▼ リバースコミュニケーション
俺の恋人は、とてもかわいい。決して惚気などではなく、事実本当にかわいいのだ。腕の中にすっぽりと収まってしまう小柄な身体も、ぱっちりとした瞳も、そのなにもかもが俺のツボなのである。
――そして今、俺はそんなかわいい恋人とついに初めてを迎えようとしている。
「実琴」
「ん…」
キスをしながら服の中に手を差し込むと、実琴は頬を染めて小さく息を吐いた。そんな彼の様子に興奮して、さらに服を上へとたくし上げる。すべすべとした肌が指の先に吸い付いてきて気持ちがいい。
「颯介、待って…」
露わになる胸の突起に手を伸ばすと、手首を掴まれた。性急すぎただろうかと不安になって尋ねてみる。
「まだ、駄目?」
「…やっぱり、今日、する?」
「俺はそのつもりで家に呼んだけど」
この日のために男同士のAVを見たり、何度も頭の中でシュミレーションしたり、こっそり準備を進めてきたのだ。初めてで失敗、なんてかっこ悪いところは絶対に見せたくない。
「うん…俺も颯介としたい」
「良かった」
にこりと余裕ぶった笑みを浮かべて見せるが、内心では盛大なガッツポーズである。
「けど」
え、と小さく声が漏れる。な、何か不安でも…?
「け、けど…?」
「折角の初めてなんだから、ゆっくりしよう」
「それは、もちろん。優しくする。絶対」
「え?」
「え?」
「優しくするって…颯介はされる側でしょ」
「え?」
「え?」
ベッドの上で向かい合ったまま、俺と実琴はぱちぱちと目を瞬いた。
――え?えぇ?
まさか…まさか!
「お…俺が、下!?」
「うん」
「無理だって。お尻使うんだろ?俺には無理!」
「俺だって無理だよ」
「実琴の方がかわいいのに?」
「確かに、俺は颯介みたいにかっこよくはないけど…でも、かわいいとかかっこいいとか関係なくない?」
「俺より背低いのに?小柄なのに?」
「ひどい。気にしてるんだよ」
「ご、ごめん」
それに、実琴が言葉を続ける。
「颯介は普通に女の子が好きだったんだから、男同士のやり方よく知らないでしょ?俺に任せて」
「いや、ちゃんと勉強したから。AVとかも見たし、ネットでもいろいろ…」
「ならやってみせてよ」
「え?」
「どうぞ」
実琴は瞳を閉じた。
「どうぞ…って?」
「なんでもしていいよ。好きなようにやってみて」
「じゃあ…」
「うん」
その頬を両手で包み込み、再び優しくキスをする。舌を滑り込ませて口内を掻き回すと、向こうもそれに応えてくれた。くちゅりと唾液の絡む音がして少し興奮する。
「んっ、んん…はぁ、そーすけ…」
甘い声で名前を呼ばれ、腰のあたりに熱が集まっていくのがわかった。実琴の手がするりと俺の胸を撫でたかと思うと、そのまま滑らかな仕草でシャツのボタンを外し、直接肌に触れてくる。
「んっ!?」
突然胸の先端に痛みにも似た強い感覚が走り、俺はびくりと小さく震えた。なんだろう、と疑問に思っているところに、畳みかけるように口付けが深くなる。
「は…っん、んぐっ、う…!?」
差し込んだ舌を絡めとられ、甘く噛みつかれた。苦しくなって息を吸おうと唇を開こうとした瞬間、ぎゅっと鼻をつままれる。急に呼吸の道を閉ざされて驚いた俺は、実琴の肩をぐいと押し退けようと手を伸ばし…たが、ぱしりと簡単に受け止められてしまった。
「ん゛っ、んん…!!ん―――ッ!!」
――く、苦しい…!死ぬ…!
