50万打フリリク企画 | ナノ


▼ 嘘も方便

見慣れない小瓶が冷蔵庫にあるのを発見した。俺が買ったものでないことは確かだ。

一応ラベルらしきものは貼ってあるが、成分表示も商品名も何も書かれていない。栄養ドリンクかなにかだろうか。

「あぁそれ?媚薬だって。そんなものいらないよって話だよね」

手に取ってしげしげと眺めている俺に、馨は笑いながら会社の同僚に貰ったものだと言った。

「び、びや…」
「処分してくれて大丈夫だから」

媚薬、なんてものが本当にこの世の中にあるとは思わなかった。

というのがほんの数日前。

「…」

――ど、どうしよう。の、飲んでしまった。

いつものごとく、くだらないことで喧嘩をしてしまったその夜だった。

馨は仕事から帰ってきた俺の顔を見てもなにも言わず、さっさと部屋に戻ってしまった。温厚なあいつがそんな態度をとるのは珍しく、余程怒っているんだと思う。怒らせたのは俺だ。

なんとか仲直りする方法はないか。そしてふと目に入ったのが、件のあの媚薬だった。

もちろん、こんな薬に頼ったところで仕方がないことはわかっている。でも、ほんの少しでもいい。何かのせいにしてでもいい。素直になるきっかけがあれば、それで良かったのだ。

「…」

微妙だ。

おいしい、ともまずい、とも言えない独特な、薬草を思わせる味が舌に残っている。喉を通るときにもアルコールのような熱さを感じたが、今のところ身体には何の変化もない。

…まぁ、そんなに早く効果が出るわけがないか。というか一般的に媚薬ってどのくらいの時間が経てば効き始めるものなのだろうか。即効性?遅効性?

とりあえず風呂に入って、いろいろ準備して…いや馨がその気になるかはわからないけど、俗に言う「仲直りエッチ」的な展開に持ち込む方向で。

ごめんって謝って、俺が悪かったと頭を下げて、たまには素直になろう。いつも言えない分、今日は俺が頑張るんだ。

そう決意して、ひとまず風呂に入ることにした。

「ん…」

湯船で程よく身体を温めた後、持ってきたローションをたっぷりと手に馴染ませる。そのまま濡れた指を後孔に伸ばした。無論自分で弄ることに抵抗がないわけではないが、この際恥ずかしがっている場合ではない。

「…っう…く…」

できるだけその場所からは目を逸らしつつ、ゆっくり丁寧に中を掻き回す。いつも馨に弄られている部分を指の腹で重点的に擦ると、少しずつ気持ちよくなってきた。

自分の息づかいと濡れた音が浴室に反響する。部屋にいる馨には聞こえないだろうが、さすがに脱衣場まで入って来られたらバレてしまう程度に、だ。

「…はぁ…っ」

ここまで必死になる必要があるのか。

ぐちゅぐちゅと必死で自らの孔を広げてはいるものの、既にアホらしくなってきていた。しかし、ここで譲歩というか、努力というか…歩み寄る努力を怠ってしまうのは、それはよくない、と思う。

「あ…ッ!!」

あ…ちょっと、なんか、効いてきた、かも…。

身体全体がぽかぽかと熱を持ち始める。いつの間にか勃ちあがっていたペニスからは、とろとろととめどなく液が溢れだしていた。普段一人でするときはこんなに濡れない。ということは、先程飲み干した媚薬とやらの効果が現れたということでいいのだろうか。

「んんぁあ…っ!」

――なんだ今の声。

自分でも驚くほどの大きな嬌声が出て、思わず動きを止めた。そしてもう一度、ゆっくり中を擦ってみる。

「ふぁ…っ、あぁぁっ、あうぅ…っ」

全身を駆け抜ける鋭い快感に、甘い声が止まらない。抜き差しする速度が自然と早くなる。濡れそぼったペニスに手を伸ばし、ぎゅうと強く握りこんだ。

「んんぅ…ッ!!」

どぷりと押し出される白濁液に目を瞠り、慌てて指を引き抜く。

う、うそだ。いくらなんでも早すぎる。

「はぁ…っ、は、はぁ…」

たった今射精したにもかかわらず、屹立したペニスはそのまま熱く疼き続けている。しかもそれだけではない。指を抜き去ったことによって空になった内側が、物足りないとばかりに何もない隙間を埋めようと勝手に蠢いていた。

