▼ 06
ぽんぽんと一定のリズムで背中をさすりながら、ひかるは俺のことを優しく抱きしめた。
「心配だったから、登校する時も下校する時も同じ車両に乗るようにしてたんだけど」
朝は同じ電車なのは知っていたけど、下校するときまでひかるがいたなんて知らなかった。
じゃあ、今もわざわざ、俺を守るために。
「ごめん、なんかストーカーみたいだな…しかも結局ちゃんと助けられなかったし」
俺は、この人に甘えてばっかりだ。馬鹿なのは一体どっちだよ。
「聡太郎、ごめんね。頼りなくてごめん。いつもつきまとってごめん」
「あ、やまんな…っ」
謝らなければならないのはこっちの方だ。こんなになるまで大事なことを言えない自分が腹立たしい。
手を伸ばして、その両頬を包む。ひかるが目を丸くして驚くのが見えた。
「ひかる、ひかる、ごめんなさい…!」
「え」
「くだらなくなんかない、俺は、俺はひかるじゃなきゃ嫌だっ」
隣にいるのも、好きだって言われるのも、身体に触れるのも、全部全部ひかるがいい。
本当は俺の方がずっと、
「ひかる、だいすき…っ」
ぐしゃぐしゃな顔のまま、頭を引き寄せてキスをする。メガネが音を立てて床に落ちた。
「すき、すきだっ、ひかるが…ひかるが、いちばん」
「そ、そうたろ…」
「すきぃ…ほんとに、すきだから、ごめんなさ…っ」
一度口にしてしまえば止められなくなってしまった。心の中に降り積もっていた気持ちが一気に流れ出てくる。
「うぅ…っ、ひかる、ひかる…」
言葉と一緒に溢れてくる涙。顔を両手で覆って俯く。みっともない。すごく情けない。泣くくらいなら最初から素直になっていればいいものを。
「さびしいよ、ひかるがいないといやだ、さびしい…!」
「痛っ」
頭上で聞こえる悲鳴に視線を上げると、何故か自分の頬を抓っているひかるがいた。
「なにやって…」
「だって!こんなの夢かと思うじゃん!」
「夢?」
「はぁ、もう…心臓壊れそう。夢じゃないんだ」
痛いくらいに抱きしめられる。ぴったりくっついた胸からは確かに鼓動が聞こえた。
「ほんと、どこまで俺のことドキドキさせれば気が済むの」
「ひかる…」
「聡太郎、好きだよ。これ以上離れるとか考えられない。だから仲直りしよ?」
ひかるの指が瞳に溜まった涙を拭う。壊れ物を扱うみたいな優しい手つきに、心臓がきゅんと切なくなった。
「俺も…仲直り、したい」
…お前に触れられるのは、どうしてこんなに心地いいんだろうな。
他の人とは全然違う。ドキドキして、止められない。もっともっとと求めそうになる。
「聡太郎?」
「…あの、俺…」
「どうしたの?まだ気分悪い?」
「違う」
目の前のシャツを掴んで、しっかりと彼の顔を見据えた。そう、ちゃんと目を見て伝えなきゃだめだ。
「俺を、今すぐひかるのものにして」
顔が熱い。恥ずかしい。でも、あんな気持ち悪い手に触られたまま帰るなんて、絶対に嫌だ。
ひかるに、愛されたい。深いところで繋がって、俺もたくさんたくさんひかるのことを愛したい。
「あの、お、おれのものって」
「…だめ?」
「え、えっちするってこと?」
「うん」
ぶわわ、と火を噴いたように赤く染まる彼の顔。珍しい。いつもと形勢が逆転している。
「嫌ならいい」
「嫌じゃない!嫌じゃないよ!ただ…」
「ただ?」
「俺、あの、今ちょっと…優しくできる自信ないっていうか。嬉しくて暴走しちゃいそうっていうか…さっき怖い思いしたばっかでしょ?俺まで聡太郎のこと、怖がらせたくないし」
「ばか」
俺がお前のことを怖がるわけないだろ。
「いいよ。ひどくしても。全部どうでも良くなるくらい俺をひかるでいっぱいにして」
「っ」
お前にめちゃくちゃにされたい。そう呟いた瞬間、奪うように口付けられた。
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