50万打フリリク企画 | ナノ


▼ ブラザーコンプレックス

兄は昔から変だった。年が離れているせいもあるのかもしれないが、物心ついたときにはもう、兄の俺に対する態度は兄弟愛というものを飛び越えていたように思う。

小学生まではまだ良かった。優しく甘やかしてくれる兄が好きで、友達と遊ぶよりも兄といた方がずっとずっと楽しかった。

しかし成長していくにつれて、俺は気がついたのだ。

俺の兄は、どうやら頭がオカシイらしい。

「敦、新しくバイト始めたんだって?偉いなぁ、これ兄ちゃんからのご褒美な」
「単発のバイト行ってくるだけだから」

「なぁ敦、この時計お前に似合うと思って買って来たんだ」
「先週も同じようなの買ってきたじゃん」

「夏休みになったら兄ちゃんとどっか行こう。そうだなーハワイとかはどうだ?」
「行きません」

大企業に勤めている彼は、確かにお金がある。しかし稼いだお金の大半を俺につぎ込み、挙句の果てに「兄ちゃんは敦のために働いているんだ」と声高らかに宣言までされたときは、心の底から引いた。ドン引きだった。

優しくてイケメンで何でも器用にこなし、かつ高収入とくればそりゃあもう世の女性が放っておくはずがない。だがそんな女性たちも、兄の俺への執着っぷりを見て離れていく。当たり前だ。

兄は俺が好きなんだそうだ。家族としてではなく、一人の男として。

そして俺は、そんな兄に日々振り回されっぱなしなのである。

「おいしい?」
「…」

目の前でにこにこと爽やかな笑みを浮かべる兄。そんなに見られると落ち着かない。俺はカチャリとフォークを置いた。

「…あのさ、たっくん」

普段は呼び捨てにしているが、あえて小さい頃の呼び名を口にする。彼がでれっと頬を緩ませたのが分かった。

「ん?」
「毎週毎週俺を連れ出して、こういうとこ連れてくるの止めて」
「えっ、だって敦、この間テレビ見てこの店の料理がおいしそうって…」
「言ったけど、別に本気で食べたいとか思ってるわけじゃないから。もっと他のことにお金使いなよ」

溜息を吐きながらそう言うと、それまでご機嫌だった彼の顔にありありと絶望の色が浮かぶ。

「敦…反抗期か!?」
「違うよ。俺もう20歳だよ」
「ま、ま、まさか俺のことを嫌いになったとか…」
「…はぁー…」

嫌いになったとかそういうことじゃないんだって。どう考えてもおかしい。普通じゃない。俺は平々凡々な大学生で、平々凡々な生活を送りたいだけなのに。

「とにかく、俺来週から試験期間で忙しいし。ほっといて」
「いやだ」
「へ?」
「百歩…いや一億歩譲って俺のことを嫌いになっても構わない」

一億歩って。単位が一気に跳ね上がりすぎだろ。

「でも、敦の傍にいることだけは許して」
「…」
「放っておくなんてできない。敦は俺の全てなんだ!」
「ちょっ、声でかいって」

他の客に聞こえたらどうするんだ。慌てて彼の口を塞ぐ。

「あつし…」
「えっ」

唇を覆ったその手を掴み、兄は俺を熱い眼差しで見つめてきた。やばいと頭の中で警鐘が鳴り響く。どうやら自分から触れてしまったことで彼を刺激してしまったらしい。

「敦、好…」
「待った!それ以上言うな!」
「…」
「…つ、続きは、後で、聞くから…」
「!」

あぁ、もう。俺のバカ。



「んんっ、ぁ、まっ…待ってってば!」
「いやだ」
「ふ…っ、あ、んん…!んーっ!!」

とある(高級)ホテルの一室。有無を言わさずそこに連れ込まれた俺は、めちゃくちゃに口付けられながらベッドに押し倒される。服の裾から手が侵入してきて、身体中を弄った。

「好きだよ」
「…だ、だからって、こんな」
「気に入らないか?フロントに戻って部屋を変えてもらう?」

そういう問題ではない。何故兄の思考はこうもズレているのだろう。

「なぁ武、こんなの変だって…俺たち兄弟だよ?」
「運命だな」
「ば…っん、ぁ、ふ…!」
「敦、敦…可愛いよ」
「やめ、も…っ、こんな、いやだ…!」

執拗なキスから逃れるために顔を背ける。それを無理やり引き戻されて、息もできない程口内を舌で掻き回された。

駄目だ。これじゃまたいつもと同じじゃないか。なし崩しに流されて、結局俺は兄の思うがまま。それじゃ駄目なんだよ。

俺は、普通の生活を送って、そこで出会った誰かと自然に恋をして、自然にお付き合いをしたい!こんなおかしな人間にいいようにまるめこまれてばかりじゃ、そんなの絶対叶わない!