やばい。くらくらする。酸欠ってこんな感じなのか、と回らない頭の片隅で考えていると、今度はいつの間にかベッドの上に押し倒されていた。
「…颯介、可愛い」
ぷは、と口を開けて酸素を吸い込む。段々とクリアになる視界に映るのは、実琴の赤い顔だった。
「げほ…っ、か、かわいい…?」
「俺はやっぱり、颯介はやられる側だと思うよ?」
「や、やられる…!?」
「あっ、だめだめ起き上がったら」
実琴は俺を押さえつけるためか、腰の上に跨ってくる。そしてその綺麗な手でゆっくりと俺の股間を撫でた。
「このまま、寝てて。舐めてあげるから、ね?」
「え?」
いいの?
「いいよ。俺もここに颯介の欲しい」
「…っ」
ぷにぷにした自身の唇を指さし、実琴は可愛く笑う。そんなの、勃たないわけがない。
「うん…舐めて」
ズボンのファスナーを下ろして下着をずらし、半勃ちのチンコを取り出した。
「ふふ、すごい、勃ってる…」
実琴は髪を耳にかけて、うっとりとした顔でそれを咥える。壮絶にエロい光景にごくりと息を呑んだ。
「んむ、ぅ…ん、んん」
先端を軽く食みつつ唾液を少しずつ垂らし、それを手のひらを使って全体に塗り込めていく。指の先が裏筋のいいところを掠める度、半勃ちだったそれの硬度が増した。
ぬち、ぬち、と湿った音が響く。温かい口の中はとてつもなく気持ちがよくて、次第に息があがっていった。
「んんっ!!」
尖らせた舌が敏感になった亀頭に押し付けられた瞬間、びりびりと強い快感が走る。思わず腰を浮き上がらせてしまった。
「は…実琴、そこ、いい…」
「…ここ…?」
「あ…ッ、ん、そこ、すげぇ…」
「颯介のちんぽ、ぬるぬるしたのいっぱい出てくるね…」
ここまで濡れてるよ、と実琴の指が俺のあらぬところをつつく。あらぬところ…そう、お尻の穴である。
「あ、ちょ…そこは、触るな…っ」
「んー…」
息を乱しながらそう言うと、指の動きが一層不穏なものになった。
「やっぱり、入れたいなぁ」
「だ、駄目だ、絶対…!俺がするか…らぁッ!あ!!」
ぱくりと再び奥まで咥えられ、途中で言葉が途切れてしまう。
「あ゛ッ、んはぁっ、あ゛――ッ!!うそ、ちょ…っ、待っ…うぁぁっ!!」
なんだこれなんだこれなんだこれ。声も涙も止まらない。
喉まで届いてしまいそうなほどのディープストロークと、全てを持っていかれるかのようなバキューム。ぶちゅ、ちゅく、と下品な音を立てながら実琴の頭が上下しているのが見える。あまりの気持ちよさにシーツを握り締めて悶えた。
「待って、みこ…っ、だめ、だめだ…!!いく、いくから!むり、むりぃぃ…ッ!!」
「んふ、んん…、ちゅ、イっていいよ?先っぽ苛めてあげようか?」
「いい!いじめなくてい゛い゛ぃぃぃ…ッ!!」
必死に拒否したにもかかわらず、実琴はぐりぐりと尿道口に舌を押し付けてくる。信じられないような強い刺激に襲われ、俺はがくがくと腰を震わせてのたうちまわった。
「はー…ッ、あ、でる、でる…っ!!いく、いくから、もうやめ…」
「ん」
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!!!!」
唇を噛み締めて仰け反ったその瞬間、勢いよく精が飛び出していくのがわかる。しかも。
「うぁっ…!?」
絶頂の余韻に浸る間もなく、ずぶりと指を肛門に差し込まれた。イったばかりで敏感な身体は、経験したことの無い違和感に悲鳴をあげる。
「なっ、なっ…実琴、ゆび…!?」
口の中に出された俺の精液を何のためらいもなく飲み干した実琴は、濡れた唇を拭って妖艶に笑った。
「颯介のいいとこ探してあげる」
――だ、誰…?