「やば…い、やばいぃ…」

これは、気持ちいいというよりは、むしろ苦しい。腰がガクガクしてうまく力が入らず咄嗟にバスタブを掴むと、淵に置いてあったローションのボトルを落としてしまった。

「ちょっと、なに騒いでんの」
「…!!」

さすがにうるさくしすぎたらしい。様子を見に来た馨の姿がドアの前に見える。

「良香?」
「か、かおる…」

変な声が出てしまった。

「…開けるよ?」
「あ…っ!」

待って、と言う前にドアが開く。

「…」
「…」
「りょ…、りょーかさん…?」
「…っ」

口にするのも恥ずかしいほどあられもない状態になっている俺を見て、馨は呆然と言うにふさわしい声を上げた。

「なに、して…」
「ごめん、なさい」
「え?」
「お、俺のこと、まだ怒ってる?」
「いや、それよりこの状況の説明を…」
「ごめん、謝るから…っ、ぁ、い、いつも、ごめん…」

じっとしていても辛いレベルになってきた身体の疼き。歯を食いしばって耐える俺の前に馨がしゃがみこむ。

「どうしちゃったの、良香」
「っく、あ、あの…っ俺、俺…」
「ん?なに?」

ぶるぶる震えてうまく話せない。上擦った声が恥ずかしい。

「お、俺、のせいで…馨のこと、怒らせた、からぁ…っ、あ、謝んなきゃって、ずっと、思って…」
「…」
「ひう…ッ!!」

ぺた、と額に彼の手のひらが触れた。

「…熱?風邪?」
「ち、ちが…っ」

駄目だ。もう限界だ。

「触って、さわ、って、馨…ッ」
「ちょ…」

額に触れていた手を引き寄せ、舌を這わせる。

「ん、ん…っ」
「どうしたんだよ本当に…」

唾液でべとべとになった指を唇から離し、馨の顔を見た。

「こ、これ、ゆび…濡らしたから、お尻、入れて」
「は…?」
「はやく…っ、早くして、待てない」

頭の中にあるのは早くこの熱をどうにかしてほしいという思いだけで、もう自分が何を口走っているのかさえも曖昧になる。

普段なら絶対にありえないような俺の言動に馨はひどく戸惑っているようで、「でも」だの「待って」だの言いながら視線を泳がせていた。

「は、はやく…っ、じゃないと、も、おかしくなる…ッ」
「…わかった」

焦れったくて焦れったくて泣きそうな声を出すと、馨は突然俺の身体を抱き上げた。驚いて咄嗟にしがみつくが、肌が彼の衣服に擦れる、その感触にさえ感じて声が出てしまう。

「かおる、シーツ、濡れ…っ」

連れて行かれた先は、馨の部屋のベッドだった。慌てて降りようとする俺を、馨の力強い腕が押さえつける。

「早くって言ったのはそっちだろ」
「んん…っ、ぁ、あ、んん」

唇を塞がれ、深い口付けが降ってくる。ねっとりと口の中を舌で嬲られてびくびくと腰が跳ねた。

「んはぁ…ッ、かお…馨、だめ、んぅっ、いっちゃ…」
「え?」

まだキスしかしてないのに?という表情で見下ろしてくる。あんな小さなビン一つでここまで敏感になるとは、自分でも驚きである。

「…すごいことになってる」

唇を離した馨が視線を俺の下半身に向けた。彼の言う「すごいことになってる」というのが見なくてもどんな状態なのかが想像できる。

「や…っ、み、見るな、見な…っあぁぁ―――!!」

生温かく湿ったものに性器を包まれ悲鳴をあげる。馨の口だ、と気がついた瞬間にはもう吐精していた。

「んぐ、良香…イくの、早すぎ…」
「ごめ…っ」

ためらいもなくその精液を飲まれ、恥ずかしいのにすごく嬉しくなる。たった今達したはずのペニスはまだまだ萎える気配がない。もう二回も射精しているのに、むしろどんどん敏感になっていくような気さえする。

