▼ 02
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「村上先輩、一緒に…帰りませんか」
どさり。持っていた鞄が落ちる。
何故こいつがここにいるんだ!ここは二年生の教室だ!一年坊主が軽々しく足を踏み入れるな!
「一人で帰れ!聡太郎は俺と一緒に帰るんだ!」
「守山先輩には関係ないじゃないですか」
「きいぃぃぃぃ!ある!超関係ある!」
「ひかるうるさい。…野見山くん」
「はい」
えっ、ちょっと、聡太郎そんな優しい話し方俺にしたことないよね。
「途中まででいい?俺今日寄るとこあるから」
「はいっ」
「っ聡太郎!!」
俺がいるのにどうして他の奴と帰ろうとするんだ。もう本気で泣いていいよね。まじで涙出そうなんだけど。
歩き出す二人の背中を見られずに視線を逸らす。不思議そうな表情の聡太郎がこちらを振り返った。
「ひかる?来ないのか?」
「うっうっうっ…おれも、おれもいっでいいんでずが…」
「泣くなよでかい図体して…っていうか、そんなのいちいち聞くまでもないだろ」
「え゛?」
「おっ、俺は、お前がいないと電車乗れないんだから…ちゃんとついて来い」
「!!」
聡太郎…!
感動で胸がいっぱいになる。やっぱり聡太郎は俺が一番好きなんだね!うんうん分かってる!
慌てて後を追いかけて、二人の間に割り込む。
「ちょっと、何ですか」
うるせえくそ野見山。
「聡太郎に必要以上に近づかないでくれる」
「別に近づいてません」
「聡太郎の隣は俺しか歩いちゃいけないっていう決まりがあるんだよ!」
「誰が決めたんですかそんなこと」
くっ、こいつ…聡太郎にはきらきらと優しい笑顔を向けるくせに、なんだこの憎たらしい顔は!
しかしふてぶてしく俺を睨むその顔もイケメンである。余計に腹が立った。
「守山先輩っていつも村上先輩にくっついてますよね?好きなんですか?」
「好きに決まってるだろ」
隣で聡太郎がぎょっとした表情をする。眼鏡の奥の真ん丸な瞳がさらに大きくなった。
「ちょっと、何を変なこと…」
ちっとも変なことじゃない。俺が聡太郎を好きな気持ちは、誰にさらけ出したって恥ずかしくないよ。むしろ誇りだよ。
「ふうん…村上先輩は?」
「えっ」
「守山先輩のこと、好きなんですか?」
「お、俺は…」
ドキドキと期待に満ちた視線で聡太郎のことを見つめる。
す、好きって言って!聡太郎、俺のこと好きって!そしたらこの生意気な男も諦めるかもしんないじゃん!
穴が空くほどじっと見続けていたせいで、視線がかち合った。聡太郎が唇を噛み締める。
「…それ、言う必要ある?」
「えっ」
「くだらない。俺帰る」
「そ、そうたろー…っ」
鞄を肩にかけ直し、スタスタと先に行ってしまう聡太郎。伸ばした手が空しく宙を切る。
「ふ、くだらない…だそうですよ、先輩」
「っ」
「お互い片思いとして同じ土俵に立ってるわけですね」
う、うそ…片思い…俺の?うそだうそだ。だって聡太郎、俺のこと好きって前は言ってくれたじゃないか。
それが、「くだらない」だなんて。ひどいよ聡太郎。
「聡太郎のばかぁぁぁぁっ!」
聡太郎なんか、聡太郎なんか…もう知らない!!!!
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