俺の知ってる実琴は、キスもセックスも全く知らないような純粋なやつで、守ってあげたくなるような可愛さで、そんな簡単に精液なんか飲み干したりしない。
「ひうぁ…っ!!」
「ここかな?」
「や、やめろ、いや…っ、そこ、変…ッ!!」
内側のある一点を押された瞬間、ちかちかと目の前に光が飛ぶ。いやだいやだと喚く俺に構うことなく、中の指は執拗にその場所を押し潰した。ぼろぼろと涙が溢れてきて、俺の顔はもう見るも無残な程ぐっしゃぐしゃだ。
「あ―――ッ!!あっ!!あぁ…っ!!」
「ちゃんとお尻で気持ちよくなれてるね?颯介のここ、さっきからガン勃ちだよ」
「うそ…っうそ、うそ、ちがう…わかんな…あっ!」
爪先がシーツを蹴った。悔しいけれど、とてつもなく気持ちが良い。
「ん゛、ん…ッ、はぁ、あ゛っ…あ゛ぁッ」
散々弄り回されているせいか、そろそろ声が嗄れそうだ。
「…もういいかな」
「んん…っ」
緩く抜き差しされていた指が、くぷりと音を立てて抜けていく。
「最初だから少し痛いかもしれないけど、大丈夫だよ」
「な、なにが…なに、何して…」
――まさか。本当に。そんな。嘘だろ。
「俺の、入れるね」
まるで天使のような可愛らしい笑顔を浮かべた実琴が、俺の両脚を大きく開かせた。そして。
「い゛――――ッ!!」
「颯介、キツい…っ、もっと力抜いて」
「むり、どうやって…ん…っぐ、う…!!」
散々慣らされたはずなのに、やはり指とちんこじゃ全然違う。痛いというか、苦しい。胃の中が引っくり返ったみたいだ。
「颯介」
「んむっ、んん、ぅ…は、んん」
頭の中が混乱して訳がわからなくなっている俺に、実琴は優しい口付けをくれた。柔らかな舌に頬の内側を擽られるのが気持ちが良くて、少しずつ身体の力が抜けていく。
「そう。上手…そのまま、俺の首に腕回して、舌絡めて」
「み、ん…っみこ、と…んは、ぁっ」
言われた通りシーツを掴んでいた手を移動させた。縋るように彼のシャツを掴んで何度も名前を呼ぶと、実琴は汗ばんだ顔で微笑む。
「なぁに、颯介」
きゅう、と心臓が痛くなった。実琴って、こんなに男臭く笑うやつだったっけ。
「全部、入ったよ」
「ぜ、全部…?」
「うん。ぴったりくっついてるの、わかるでしょ?」
確かに、お尻の辺りに実琴のすべすべした肌がくっついているのを感じる。
「は…ぁっ、はぁ、じゃあ、じゃあこれ…」
荒く息を吐きながら実琴を見上げた。
「俺と実琴、今、セックスしてんの…?」
俺の一言を聞いた実琴が目を瞬く。そしてふっと口元を緩ませた。
「…うん。今、俺と颯介、セックスしてるよ」
「そ…っか、そ、なんだ…」
予想もつかなかった現実を前にして、何とも形容しがたい気持ちが胸を支配する。
――嬉しいような、嬉しくないような。
「俺のこと抱きたかった?」
「そりゃ、そうだろ…」
「ごめんね」
最初から抱かれてやる気なんてなかったよ、と実琴は言った。にこりと口の端を吊り上げて笑うその顔は、可愛いというよりはむしろ。
「颯介にはこっち側が似合ってる」
――かっこいい。
「似合うって…っう、ぁ…!!」
ぬろぉ、とゆっくり引き抜かれ、咄嗟に声を漏らしてしまう。かと思いきやすぐにまた奥まで差し込まれた。抜いて、差し込んで、を緩やかなペースで繰り返される。
「ふ、う…っあ、あっ、あっ」
「はー…すご…中、きもちいい」
薄っすら頬を赤く染めて感じ入る実琴がものすごくエロくて、俺は抽送の感覚に耐えながらもじっと頭上を見つめた。
「…なーに見てるの?」
「だ…って、実琴、ッすごい、エロい顔、してる、から…っ!!」
「エロいのは颯介でしょ」
「んはぁッ、あ、うぅ…ッ!!」
反りかえった硬いモノが先ほど指で弄り回された場所をごりごりと押し潰す。
「初めてなのに、痛がってたくせに…ここ、もうこんなにして」
「ひぁっ!!」
弓なりになって悶える俺のちんこを、実琴の手が包み込んだ。
「いい…っ、いいから、触るな、だめ…ッ」
「一緒にすればもっと気持ちいいよ」
――だからそれが怖いんだって!
