▼ 教えて先生
彼のぼさぼさした髪の毛が好きだ。ほっそりした指先が好きだ。猫背なとこも、浮き出た喉仏も、全部全部好きだ。
見ているだけで満足だった。淡く脆くほんのりと色づいたこの思いを、伝える気なんてこれっぽっちもなかった。
「ん、」
でも、一度見つめられる喜びを知ってしまったら。こうして触れられる気持ちよさを知ってしまったら、もう戻れるはずなんてない。
「せ、せんせ…」
「…苦しい?」
「大丈夫、です」
啄むように何度も唇を吸われ、僕はドキドキと心臓を高鳴らせる。
苦しくないよ、先生。だからもっと。
ぎゅうっと首にしがみつくと、先生は少し興奮したように舌を滑り込ませてきた。
「あ、ん…ふ」
熱い舌に口内をかき回され、鼻から息が抜ける。ぼうっとして何も考えられなくなる。
先生、先生、先生。
「や、先生、もう…僕」
足がガクガクして、立っていることさえ出来ない。彼はそんな僕を見て少し笑った。
「おいで」
椅子に座ってこちらに両手を広げる先生。その膝の上に恐る恐る跨る。
「重くないですか」
「全然。佐倉は軽いよ」
「でも先生…細いから」
「へーき。たとえ重くても、俺はこうしていたい」
優しく抱きしめられて、僕は彼の胸に額をこすりつけるようにもたれかかった。ちょっとだけ消毒液っぽい匂いがする。なんかの薬品かな。
くっついたところから心臓の音が聞こえてくるのが、とても心地いい。そっと目を閉じる。
「もう終わり?」
「終わりって?」
「もっとキスしたら、佐倉は嫌?」
嫌なわけがない。でも口で言うのは何となく憚られて、代わりにこちらからキスをした。
それが合図になって、再び甘い甘い口付けが繰り返される。
「は、ぁ、せ…せんせ」
「佐倉は、綺麗だな」
「えっ…んん、う、ぁ」
綺麗ってどういう意味だろう。夢中になった頭の中に、考える余裕なんてない。
ほこりっぽい化学準備室にリップ音が響く。学校であることを忘れてしまいそうなほど、すごくすごく気持ちいい。
「あっ」
シャツの裾から先生の骨ばった手が侵入してきた。脇腹を指でなぞられて、小さく身体を捩る。
「せんせ、だめです。ここ、学校」
「分かってる」
「やっ…それ、くすぐったい」
「脇腹、くすぐったい?じゃあここは?」
「ひあぁっ」
きゅっ。指で軽く胸の先端を抓まれた。思わず声が漏れてしまう。
「あっ、だ、だめ!」
「ここはくすぐったくない?」
「ない、で、すっ、やぁ…んんっ」
「やばい。すごい興奮してきた」
ぴくぴく痙攣しながら、ずり落ちないように彼の首にしがみ付く。その間もずっと指は僕の乳首を弄り続けていて、段々といけない気分になっていった。
「ん、ふ…あぁ、せんせ…」
「…そんな声で呼ぶなよ」
「先生、すきです…すき、んぅ」
「分かってるよ」
「あ…」
太ももの裏に、硬いものを押し付けられた。それがなんなのか理解できないほど子供ではない。かあっと頬が熱くなる。
「…佐倉、」
二人で、いけないことしようか。
彼に耳元で囁かれ、僕は静かに頷いた。