▼ 02
何度か行為を重ねたけれど、僕は亮一さんの身体に積極的に触れたことは(記憶の中では)ない。
それなのにすんなりと苦しむこともなく…その、…僕の、ペニスを受け入れることができているのは、彼がしっかりと穴を解しているからで。
初めて会ったときもそうだった。慣れた手つきで自分の穴を弄り回していた気がする。
普通の人ならば触ることすらためらわれる部分を、そんな風に扱えるということは。
「…律君?」
亮一さんには、多少なりとも経験がある。そういう結論に至ることができるだろう。
そうだ。そう考えれば、体格差がこんなにあるのにも関わらず彼が受け入れる側であることにも納得がいくではないか。
僕が入れる側なのではない。僕の前の人が入れる側だったのだ。
そして、彼は「自分が入れられる側である」というそのときのルールに従っているだけ。
「どうしたんだ。急に黙ったりして」
「…な、んでもない、です」
…僕は、嫌な奴だ。
きちんと好きの言葉を口に出せないくせに、この人の気持ちが僕以外に向いていることにもやもやするなんて。
分かってる。これは、
「亮一さん…」
これは、嫉妬だ。
「…うん?」
僕の異変に気が付いたらしい亮一さんは、手を止めて優しく笑う。くっきりした二重の瞳が少し細くなった。
「あの、亮一さんは…僕に、その…入れたり、とか」
「…入れられたいのか?」
律君がお望みとあれば入れてもいいけどと言われ、激しく首を横に振る。
違う。そうじゃない。言い方を間違えた。
「ええと、つまり…」
「つまり?」
「僕に入れられて、身体は辛くないんですか。どうしてそんなに慣れてるんですか」
きょとん。不思議そうな表情をしていた彼の顔が、しばらくして…何故か赤く染まった。
「そ、それは…」
「…やっぱり経験があるんですね」
「経験っていうか、まぁ、経験…うん、そうだな、経験なのかな」
あぁ、嫌だ。見たくないこんな彼の表情。
胸の中に広がっていく黒い感情に支配されて、僕は無意識のうちに口を動かす。
「誰ですか」
「え」
「誰に、抱かれたんですか」
「律君もしかしてそれは…」
…ええ。そうですよ。嫉妬ですよ。
本当に自分で自分が情けない。分かっているのに、眉間に皺が寄るのを抑えられない。
「すみません。鬱陶しくヤキモチなんか…」
視線を逸らしながら謝罪する僕に、亮一さんが軽くキスをした。
「んふふ」
「んふふって」
「嬉しいな。嫉妬するってことは、少しは俺のこと好きになってくれたってことだ」
…そう。そうだ。僕は少しずつ、だけど確実にこの人に惹かれてる。勢い余って嫉妬するくらいには。
「…はい」
か細い声で返事をすれば、すっかりご機嫌になった彼が抱き着いてくる。
「知りたい?俺のこと」
「…っ」
首に息を吹きかけられた。ビクリと強張る身体。耳元で囁く甘い声。
心臓が、ドキドキして死にそう。
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