「馨、まだ、もっと…っ」
「…ん?もっと欲しいの?指入れるよ?」
「ん、うんっ、欲しい、欲し…んぁぁっ、あっ、あっ、あううっ!!」

我慢汁と精液で濡れそぼった孔は、簡単に指を飲み込んでいった。馨もいつもより興奮しているのか、最初からぐちゅぐちゅと激しく掻き混ぜられる。

「やわらか…自分でしたの…?」
「うん、っうん、した、馨としたくて、自分で慣らしたぁ…っ」

あまりに強い快感に涙を零しながら叫ぶと、馨はさらにもう片方の手でペニスに触れてきた。がくがくと仰け反ってシーツを掴み、処理しきれそうにない快感に必死で堪える。

「あ゛ッ、あ、んんっ、いやぁっ、きもちい、いい、死ぬ、死ぬぅ…ッ!」
「っ良香…かわいい…」
「い、いく、また、またいっちゃう、あ、はぁっ、あ、んん!!」

ふいに太ももに硬いものが触れる。それが勃起した彼のペニスだと気づいたとき、全身に鳥肌がたった。

欲しい、とただ一つの願望が脳内を支配する。こんな硬く昂ったものを入れられたら、擦られたら、きっと自分は気持ちよすぎておかしくなってしまうだろう。だけど、そうなりたいと思った。

「馨…っ」
「うわ、痛…!」

ドン、と彼の身体を押し倒し、今度は自分が上に乗っかる。馨は突然の俺の行動に驚き目を丸くしていた。とにかくこの疼きを鎮めてほしい、馨と繋がりたいということで頭がいっぱいで、「恥ずかしい」とさえ思わなくなっていた。

「馨…」
「りょ、りょう、か…」

指が抜けて空っぽになった穴に、取り出した彼のペニスをあてがう。そしてゆっくりと腰を落とした。

「はぁ…っ、ん゛…〜〜〜〜〜〜ッ…!!」

大きく張り出したカリが前立腺を押し潰した瞬間、また射精を迎える。目の前がちかちかして、これでもかというくらい強く馨のものを締め付けた。馨が俺の下でビクッと身体を強張らせる。

「うあ、きっ…つ…!!」
「ひぁぁっ、あっ、あっ、イく、イってるぅ…っ」
「待っ…良香、ほんとに…止まって…やばい、やばいから…」

イくのを堪えているのか、馨はぎりぎりと歯を食いしばってこちらを見上げた。汗を浮かべて射精を我慢する馨の顔はなんだかすごく可愛くて、俺はその言葉を無視してゆっくりとピストンを開始させる。

「ん…っ、んっ、んっ、か、かた、かたい…っ、や、止まんないぃ…!」

ガチガチに滾ったペニスが内側を容赦なく拓いていくのが死にそうなほど気持ち良くて、声が抑えられない。俺の性器は一向に萎える気配はなく、腹につくほど反りかえったまま精液とも先走りともわからない液を零しけた。

「…ッ出る…」

低く呻くような声を上げたかと思うと、馨は突然起き上がって俺にキスをした。ちゅっちゅっとついばむようなキスを交わしていると、腹の中がじんわりゆるく濡れていくのがわかる。

出された。出した。馨の精液。

「か、おる…イってる…?」

うっとりと中を満たされる感覚に酔う。問いかける声は甘く掠れていた。

「はぁ…っ、良香…」

ぎゅっと目を閉じて射精を味わっている馨の表情は、とんでもなくいやらしい。

「ん、ごめ…我慢、できなかった…」
「ううん…」

はぁはぁと息を荒げる馨を抱きしめ、頬や首筋にキスをする。

「馨、好き…」
「えっ?」
「大好き」
「良香…」

馨の顔が目に見えて綻んだ。

「喧嘩…ごめん。俺、馨と仲直り、したい」
「…うん。俺も、ごめんね」

こんな言葉一つで喜んでくれるのなら、もっと早く言えば良かったなと反省した。




「え?この間の媚薬飲んだの?」

あれから何ラウンドも経てようやく熱が治まったあと、我に返った俺は事情を説明する。あれは媚薬のせいだと言い訳することによって、少しでも羞恥心が薄れるのではないかと思ったからだ。

