そんなこと、言われたら。

「……我慢できないの?」

ドキドキしてはち切れそうな胸の鼓動を必死で押し隠し口元を緩ませると、鳴瀬の眉間に皺が寄る。俺が余裕そうなのが気に入らないようだ。本当は余裕なんてこれっぽっちもないけど。

「んん……ッ、あ、あ……!」

向かい合わせで膝の上に乗っけられたまま、挿入が開始された。太い切っ先に内側を広げられるのがたまらなくて、力いっぱい鳴瀬の身体にしがみ付く。

「なるせぇ……」

すっかり蕩けてしまった俺の声を聞いて、鳴瀬がごくりと唾を呑むのが見えた。

「八名川……」

鳴瀬の指が汗に濡れた前髪をよける。そっと目を閉じると、露わになった額に口付けをしてくれた。

「なんか今日の鳴瀬、王子様みたい」
「……王子はお前だろ」

そこまで言って、鳴瀬は何かに気が付いたように顔をあげ、ごめんと謝罪の言葉を口にした。

「何が?」
「ええと、悪かった。王子とか言われたくないよな。別に男らしいって言ってるわけじゃなくて」

どうやらまだ勘違いしているみたいだ。

「あのさ、俺は……」

別に女の子に憧れてるわけじゃないんだけど、と言おうとしてそれを阻まれた。鳴瀬の手がつつっと背中を撫でる。

「な、鳴瀬……?」

その手付きの艶めかしさに戸惑ってしまう。一体どうしたって言うんだろう。普段こんな触り方、絶対にしないのに。

「……少し、考えてみたんだが」
「うん?」
「お前のこと、女の子みたいに扱ってみようと思う」
「え……っ」

――何言ってんのこの人。

「……どうして頬を染めるんだ」
「そ、それって」

それって。

「俺、男なのに……鳴瀬の女の子にされちゃうってこと?」
「嫌か」

ぶんぶんと首を横に振る。

そんなの、そんなの……。

「超興奮する……」
「興奮?」

ちゅ、と今度は自分から鳴瀬の額にキスをする。

「いいよ。俺のことめちゃくちゃにして?」
「めちゃくちゃにするとまでは言ってない」
「はぁ……俺、鳴瀬の女にされちゃうんだ……」
「お前の言うことは時々わからん」
「いいから、ほら」

鳴瀬はまだ何か言いたそうな顔をしていたものの、俺が首に腕を絡ませ誘うように自らへと近づけると、何を言っても無駄だと悟ったようだった。顔を寄せ、柔らかく唇を食んでくる。

「……ね、動いていい……?」
「……ん」

肩に両手を置いて腰を浮かせ、中に埋まったままのそれをゆっくり引き抜いていく。

「はぁ……っ」

がくがく震えながらその感覚に浸っていると、鳴瀬は俺の胸をぺろりと舌で舐めた。

「あぁ…ッ、ん、待って、それ、待って」
「……ここ舐めると、締まる」

ちょっと!なんでこういうときだけそんなこと言うの!

「動くんだろ、腰止まってる」
「だって、ぁ…っ、そこ、胸触られたら、むりぃ……っ」
「嫌?」

嫌じゃないって、わかってるくせに。

「ひぁっ、あ、あっ、んんっ」

硬くなった胸の粒に、鳴瀬の歯が食い込んでくる。芯のあるその感触を楽しむかのように舌先で転がされ、堪え切れない声が出た。

「八名川」

鳴瀬が動かないでいる俺を咎める。そんなこと言われたって、無理なものは無理だ。俺は小さく首を振った。

「も、もぉ、鳴瀬がして、動いて、足んな……あ゛うぅッ!!」

言い終わる前に下から一気に突き上げられる。

「う、うぅ……っ、あ、うそ、うそうそ……っ」

込み上げる射精感に咄嗟に自分のペニスを握りこんだ。そこはもうどろどろで、後から後から先走りの液が溢れ出してきている。鳴瀬がそれを見てふっと笑った。

「女の子みたいだな」
「へ……?」
「今のお前。女の子みたいに、濡れてる」
「……っ」

からかうような口調にまた頬が熱くなる。

時々、たまに、少しだけ意地悪になる鳴瀬がものすごく好きだ。俺しか知らない一面。

鳴瀬は、優しいだけじゃない。

「んっ、ん……っ、あぁっ、あ……ッ、あ、はぁ…!」

ぐちゅっ、ぐちゅっと激しく中を掻き混ぜられ、頭が真っ白になるような快感に支配される。

「いい、いいよぉ、鳴瀬…ッ、なるせぇ、なる…っあ、ぁ、あっ」

気持ちいい、気持ちいい、とうわ言みたいに繰り返す俺の顔を、鳴瀬がじっと見つめていた。多分というかもうこれは確信してることなんだけど、鳴瀬は俺の顔が好きなのだ。

「あ゛…―――っ、あっ、んんっ、ん゛!!」

強く腰を掴まれ、最奥まで無理矢理こじ開けられ、俺はもう半分泣きながら髪を振り乱した。

「い、いくぅ、むりむりむり……っイっちゃうから…ッ、もっとぉ、もっと…っ!!いく、ねぇ鳴瀬、なるせ……!!」
「……っどっちなんだ」

鳴瀬は俺の頭を掴んで引き寄せ、小さな声で囁いた。

「……っ」

――鳴瀬のバカ、そんなこと、今言わないでよ。

「ん゛ん゛………〜〜〜〜〜〜ッ!!!」

ちかちかと目の前に白い光が飛ぶ。俺は鳴瀬のモノをきゅうきゅうと悦んで締め付けながら、この上ない絶頂を迎えた。

「……っはぁ、やながわ……八名川、おい……?どうした、八名川、八名川!?」

そして、そのまま気絶した。



「あは……まさかセックスが気持ち良すぎて失神しちゃうなんて。本当にこんなことあるんだね」
「笑いごとじゃない」
「ごめんね。びっくりした?」
「当たり前だ」

鳴瀬はまだ心配が拭えないのか、何度も俺の額や首筋を手のひらで触って確かめてくる。余程驚いたのだろう。俺も驚いた。

「でも鳴瀬にも原因はあるんだからね」
「俺が何をしたっていうんだ」
「あんなこと言われたらそりゃ失神したくもなるよ。嬉しくて」
「……あんなことって」
「えー?だから、さっき鳴瀬が……むぐっ」
「言わなくていい」

薄っすらと彼の耳が染まっているのに気が付いて、俺はまた笑った。恥ずかしがるくらいなら言わなきゃいいのに。

――自分ばっかり好きだなんて二度と言うな。思うな。腹が立つから。

「俺、さっきの台詞だけで一週間は生きられるなぁ」
「なんだそれは」
「でももう一回言ってくれたらもっと生きられるなぁ」
「言わない」
「言って」
「言わない」
「言ってよ」

鳴瀬は渋い顔をして黙っていたが、にこにこと微笑んでいる俺を見て観念したのか、しばらくしてから「気が向いたらな」と言った。

end.




しそささみさんリクエストで、「切ない→甘えち展開で、鳴瀬君が天然たらしを発揮してしまい八名川君がヤキモチをやいてしまいすれ違うが最後は仲直り甘えち」でした。大変お待たせしました。しかも切なさ成分が心なしか少なくなってしまったような気がします……すみません……。重ねてお詫びします……。
書くたびに八名川の王子様成分が薄くなっていきますね。最早鳴瀬の方が王子様なんじゃないかっていう……。

素敵なリクエストをありがとうございました!楽しんでいただけますように!

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