「たけ…ッ、る、やだ、いやだって、あぁ…っ!」
「本気で嫌なら」
「いっ…たい!!!」

ぎゅう、と強く乳首を捻られて悲鳴を上げる。痛い。

「本気で嫌なら、拒絶して」
「きょ、拒絶…?」
「武なんか嫌いだって。顔も見たくないって。お前の弟なんかに生まれなければ良かったって、言って」
「どうして、そんなこと」
「それくらい拒まれないと、俺は敦を手離すことができないから」

そんなこと、言えるわけない。俺がそんなひどいことを口に出せないって知ってるくせに。ひどいよ武。

「敦、言って」
「…い、やだ、やだ、言えない」
「じゃあやめない」
「っひどい、ずるい、そんなの!」
「ごめんな」
「へ」
「敦、ごめん。普通のお兄ちゃんになってやれなくてごめん」

――なんだよ、それ。

喉の奥がぎゅっと狭くなる。何か言いようのないものがせり上がって来て、鼻がツンとした。あぁ俺は今泣きたいのだと他人事のように思う。

普通の生活を送りたい。いい加減俺から離れて欲しい。そんなこと、本気で願っているわけじゃない。

確かにおかしい。普通じゃない。兄は変だ。いちいち構ってくるのも鬱陶しいし、欲しくも無いものを与えられても困るだけだ。

「…今更すぎるんだよ、そんなの」

だって、俺は兄といられるだけで、それだけで十分なのだから。

「拒絶できるなら、最初からしてる」
「敦…」
「大体いつも自分勝手なくせに、どうして肝心なとこで一歩引くんだよ…っ」
「敦」
「俺が武の弟なのは武のせいじゃないし、別に普通の兄ちゃんなんか今更いらないし、っていうか散々今まで手出しといて何言ってんだって感じだし、だからつまり俺が言いたいのは…」
「敦、もういい」
「よくない!」

分かってる。兄が俺に拒絶してなんてことを言うのは、俺がちゃんと大事なことを口にしていないからだ。

「お、俺も…武が、好きなんだから…拒絶なんかしない…」

視線を逸らさないよう、真っ直ぐにその顔を見上げる。兄はひどく驚いた表情でこちらを見下ろした。

「敦…本当、か?」
「…俺が未だかつて冗談を言ったことがありましたか」
「俺のこと、好き?」
「だからそうだって言ってんじゃ…うわぁぁぁ!!」

ものすごい勢いで服を脱がされていく。器用な手だ。止める隙もない。

「あ…っ、ちょ、嫌だって、そんな強く…」
「敦…敦、うれしい。嬉しくて死にそうだ」

…俺の言葉ひとつでそんな風に笑えるなんて、兄はやっぱり変だと思う。



「ん…っあ、あっ、だめ、いやぁ…ッ」
「なんで、いや、なの?」
「あは…ッ、ん、んっんんぅ、あっ、足、足つる…!」

彼の背中に爪をたてながら、奥までずっぷりはめ込まれる感覚に耐える。爪先に力が入り、そのせいで足が攣りそうだった。

「やっ、やだ、たける、たける…やめっ、ひぁっあ、あっ!」
「ん、じゃあ、体勢変えようか。よ…っと」
「あぁぁ…っ!」

入ったまま身体を反転させられる。所謂バックである。

「敦の可愛いとこがよく見える」
「へ、ヘンタイ…っ、変なとこ、見るなよ…んぁっ」
「変態で結構」

ぐちゅぐちゅとまた激しい抽送が開始されて、俺は泣きながらシーツに縋り付いた。

「あっ、あぁっん、ん、んんんっぐ、うぁ…っ!」
「気持ち、いい?」
「ん…っいい、きもち、い…んっ、は、ぁ」
「うん。敦の中、すごいよ…俺が好きって、離したくないって、絡み付いてくる」

馬鹿だ。やっぱりこのひとは馬鹿だ。変なことばかり言う。

そう思うのに、どうしたって止められない。俺だって馬鹿だ。

「たっく、たっくん、あっ、ん、もう、もう、やぁぁっ」

頭の中がぐちゃぐちゃで訳が分からない。まるで迷子になってしまった子どものように何度も兄を呼ぶ。

「もっと呼んで、敦」
「うぁ…っあ、たける、ぅ、いく、いく」
「うん、いいよ」

きつくシーツを握り締める手の上に、彼の手が重ねられた。指先から伝わる熱がたまらなく愛しくて、ぼろりと涙がこぼれる。

小さい頃は、よくこうして手を繋いだっけ。

いつからこんなに好きになってしまったんだろう。いつから、俺に触れる彼のその手を恥ずかしさで遠ざけてしまったんだろう。

「んぁっ、んっんっ、ふ…あ!あ、いく、いく…!!」
「ん…っ」

いや、いつからとかじゃない。もう最初から好きだったのかもしれない。

兄はいつだって、俺のそばにいた。

「はぁ…っ、あ、はぁ…」

精魂尽き果ててそのままベッドにずるりと沈み込む俺に、兄が覆い被さってくる。

「敦、かわいかった」
「重い…」
「もう一回」
「やだって」
「欲しがってたコート、買ってやるから」
「…」
「なんなら新しいスニーカーも」
「いらない」
「えっ」

そんなもの、自分でバイトすれば買えるし。

そんなもので、俺を繋ぎとめようとしなくたっていい。

「…いいから好きって言ってよ、お兄ちゃん」

結局俺も、ブラコンなのである。

end.




南さんリクで、お金持ちなイケメン兄(社会人)が、常識人の弟(学生)を溺愛するエロ甘でした。
ブラコンの域を越えるブラコン兄弟。不憫攻め好きです。イケメンが不憫だとすごくもえます。敦は兄の外見はすごく好きらしいです。外見は。
またこの二人はどこかで書きたいなと思いました。素敵設定でした。

南さん、リクエストありがとうございました!

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