「なんで?」
「…素面で素直に謝れる自信なかったから…媚薬って言ってもちょっとやらしい気分になるくらいだと思って…勇気づけっていうか、仲直りのきっかけになればと…」
「良香らしい」

まさかあんなになる薬だとは予想外だった、と歯切れ悪く話す俺に、馨はキスをして微笑んだ。もう怒ってはいないようで、むしろご機嫌なその様子に内心安堵する。

「でもあれ媚薬っていうか…ただのお酒だけど」
「は?」

――媚薬じゃない?お酒?

「アブサンだったかな…とにかくリキュールをそれっぽい小瓶に入れただけ」
「は?」
「度数が高いから普通は薄めて飲むんだけど…そのまま飲んだの?」
「だって、馨が媚薬って…」
「うん。俺も最初同僚からもらったときはそう聞いてたんだけどさ、後であれただのお酒だからってネタ晴らしされて」
「な、なんでそれを言わないんだ」
「ごめんね。すっかり忘れてた。っていうかとっくに処分したと思ってたし、まぁアブサンって確かに媚薬酒って言われるくらいだから、あながち間違いじゃないかなって」
「でも、でも、結局はただの酒なんだろ」
「うん」

じわじわと全身が熱くなってくるのがわかる。

――媚薬だって思ったから、だから俺は…っ!!

「あっ、ちょっと布団とらないでよ」

二人で入っていた布団を力任せに奪い取り、身を隠すように覆い隠した。恥ずかしくて馨の顔を見ることができない。

「恥ずかしい?」
「…うるさい」
「俺はものすごく得した気分」

す巻きになった俺を布団ごと抱きしめ、馨はくすくすと笑い声を漏らす。

「お風呂で自分で弄ってるとこ見れたし、ちょっと舐めただけでイっちゃうし、おまけに騎乗位まで…良香、すごくかわいかった」
「かわいくない」
「俺と仲直りしたくて媚薬飲んだんだ?」
「違う」
「うそ。怒らせてごめんなさいって、ずっと謝らなきゃって思ってたって泣いてたじゃない」
「泣いてない」
「大好きって言ってくれた」
「…」

それは、言った、けど。

「良香、普段あんまりそういうこと言ってくれないから…めちゃくちゃ嬉しかった」

ぎゅう、と抱きしめる腕に力が込められた。潜っていた顔を恐る恐る覗かせると、馨はまるで小さな子どもを見ているかのような、愛しいものを愛でるような、優しい顔でこっちを見つめていた。

「…これからは」
「うん?」
「もっと、その…言えるようにする。薬なんかに頼らないで、普通に」
「何を?」

わかっているくせに聞いてくる辺りが意地悪だ。

「好きだ、って」

仕返しとばかりに不意打ちでキスをしてやった。馨はやっぱり笑っていた。そもそもなんで喧嘩したんだっけと原因を辿ろうとしてみたけれど、今となってはそんなことはどうでもいいなと思い直し、それ以上考えることをやめた。

end.




ぽにこさんリクエストで、「媚薬(偽物)ネタでお願いします。普段素直になれない不器用な受けが攻めの為に頑張ろうとお薬(受けは本物だと信じてる)使ってかなり大胆になっちゃう甘々でお願いします!」ということでした。
大変お待たせしてしまってすみません…媚薬=お酒という結構定番なネタになってしまいましたが如何でしょう…。アブサンは飲んだことがないので、これを機に一度チャレンジしてみたいなと思いました。

余談ですが良香も馨も社会人で、二人は違う会社に勤めてます。馨はなんとなくケミカルな職業についているのでは…というぼんやり設定です。二人の名前は「かおる(かおり)」という音から決めました。

楽しんでいただけますように!素敵なリクエストをありがとうございました!

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