僕の秘密と君の罠 | ナノ


▼ どっちも君なのに

俺の思惑は成功した。もしかしたらと期待していたが、まさかこれ程上手くいくとは思わなかった。嬉しさににやけてしまいそうになるのを寸でのところで堪える。

「亮一さん、何笑ってるんですかぁ」
「いや…」

君が可愛いからだ、とはあえて口に出さない。少しでも機嫌を損ねると、今この幸せが崩れ去ってしまう可能性があるからだ。

では一体彼のその姿をどんな言葉で表現すればいいのだろう。うんうんと悩み続けていると、彼が近づいてくる。

「りょーいちさん」
「…ん?」

動くたびにスカートの裾から肌が見えて、ごくりと生唾を飲み込んだ。なんて魅惑的な白い脚。

そう、律は今、女装をしている。というか、させられている。誰に?言うまでもなく俺にだ。

普段は頑なに女性の格好をすることを拒否する彼だが、酔うとかなりガードが緩くなる。それは以前ナース服の一件(本編4話)で明らかだ。

だがあれ以来、彼の周りで中々飲み会が開かれることはない。つまり酔っぱらった彼に会うことが出来ない。そこで俺は気がついた。わざわざ他の飲み会を待つ必要はない、自分で酔わせてしまえばいいのだと。どうしてこんな簡単なことに今まで気付けなかったのか。

奮発して買ってきたワインを試しに勧めてみると、彼はちびちびと美味しそうにそれを飲んだ。弱いくせに存外お酒が好きらしい、とまた新しい一面を知る。

そして、今。

「ふふふ…このワイン、すっごくおいしいね…僕、なんか、酔っちゃったみたい」

彼は心底楽しそうな笑い声をあげ、胡坐をかいていた俺の上に自分から乗ってくる。あぁもう少しでパンツが見えそう…。

一瞬今すぐにでも押し倒してしまいたい衝動に駆られるが、折角律の方から迫ってきてくれているのに、この状況を味わうことなく性急な真似をするのは勿体ないので、やめておいた。