「やめ、て、やめて、実琴…、や…あ゛う゛っ!!」
くりくりと指で先端を擦るのと同時に、深いところまで一気に貫かれる。強い刺激に目の前が真っ白になり、腰が勝手に浮いた。
「あぁぁッ!あッ、う、んんっ、あっ、はぁ…!やっ、あぁっ!待っ…あ゛――っ!!」
「あっは!めっちゃ締まる、すごいよ颯介…っ!!」
ずちゅっずちゅっずちゅっぬぷっぬぷっ
壊れるんじゃないかというくらいの激しいピストン。おまけにだらだらと汁を垂らしているペニスも一緒に扱かれて、俺はもう泣くことしか出来ない。
「気持ちいい?ねぇ、気持ちいいよね?」
「うぐっ、う…ッ、いい、いいぃ…!!あ゛、いくっ、あっんあっ、あっ…いく、怖い、実琴、怖いぃぃ…!!」
「あー、かわいい…!」
「あ゛ッ!!」
ばちゅ、と腰と尻のぶつかる音がした。
――イくって、こんなの。無理。耐えられない。
「ひ―――――ん゛ん゛ン゛…っ!!!」
全身を痙攣させながら絶頂を迎えた瞬間、実琴は身体を倒して俺にキスをした。
「んふ、ぁ…っ、は…んん、んむっ」
「ん…っ、そ、すけ…!」
唇の中に小さな喘ぎ声が漏れる。激しく打ち付けられていた腰の動きが止まった。恐らく実琴もイったのだろう。
「はー…っ」
「うっ」
実琴がどさりと俺の上に倒れこんできた。二人ともまるで全力疾走した後のように汗だくだ。
「さいっこう…」
はぁはぁと荒い呼吸を整える俺に、実琴は色っぽい声で囁く。びくりと肩が跳ねた。
「颯介は?」
「…え…?」
「颯介も気持ち良かった?」
――そりゃ、もう、おかげさまで。
「う、うん…」
…正直、死ぬほど良かった。
指一本すら動かせないほどの疲労感。ぐったりとベッドに身体を沈め、余韻に浸る。
「ね?俺に任せて正解だったでしょ?」
実琴は汗で張り付いた俺の前髪をよけると、そのままそこに口付けた。ちょっと悪そうな笑みと甘やかすみたいなキスに、不覚にもときめいてしまう。
「すっごいエロい声出してたし、初めてだけどちゃんと後ろでイけたし、もうほんと可愛すぎ」
「…」
止めてくれ。思い出したくない。俺は顔を両手で覆う。
「…俺、新しい扉開けちゃったかもしれない…」
開けちゃいけないやつを。
「もうお婿にいけねーよ…」
「あははっ」
自身の痴態を反芻して落ち込む俺に、実琴は笑い声をあげた。
「颯介は俺がお婿にもらうから大丈夫」
「…」
「安心してたくさんセックスしようね」
「…」
「ねっ」
何が大丈夫なのかはもう考えたくなかったので、俺はただ一言「お手柔らかにお願いします」とだけ返しておいた。
end.
*
名無しさんリクエストで、「攻め:身長が低く顔も可愛いが性格は黒い。受け:身長が高く顔もイケメンで自分が攻めだと思っている。2人は同級生 内容:恋人同士の初めてのセックスの話最初はイケメン(受け)が攻めようとしていたが…」でした!
男前受けも腹黒攻めも体格差カップルも大好きなので、書いててすごく楽しかったです。ガッツリエロくしたつもりですがどうでしょう…。エロいかな…。
受け視点だったのであんまりイケメンっぽさが出せなかった気がします。「俺イケメンだぜ!!」みたいなキャラにするのもなんか違うなと…すみません。読むときは是非心の目で颯介をイケメン設定にしてください。
素敵なリクエストをありがとうございました!楽しんでいただけますように!