▼ 世界は何度でも君に染まる
最初はただの好奇心だった。でも一度重ねた熱を忘れられなくて、何度も何度も馬鹿みたいに身体を繋げた。
気持ちが伴っていなくても、自分だけの想いでも、それでも樫野は俺を抱いてくれたから。だから彼に彼女ができたときも、耐えられた。拒絶されたわけじゃないなら、傍にいる方法などいくらでもあると思った。
最低だとは知っていたけれど、諦められなかったのだ。
「つくづくひどい男だよね」
自嘲のような笑みとともにそう呟くと、目の前の樫野は読んでいた本から顔をあげた。
「…俺のこと?」
「いやー、俺達二人とも」
「…否めない」
「でしょ」
でも後悔はしていない。どれだけの人を傷つけても、彼を手放そうという気にはなれなかった。そこまで献身的にはなれなかった。
「俺はさ、樫野が女の人と結婚してもいいと思ってたよ」
「なんだ、それ」
「結婚して、子どもをつくって、普通の家庭を築いて…そういう普通の幸せの傍に、ほんの少し俺の存在があればいいなと思ってた」
「なんだよ。俺に不倫をしろってか」
「樫野にとって俺は、一生一緒にいられるような、未来を考えられるような人間じゃないと思ってたんだよ」
性欲処理。そう、その言葉がぴったりだった。
今思い返せば、それは事実とは異なっていたのだけれど。当時は本当に必死だった。何とかして自分の入る隙間を探して、しがみついて、捨てられたらどうしようなんて怯えて。
「俺だって同じだ」
樫野は本を閉じ、それを脇に置いた。
「どれだけの人を傷つけても、悪いことだとわかっていても、どうしても佐伯が良かった」
「うん」
「もっと早く自分の気持ちを伝えれば良かった、なんてことは言わない。言っても仕方ない」
「うん」
「その代わり、俺はお前とそう簡単には離れちゃいけない」
「うん。そうだね」
離れるつもりもないけれど。
「ねぇ樫野」
好きだよ、と俺は言う。
俺は樫野じゃなきゃ駄目だった。樫野も俺じゃなきゃ駄目だった。
数年越しのこの恋を、この気持ちを、捨ててはいけない。
樫野が好きだ。大好きだ。
「俺に樫野を独り占めさせて?」
*
「んふ、ぅ…っ、ん、ん、ん…っ」
「佐伯…ッ」
樫野の手が俺の髪をぐしゃりと掻き乱す。
「ひもひいい…?」
「咥えたまま、喋るな…」
んふ、と俺は口いっぱいに樫野のちんこを頬張りながら笑った。可愛いな。気持ちいいんだろうな。
「んむ、んっ…ふ、んん」
ちゅぱちゅぱと音を立てて舐めしゃぶってやると、時折樫野の口から熱っぽい息が漏れる。
「ん…樫野の、びしょ濡れ…」
唾液やら先走りやらでてらてら光るそれをさらに手でぐじゅぐじゅと扱き上げながら、先端をぱくりと咥えた。
「…っそれ、やめ…」
舌の先に感じる独特の味を強く吸い上げ、じゅるじゅると夢中になって啜ってやれば、樫野の腰がびくびく跳ねる。
「そんな強くしたら…出るだろ…」
「らひて」
「バカ」
言いながら樫野は俺の頬を優しく撫でる。愛おしむようなその手付きに、何故だか瞳が潤んでしまった。くそ、なんだこれ。めちゃくちゃ幸せ。
「んん…っ」
また深く咥えなおし、頬肉に先っぽを擦り付けて愛撫する。ぷっくりと膨らんだ頬を見た樫野が「エロすぎ」と笑った。
「なぁ…舐めながら、竿、擦って」
「ん…」
言われた通り手も使う。唾液で濡れているおかげで滑りはいい。こすこすと裏筋を親指の腹で摩ってやると、口の中にさらに濃い我慢汁が流れ込んできた。
「おまえ、うますぎ…っ」
樫野の息が荒くなってくる。
「ん…っ、んっ、んっんっ」
それに興奮した俺は、舌と、手のひらと、指とを使って夢中になってしゃぶり続ける。開きっぱなしの口いっぱいからは涎が滴り、じゅぽじゅぽと下品な音がした。
「さえき、もう、出る…っ、やばい」
「ん…ッ」
頭を掴む手に力が込められる。俺は急いで口からペニスを引き抜いた。ずるりと糸を引きながら離れていくそれを、自分の顔の前で扱き上げる。