「亮一さん」
「なんだ」
「亮一さん、本当かっこいい」
「…そりゃどうも」

なんだ、面と向かってそんなことを言われると、俺だってさすがに恥ずかしいぞ。こんなに甘いなんて聞いてない。心臓がバクバクと音を立てているのが分かる。

「あのねぇ、僕ね」
「あぁ」
「亮一さんの顔、すっごくすき」
「顔…」

ちゅ、と頬に彼の唇が触れた。びっくりして目を瞬く俺に、律はまたへへへと笑って見せる。

「あとね、ここもすき」
「う…っ」

今度は首筋。

「喉仏が出てるの、すごくかっこいいし…あと、鎖骨、きれい」

口付けるだけでなく舌を這わされ、小さく声が漏れた。あの可愛いぽってりとした唇が自分の肌に触れていることに、たまらなく興奮する。

「り、りつ…そんな風に、されたら…」
「ん…だめ?」
「駄目じゃないから、困ってるんだ」
「こうふんしてきた?」

その通りである。

「律」

強請るように顔を近づけてみると、素直に唇にキスをしてくれた。

「ん、んっ、ぁ…ふ、んん」

片手で腰を引き寄せ、もう片方の手で後頭部を掴む。深さを増していく口付けに、彼の口からは耐え切れない声が零れだし、ぎゅうと強く縋り付かれた。

「りょ、いちさ…はぁ…っ、ん」

薄目を開けてその様子を窺うと、うっとりと気持ちよさそうに酔いしれている表情がすぐ近くで見える。上気した頬がなんとも悩ましい。可愛い。可愛すぎるぞ。

こうしていると本当に女の子とキスをしているみたいで、だけど律は確かに男で、そんな状況がさらに欲望を増幅させた。

「っんん!?」

はぁはぁと息を荒げながら夢中になっていると、突然その場に押し倒される。驚いて身を離せば、互いの間を銀色の糸が伝った。

「エッチ、しましょう」
「え」

濡れた唇を自身の舌で舐めながら、律が笑う。

「ね?ね?亮一さん、たってるし」
「んぁっ、あ、急に…」

しっかり反応していた股間をぐりぐりと手のひらで押され、身体中に電流のような快感が走った。

「僕にいれてほしいでしょ?」
「え?」

そりゃあ勿論。言わずもがなだ。そもそもセックスをしたくて君に酒を飲ませたようなものだしな。

「僕も、もうこんなになってるから」
「…」

――ちょっと待て。

スカートの裾を自分で持ち上げ、妖艶な笑みを携えたままその中をこちらに向けて見せてくる律。女性用の下着(勿論俺が履かせた)も、その下で熱く熱を持っている彼の性器も、何もかもが丸見えだ。あまりに淫猥な光景に絶句する。

「待て…鼻血が、出る…」

いくら酔っているとはいえ、そこまでサービスしてくれるのか…!!

「亮一さんが履かせたんですよ?」
「あぁ、最高だ…」
「ふふふ、そんなに似合ってるかなぁ」
「ものすごく可愛い。可愛すぎて死にそうだ」
「うれしくない…」

けど、と彼がスカートを持ち上げたまま続けた。

「亮一さんがよろこんでくれるのは、うれしい」
「…本当に君は」

可愛いなと言おうとする前に手のひらで口を塞がれる。

「かわいいって言うの、だめ」
「…」
「ね、僕の手、なめて」
「…ん」

言われた通り、口元に置かれた手に舌を這わせた。手のひらは勿論、指と指の隙間から指先に至るまで、余すことなく唾液で濡らしていく。別に自分が触られているわけではないのに、それだけの行為が不思議と身体の熱を高めていった。

「は…ぁ、んん」
「僕の指、おいしい?」
「んぅ、う…ん、んぐ」
「かわいーね」

熱心に人の指を舐っている男はどう考えても可愛くないと思うのだが、律は楽しそうに一人で息を荒げている俺を見つめる。

「ん、もういいかな…自分でぬげます?」

べとべとになった指を見ながら、彼が一旦俺の上から退いた。

「あぁ、大丈夫…」

カチャカチャと性急な手付きでベルトを外し、ズボンも下着も全て取り去ってしまう。早く早くと期待をしてしまう自分自身にはほとほと呆れるばかりだ。

「ゆび、入れるからおしり見せて」

なんだか珍しく彼の方が主導権を握っている。そんなの興奮しないわけがないじゃないか。以前酔ってセックスしたときは割と受け身だったのに。また新しく発見した彼の知らなかった一面に、心臓は高鳴りっぱなしである。

