▼ 01
それは、あまりにも突然の出来事だった。
「聡太郎、起きて。着いたよ」
「んん…」
「起きないとちゅーしちゃうぞっ」
「うるさい黙れ」
「ひどくない!?」
いつもと同じ朝。いつもと同じ電車。いつもと同じように隣には聡太郎がいる。
通勤ラッシュでごった返す車内で、俺は可愛い可愛い恋人を守るために、その身体を覆い隠すように立つ。また痴漢されたらかなわないし。
聡太郎の可愛さはこんなナリしてても滲み出ちゃうんだよなぁ。
んふふ、可愛い。睫毛長い。唇ぷるぷる。
珍しく眠そうな聡太郎は、立ったまま俺の胸にもたれて少しうとうととしていた。…あぁ、なんて幸せ。
じっとその顔を眺めていたかったが、あっという間に駅に到着してしまう。内心舌打ちをしながら電車から降りた、その瞬間。
「えっ」
ぱしり、と乾いた音がする。続いて聡太郎の小さな声。
聡太郎の腕を掴む一人の男。驚いて振り向いたときにはもう遅かった。
「あのっ、好きです!俺と付き合ってください!」
「え…俺?」
「なっ、なに言ってんだてめぇぇぇ!」
――そう、それは、あまりにも突然の出来事だったのだ。
*
「…」
あぁ、苛々する。くそムカつく。
「守山うるさい。授業中なんだから静かにしなさい」
そんなの知るか。貧乏ゆすりのせいでガタガタと机が揺れる。
先生からの注意を無視してそれを続けていると、斜め後ろの席の聡太郎が俺の制服を引っ張った。
「…ひかる」
うっ。
きらきらと上目づかいで見つめられて思わずたじろぐ。
だめ!だめだよ聡太郎!教室でそんな可愛い顔したら、みんなに気付かれちゃう!あぁでも可愛い!ちゅうしたい!
「あとで構ってあげるから…今は静かにしてろ」
「そぉたろぉ…」
「情けない声を出すな」
むり。もう俺泣きそう。
だって、だって、俺の可愛い聡太郎が、他の人間に告白されたんだよ。
思い出したくもない光景が頭の中で繰り返し再生される。
同じ高校の制服を着たその男は、一つ下の後輩だった。
ずっとあなたのことを見てました、と爽やかに告げるその顔は…結構イケメンだった。いやかなりイケメンだった。
「くそっ…!」
ダン、と机を拳で叩く。
聡太郎の魅力を知ってるのはずっとずっと俺だけだったのに。俺だけの聡太郎だったのに。
何がずっと見てましただ。何が付き合ってくださいだ。
そうちゃんには俺という恋人がもういるんだからおせーんだよあほ!!ばーかばーか!!
今更しゃしゃり出てきた輩に譲るわけないっつーの!!
「村上、守山は一体どうしたんだ」
「…たぶん…食当たりとかじゃないですかね」
「そうか。それなら仕方ないな」
「すみません」
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