「ぁ、く……っ出る、イく…!!」
「んん…!」
顔にぬるい液体がかけられた瞬間、この上ない快感が全身を駆け抜けた。びくびくと腰が戦慄く。――やば…出る…っ。
「はぁ…っ悪い、顔射…」
「〜〜〜…ッ!!」
咄嗟に返事ができず、黙って首を振るだけになってしまった。パンツの中にびしゃびしゃと射精しているのがわかる。
「…佐伯?」
「ぁ…かし、の…っ」
気持ちいい、と掠れた声でつぶやくと、潤んでいた目から涙が零れた。
「…お前、顔射されてイってんのかよ…」
やばい。引かれたかな。あぁでもめちゃくちゃいい。クセになる。うっとりと樫野を見上げたら、乱暴に顔を拭われた後、啄むようにキスをされた。
「可愛すぎだろ、マジで…」
「かしの…っ」
もっと、とねだる俺を、樫野がベッドの上に引き上げる。
「おいで」
仰向けに寝転んだ樫野の上を跨がされた。
「俺のしゃぶってぐちゃぐちゃになったパンツの中、見せてみろよ」
「ん…っ」
興奮で手が震える。ベルトを外しズボンと下着を一気に引き下げると、精液にまみれたペニスが顕になった。
「うわ、すげぇべとべと…本当にイったわけ?そんなにフェラすんの気持ちよかった?」
「き、気持ち、良かった…」
「変態」
ぞくぞくする。
「樫野、かしの…ッ」
耐えきれなくなった俺は、ぐすぐすと泣きながら言った。
「抱いて、早く、俺のこともっとぐちゃぐちゃにして、俺を樫野のものにして」
「…お前はもう俺のものだろうが…っ」
「あぁん…ッ!!」
ぐちゅんっと指をアナルに一気に挿し込まれる。押し出されるようにしてペニスからぼたぼた精液が零れ、また下着を濡らした。
ずぶっずぶっぐちゅっぬちゅっ
「お前、なんだこれ?こここんなにして、そんなに俺の指しゃぶりたいのかよ?」
「あうぅッッ、あぁ…ッあ、ああッ、あっあっあぁ…!!」
激しく指をピストンされ、俺は樫野の上に跨ったままただただ喘ぐことしかできない。乱暴な手付きも、罵るような言葉も、全部気持ちいい。指を突き入れられるたびに崩れ落ちてしまいそうになる。
「あ゛――――ッ、あうっあっ、あ、もう、もうだめぇ、だめっ、樫野のちんこいれてぇぇ…ッ」
どん、とその場に押し倒された。
「…佐伯」
樫野は手早く俺の下半身の服を全て脱がせ、上からのしかかってくる。
「樫野、樫野、好き、樫野好き…っ」
「ん」
ちゅ、と唇にキスされた。とめどなく溢れ出す涙で濡れた頬にもキスをくれる。
「俺も好き」
入れるぞ、と囁く声がして、剥き出しになった尻の間に硬いものがあてがわれた。ぎゅうと樫野の身体を抱きしめて頷く。
「あ…っ、あっ、ん…――――っ」
太い塊が狭い入口を押し広げてはいってくる。ごりごりと内側を潰され、俺は思わず背中を仰け反らせた。
先程まで懸命にしゃぶっていたあのおっきなものが、今度は自分のあんなところに入っている。あのエロい形をしたものが、俺の中に。
「そんなにがっつくなって…っ」
あまりにヨガりまくる俺を見て、樫野はおかしそうに笑った。
「だって、だって…っ」
「あ、バカ…っよせ」
ちゅうう、と肩や首、鎖骨に吸い付いて痕をつける。樫野は俺のだ。そんな思いを込めて、何度も何度も。
「樫野も、つけて…」
「…どこがいい?」
「見えるとこ…」
「駄目だろそれは」
樫野は苦笑しつつも、首筋の、希望通り服を着ても見える位置に数個の痕をつけてくれた。
「満足?」
「まだ…」
「まだ?でも俺、そろそろ動きたいんだけど」
「んぁ…ッ!」
後ろに埋まったモノが一気に引き抜かれていく感覚に、ぶわっと鳥肌が立つ。
「…これ、今から奥まで入れるぞ?いい?」
「ん…っ、いい、入れて…」
ばちゅんっと肌がぶつかる音がした。
「あはぁぁ………ッ!!」
それと同時に目の前が真っ白になる。びくびくと身体の痙攣が治まらず、力の入った足先が宙を蹴った。咄嗟に背中に爪を立ててしまい、樫野が痛そうに眉を顰める。
「あ、ごめ…っ」
