神様これは試練ですか | ナノ


▼ 01

それは、あまりにも突然の出来事だった。

「聡太郎、起きて。着いたよ」
「んん…」
「起きないとちゅーしちゃうぞっ」
「うるさい黙れ」
「ひどくない!?」

いつもと同じ朝。いつもと同じ電車。いつもと同じように隣には聡太郎がいる。

通勤ラッシュでごった返す車内で、俺は可愛い可愛い恋人を守るために、その身体を覆い隠すように立つ。また痴漢されたらかなわないし。

聡太郎の可愛さはこんなナリしてても滲み出ちゃうんだよなぁ。

んふふ、可愛い。睫毛長い。唇ぷるぷる。

珍しく眠そうな聡太郎は、立ったまま俺の胸にもたれて少しうとうととしていた。…あぁ、なんて幸せ。

じっとその顔を眺めていたかったが、あっという間に駅に到着してしまう。内心舌打ちをしながら電車から降りた、その瞬間。

「えっ」

ぱしり、と乾いた音がする。続いて聡太郎の小さな声。

聡太郎の腕を掴む一人の男。驚いて振り向いたときにはもう遅かった。

「あのっ、好きです!俺と付き合ってください!」
「え…俺?」
「なっ、なに言ってんだてめぇぇぇ!」

――そう、それは、あまりにも突然の出来事だったのだ。



「…」

あぁ、苛々する。くそムカつく。

「守山うるさい。授業中なんだから静かにしなさい」

そんなの知るか。貧乏ゆすりのせいでガタガタと机が揺れる。

先生からの注意を無視してそれを続けていると、斜め後ろの席の聡太郎が俺の制服を引っ張った。

「…ひかる」

うっ。

きらきらと上目づかいで見つめられて思わずたじろぐ。

だめ!だめだよ聡太郎!教室でそんな可愛い顔したら、みんなに気付かれちゃう!あぁでも可愛い!ちゅうしたい!

「あとで構ってあげるから…今は静かにしてろ」
「そぉたろぉ…」
「情けない声を出すな」

むり。もう俺泣きそう。

だって、だって、俺の可愛い聡太郎が、他の人間に告白されたんだよ。

思い出したくもない光景が頭の中で繰り返し再生される。

同じ高校の制服を着たその男は、一つ下の後輩だった。

ずっとあなたのことを見てました、と爽やかに告げるその顔は…結構イケメンだった。いやかなりイケメンだった。

「くそっ…!」

ダン、と机を拳で叩く。

聡太郎の魅力を知ってるのはずっとずっと俺だけだったのに。俺だけの聡太郎だったのに。

何がずっと見てましただ。何が付き合ってくださいだ。

そうちゃんには俺という恋人がもういるんだからおせーんだよあほ!!ばーかばーか!!

今更しゃしゃり出てきた輩に譲るわけないっつーの!!

「村上、守山は一体どうしたんだ」
「…たぶん…食当たりとかじゃないですかね」
「そうか。それなら仕方ないな」
「すみません」

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