50万打フリリク企画 | ナノ


▼ 02

「信じてくれた?」

少年が屈託のない笑みを浮かべたまま、俺の隣に移動してくる。

「ちょ、ちょっと、近くないか…」
「別にいいじゃないですか。今からもっとすごいことしようとしてるんだし…もしかしておにーさん童貞?」
「んなっ!?」
「あ、違いますよね」

そんなわけあるか。俺が童貞だったら気持ち悪いだろ。何歳だと思ってるんだ。

「良かった。俺が初めてとかだったらさすがに申し訳ないんで」
「…男とは、したことない」

やり方を聞いたことくらいはあるが。

「大丈夫。俺がリードするし」

リードって。こんなに年下の少年に主導権を握られるというのも、それはそれで嫌な気もする。

彼はこんな風にいきなり男を連れ込んで、行為をいたすことに慣れているのだろうか。俺が高校生の時はそんな乱れた生活なんて送ってなかったぞ。

それに。

「…俺が君に手を出したら、その…犯罪では?」
「あはっ、別に誰に言うでもないし…バレなきゃいいんですよ」

それはつまりバレたらお終いということでは。

勢いに飲まれてついてきたものの、本当にこのまま進んでも良いのかどうか。彼は無邪気に笑って見せるけど、俺は未だ決心がつかない。

うんうんと唸る俺に、少年は呆れたような声を出した。

「もう…おにーさん、用心深すぎ。堅実なのは良いことだけど、それだけじゃ味わえないものも沢山あるんだよ?」
「味わえないものって…」
「例えば、快楽、とかね」

少年の手が、俺の顔に伸びる。白くて細長い彼の指先は、ドキリとするほど冷たかった。

「ここまでついてきちゃったんだから、とりあえず一回やってみようよ」

また、だ。

あの妖艶な顔。たった今まであどけなく笑っていたくせに、一体どこにそんな引き出しを持っているのか。甚だ疑問である。

ころころと目まぐるしく変わるその表情に、ついていけない。心臓が脈打つ。

「キモチイイこと…したいでしょ?」
「…っ」
「俺、おにーさんの名前いっぱい呼びたいの」

だから、そろそろ名前教えて?

温度の低い指先が唇をなぞった。たったそれだけのことなのに、背筋にびりびりと何かが走る。

だから…この少年のこの色気は何なんだ。

圧倒される。何も考えられなくなる。

気がつけば俺は、言われるがままに口を動かしていた。

「…吉海」
「ヨシミさん?」
「そう。大吉の吉に、海って書いて…吉海」
「良い名前だね」

苗字は言うべきかどうか迷ったが、今はまだ言わないでおこうと思う。必要であればいつでも言えるし。

「俺は葵。くさかんむりのアオイ」
「葵、くん」
「呼び捨てでいいですよ。吉海さんの方が年上だし」
「じゃあ…葵」
「はい」

少年…葵は嬉しそうに笑う。こうして名前を呼び合っていると、今からしようとしていることを忘れそうになってしまいそうだった。

だが俺は、今から彼を抱くのだ。間違いなく。

「吉海さん、緊張してる?」

葵は少しからかうような口調で言った。

「するよ…しない方がおかしい」
「まぁ、大丈夫だよ。女の人みたいに濡れるわけじゃないから、念入りに前戯してくれればいいってだけだし」
「前戯…」

さらりと破廉恥な言葉を口に出す彼に、俺はすっかりたじたじである。

「あ、ローションもありますよ。あと必要であればバイブとか…ローターとか…吉海さん、SMとか好きな方?」
「ま、待て!普通でいい!普通で!」
「そう?いや、男相手が初めてって言うからさ。萎えないように気分を盛り上げるっていうのは大事だと思うんだ」

確かに彼はちゃんとした男で、今まで付き合ってきたような女性とはまるっきり違う。それは一目瞭然だ。

背だってそれなりに高いし、制服の袖から覗く腕はちょっと骨ばっている。紛れもない男の身体。

でも、それでも。

「…本当に、君を抱くだけで給料をもらえるのか」
「はい。嘘はついてません」
「なら、責任もって最後までする。途中で投げ出したりはしない」

こんなうまい話があるか、と疑う気持ちがなくなったわけではないが、目の前のこの少年を何故だか信用したいと思った。

彼が嘘をついてるようには見えない。俺はダメ人間ではあるが、昔から人を見る目だけはある。…多分。

「ふふ。やっぱり、吉海さんは俺が想像していた通りの人だった」
「想像?」
「そう。責任感が強そうで、真面目で、…馬鹿がつくほどお人好し?」
「馬鹿って…」

それ、貶してるだろ。

「だって初対面のこんなガキがセックスしてください、なんて言っても普通の人は受け入れないでしょ」
「そ、そうだな…」
「ま、俺はそんなとこがますます好きになっちゃったから…今更逃がさないけどね」

とりあえずキスでもしてみます?と葵が俺の膝に乗ってきた。首にするりと腕を巻きつけられ、距離が近くなる。

「いいですか?」

ドキドキと心臓が高鳴っていく。キスなんてたかが唇と唇と合わせるだけじゃないか。落ち着け俺。そう言い聞かせるも、中々鼓動は治まってくれない。

「…いいよ」

ええい、覚悟を決めろ。動揺しているのを悟られないように、できるだけ抑揚のない声で返事をした。

目を伏せた葵の顔がゆっくり近づいてきて、ふにゅりと柔らかいものが口に触れる。

「…ん」

しばらくそのまま動かずにじっとしていた。意外と平気、かもしれない。控えめに吐息を漏らす彼を、ちょっと可愛いとさえ思ってしまう。

普通に、普通に…。心の中で唱えながら、何度も何度も唇を重ねる。最初はバードキス。それから段々深いものへ。

「ふ、ぁっ」

恐る恐る舌を潜り込ませると、葵は素直に口を開けた。どうされるのが気持ちいいのかまだ分からないので、とりあえずいろいろなところを舐めてみる。歯列、頬肉、口蓋、舌の裏。

「んっんん、ぁ、ん」

どうやら舌を吸われるのが一番イイらしい。緩急をつけて刺激すれば、膝に跨った身体がぴくぴく震えた。

彼の唇は、まるで果実のように甘い。いや実際にはそんなことありえないのだろうが、少なくともいま、キスをしている俺にとっては。

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