「ふふ、ヒクヒクしてる」

再び寝転がって、自らの膝を抱え上げた。勿論この格好は流石の俺でも恥ずかしい。だけど早く彼に触れられたいと思う気持ちの方が先だ。

「いいから、もう、早く」
「わかってますよう」
「ひ…ッ」

ずぶりと一気に孔を押し広げられ、悲鳴のような声が喉の奥から漏れる。

「一気に三本、はいっちゃいましたね」
「あ…っ、うそ、嘘、あぁっ、待っ、り…つ、いきなり、んはぁっ、あ!」
「いたい?いたくない?」

敏感な内側を三本の指をそれぞればらばらに動かされた。強い刺激にがくがくと全身が震えだす。痛いとか痛くないとか、そういう次元の話ではない。何も考えられない。

「んァッ、あぁ…!うっ、あんん!はぁ…っ、あ、あっあっ…」
「はぁ…りょーいちさん、かわいい」
「んんっ、ん、ぅン…ふぁ、んんんん!」

律も律で大層興奮しているらしく、ぐちゅぐちゅと俺の穴を弄り回しながらのしかかってきた。そしてそのまま荒っぽく口付けられる。

いつももどかしいくらいに丁寧な彼の手付きが、今日だけは少し乱雑だ。でもそれがどうしようもなく気持ちいい。中を掻き回される度にペニスが脈打つのが分かった。

「ん、んぐ…ッう、は、ァっ、りつ、律…」
「ふぁ、あ、あっ、あ、きもちい、んん」

二人して顔を紅く染め、どろどろになりながら舌を絡め合う。甘い甘い口内はいくら貪っても足りなくて、もしかしたら彼も同じことを考えているのかもしれないと思った。

「あぁっ、ん!ん、もう、もう、いいから…、いれてくれ…」

細い腰に両脚を巻き付け引き寄せると、律は熱く息を吐いた。

「ん…いいの…?」
「わかるだろ、俺のそこがどんな風になってるか」
「うん、僕もはやく亮一さんにいれたいれす…」

そろそろ呂律が怪しくなってきたぞ。これは寝落ちされる前に早く事を進めなければ。

「ほら、指抜いて」
「ふぁい…」

彼の指が抜けていく感覚に思わず鼻にかかった声を出してしまう。今からそれ以上の快感を得られるのだという期待で心が満たされていった。

が、しかし。

「んんんっ、ぁ、は…!」

ぬるぬると入口を何度も往復するだけで、一向に挿入してこないその塊。中途半端な刺激に身体を震わせながら抗議する。

「…焦らすなんて、意地が、悪い…っ!」
「ちが…っ、ちから、はいんないんですよぉ…」
「…」

目に映るのは泣きそうな表情。真っ赤な頬をして瞳を潤ませている姿はまさしく女の子のそれで、一瞬見惚れてしまいそうになった。可愛すぎる。

「俺が乗る」
「へ」

身を起こして力任せにその身体を押し倒す。びっくりして動けないでいる彼の上に跨り、一気に腰を落とした。

「う…っあぁぁ、ちょ…りょーいちさ、急に…」
「んん…ッ、ふぁ、ほら、早く動かして…って」
「いやぁ、むり、むりです…ん、ぁ、うごいて、りょーいちさんが、して」

余程気持ちがいいのか、ビクビクしながらこちらを見上げてくる律。ぬちゅぬちゅと音を立ててモノを出し入れすると、甲高い嬌声が上がる。

「あぁっ!あっ、んっ、う…はぁ、あ、だめ、だめ、きもちい、あはぁ…ッ」
「ひあぁッ、んっんっ、んっ…あっ、あ、律、律」
「かわい、りょーいちさん、ちゅーして、したい…んっ、んん!」

下から伸びてきた手が、強く俺の腕を引いた。その力に抗うことなく倒れこむと、すぐさま唇を塞がれる。

「はぁ、あ…っ、すき、亮一さん、すき…」

蕩けるような口付けに、あまつさえそんな愛の言葉を囁かれてしまってはもう為す術も無い。胸の奥が締め付けられるように痛む。だが苦痛ではない。これは幸せな痛みなのだ。

身体の奥底のその感覚に連動するように孔の締め付けが増したらしく、律は切羽詰ったように堅く瞳を閉じてぶるぶる震えた。

「アッ、あ、ま…でる、でそう、僕、もう…っんぁ、ひっ、あぁぁぁ!」
「ん、いい…そのまま…ッ」
「やぁっ、いっしょがいい、っあ、亮一さんも、イって、おねがい」
「あ゛―――ッ!?」