「いいよ…っ、気持ちいいんだろ、俺のことは気にしなくていいから」
樫野が良くても俺が嫌だ。代わりにシーツをぎゅっと掴むと、樫野はまた少し笑って腰の動きを開始させた。
「あっ、ん…っ、んぅっ、あぁっ…」
「佐伯、かわいい」
「んんっ、んはっ、樫野のが、あ、かわ、いい…あっあっ、ひあぁ…っ!!」
「なんで俺がかわいいんだよ…」
「好き、大好きぃ…っ」
少し前までは、好きという言葉を口にすることさえできなかった。溢れてしまいそうなそれを無理矢理喉の奥へ押しやって、飲み込んで、隠し続けていた。
結局のところ、そうして隠し続けていたのは俺だけではなくて、樫野も同じで。うっかり気持ちが零れてしまったのは彼の方が先だった。
好きだって、言ってくれた。
びっくりしたけど、戸惑いもしたけど、すごく嬉しかった。その「好き」が嘘じゃないのなら、彼女の次でも、一番の「好き」じゃなくても、構わないと思った。
それだけで良かったのに、今こうして「俺だけの樫野」が手に入ったら、今度は手放せなくなってしまった。
俺はずるい。樫野もずるい。傷つけた人がいることもわかっている。だからこそ、素直に好きだと言えるこの瞬間を、とても愛しく思う。大切にしようと思う。
「…なぁっ、俺のこと、もっと独り占めしろよ…っ」
俺の身体を揺さぶりながら、樫野が囁く。
「する、したい、樫野がいい、樫野が好き…!」
「佐伯…っ!!」
「あ゛ぁぁ………ッ!」
奥まで入れられたままぐりぐりと腰を回され、息もできないほどの快感が全身を襲った。仰け反らせた首を樫野の唇が這う。
「ん…ぁあっ、か、噛んでぇっ、噛んで、強く、いっぱいぃ…っ」
強い痛みが首と肩の間に走った。
――あ、あ、あ、も、だめ。
シーツを握りしめてがくがくと震える。
「い…くぅぅっ、いっちゃ…あぁぁぁっ!!」
悲鳴のような嬌声を上げて絶頂を迎えたそのとき、樫野は素早くペニスを抜き去ってしまった。ぽっかり空いた隙間をびくびく食い締めながら、なんでと泣きそうな声で問う。
「なんでぇ…っ、抜くの、やぁ…っ」
「…っはぁ…」
樫野は何も答えない。答えの代わりに、俺の顔の前でぐちゃぐちゃと自分の性器を扱き出した。
「目、閉じろ…っ」
そして。
「んんん…っ」
勢いよく精液を顔にかけられる。本日二回目だ。
「あ…」
恐る恐る目を開け、頬に感じる液体を指で拭う。
「が、顔射…したかったの…?」
「…ん」
樫野はすうっと瞳を細めて満足そうな表情を浮かべていた。
「すげぇ、エロい。いい」
「そ、そう…?」
なんだかものすごく恥ずかしい。
「さっき一回かけたとき、良かったから。なんか俺のものって感じで」
いいな。俺もそれ、やりたい。樫野は俺のもの。
「…俺もかけてみたい…」
「いやだ」
ぼそりと呟いた俺の希望は、あっさりと断られてしまった。
*
「佐伯くん、ちょっと」
「なに?」
授業で隣に座った友人が、周りを気にしつつこそこそと耳打ちしてくる。
「コンシーラー貸してあげようか?私、今持ってるよ」
「コンシーラー…って、化粧の?」
「そう。首のそれ、キスマークでしょ?」
「あ」
つけてってねだったの、すっかり忘れてた。
「目立つ?」
「結構」
「…うーん…」
いいや、と俺は言う。ありがとう、とお礼の言葉も添えて。
「いいの?恥ずかしくない?」
「平気。明日はちゃんと襟付きの服を着てくるし」
――それに。
「隠し続けるのはもう懲り懲りだしね」
樫野も俺も、我慢は苦手なのだ。
end.
*
名無しさんリクエストで、「世界は一瞬で色を変えるの両思いになった後の話」でした。
日常ものにするかエロにするか悩み、やっぱり一度はラブラブ恋人セックスを書いておこう!とエロを多めに盛り込んでみました。
前回は樫野視点だった分、樫野→→←佐伯なイメージでしたが、今回は樫野好き好き!!な佐伯の姿を書けて楽しかったです。顔射is最高。
素敵なリクエストをありがとうございました!楽しんでいただけますように!