二人の間で濡れそぼっていた昂りを突如強く掴まれ、全身に電流が走る。そのまま敏感な先端を力任せに弄る彼の指に、俺は馬鹿みたいに身体を跳ねさせた。

「ひうぅっん、んんんっ、あ、それぇ…ッく、あぁ…!」
「イく?亮一さんも、イく?」
「いく、いくから、もっ…」

先程まで握っていた主導権は完全に彼に移ってしまっていて、気がつけば激しく揺さぶられている。押し寄せる快感に身を任せ、彼の楔が奥を穿つ感覚を味わった。

「んんんんっ、んっ、あ、うぁっ、あぁぁぁっ、は、ぁ」
「ここ好きでしょ…ッ!ほら、イって、はやくぅ…っ」
「い…ッあぁぁぁ…!!!」

ぐり、と奥の奥までたっぷりと差し込まれて目の前に白い光が飛ぶ。尿道口を大量の精子が駆け抜けていくのが分かった。

「あ…っ、あ、あっ、あぁ…」

激しい絶頂と、最奥を叩く熱い液体。あぁ彼も達したのかとぼんやり感じ取る。唇からは意味を為さない喘ぎが零れ落ち、酸素を求めようと必死で息を吸い込んだ。

「んぁ…?」

汗やその他諸々の体液でべたべたになった下腹部を撫でられる。それに気がついて視線を下げると、律の丸い瞳がじっとこちらを見据えていた。まさかずっと見られていたのだろうか。だとしたらさすがの俺でも少し気恥ずかしい。

と思っていたら、じわじわと彼の頬が赤く染まり始める。間違いない、これは。

「…酔い、醒めたか?」
「さっ、醒めてない…」

一度射精をしたことによって熱が抜け、冷静になったらしい。所謂「賢者タイム」というやつだ。勿論完全に酒が抜けたわけではないだろうが、めくれあがったスカート、細い脚に申し訳程度に引っかかっている女性用の下着、未だ繋がったままの互いの身体。少なくともこの状況に羞恥を覚えるくらいには。

「律」
「…」
「律、こっち向いて、俺の方見て」
「いやだ」
「怒ってるのか?」
「…ちょっと」

ごめんな、と呟くと、律は小さく首を横に振った。

「ちがう」
「ちがう?」
「…」
「?」
「ずるい、こんなの。ひどい」
「それに関しては全面的に謝罪する。でも、素面じゃこういう格好してくれないだろう?」
「当たり前じゃないですか!いつも嫌って言ってるでしょ!」
「ほら」
「…そうじゃなくて、その…」

歯切れの悪い口調に首を傾げる。怒っているというか、これは…拗ねてる、に近い気がするぞ。

「…いっぱい、恥ずかしいこと言った」
「そんなことないと思うが」
「あぁもうやだ!」
「俺は嬉しかったぞ。すごくドキドキした」
「だから!それが嫌なの!」
「どうして」

ぐ、と一瞬ためらうように唇を噛み締めた律が、観念したかのごとく顔を背けながら言い放った。

「別にお酒なんか飲ませなくたって…素面の僕にもドキドキしてほしいの!」
「…ぶはっ」
「笑わないで」
「はは、なんだそれ。可愛いな律は」
「笑わないでってば…あっ!?」
「じゃあ」

中に埋まったままのそれを意図的に締め上げてやると、下から小さな喘ぎ声が漏れ聞こえる。

「ちょ…りょ、いちさ…まだ、するの」
「今から、君が、俺をドキドキさせてくれれば、いい…ッ」
「…」

――もう、知らない。

そう呟いた彼の顔は紛れもなく「男の子」だ。もしかするとまだ酔っているのかもしれないと思いながら、俺は緩む口元を隠そうともせずゆっくりと腰の動きを再開させた。

end.




名無しさんリクエストで、「酔った律が亮一といちゃいちゃしようとする」でした。遅くなってごめんなさい…!やっと書けました…!分量的にはそれ程多くないのですが、如何せんオチが思い浮かばず右往左往しておりました…。
前回よりも酔いの程度が若干浅く、しっかりと記憶のある律くんに積極的に攻めていただきました。私は女装書きすぎだと思う…。お気に召さなかったらすみません〜!!
律と亮一を好きだと言っていただけてとっても嬉しかったです。

素敵なリクエストをありがとうございました!楽しんでいただけますように!

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