ss | ナノ


▼ 世界は一瞬で色を変える

「あっん…ふ、はぁぁ…ッ!」
「は、相変わらず、締まりのない顔…っ」
「やぁぁっ!んっ、みな、見ないでぇぇっ!!」
「お前がっ、誘った…んだろっ!」
「ひやぁぁっ!そ、だけどぉっ、あ、あ、う、い…っくぅぅ!」

佐伯は大きく仰け反り、シーツをぎゅっと掴みながらイった。ざわめきながら蠢く肉ビラに、俺も精を吐き出す。もちろんコンドームは装着済みだ。

汗だくのまま二人でベッドに突っ伏した。まだ息は荒い。

「はー…いま、何時…」
「19時ちょい過ぎ」
「えっ、ほんとに!樫野、今日用事あるっていってなかった?」

佐伯に言われて携帯を見た。彼女からの新着メッセージが一通。そうだ、今日、アイツ、泊まりにくるんだっけ。

「…行かなきゃ」

罪悪感で殺されそうだ。



高校生のときから、俺と佐伯はいわゆるセフレと呼ばれる関係である。思春期にありがちな性への好奇心がこの関係を作ったのだが、思いの外ハマってしまった。大学生になって彼女ができても、こっそりこうして秘密裏に行為を続けている。

…悪いことをしている、ということは分かっていた。俺の佐伯に対する思いが報われないことも。

でも、どうしようもない。佐伯の瞳が俺を見るのはセックスのときだけで、だから俺はそのために何度だって身体を繋げる。

「俊くん?」
「あ、悪い。なに?」
「もう…最近おかしいよ。私といてもずっと考え事ばかりしてる」
「ごめん」

彼女と一緒にいても、妖艶に笑う奴の姿が頭に浮かぶ。細い腰をくねらせ、樫野、と俺を誘う佐伯。

いつからだっけ。友達だったはずなのに、会う度にセックスしかしなくなって、不毛だって分かってるのにどんどん夢中になって。

「ごめん、本当に、ごめん」
「…俊くん?」

もう、辛い。辛いんだよ佐伯。



「どーしたのその顔」
「…お前には関係ねぇだろ」
「いやそうなんだけど。普通に気になるでしょ」
「寝ぼけてベッドから落ちた。床に打ち付けた。そんだけ」
「あっは!樫野もそんなことするんだ」
「うるせぇな。さっさと脱げよ」
「脱がして?」

俺の脚の上に乗って、誘うように上目遣い。どう考えたって男のすることではない。だけど、俺はそれに欲情する。

体中にキスをして、指でなぞって、撫でて、絡みあって、吐息を零す。

「ああっ!んっふ、ぅぁぁ、あっ、ちが、そこじゃなくてぇ…っ、やぁ!」
「わかっ…てる…ここ、だろ?」
「ん゛ーっ!あっ、そこ!そこ、イイ…イイ、あぁぁ…ッ」

ぐちゃぐちゃになったのは佐伯だけじゃなくて、俺も同じだ。気持ちよくて虚しくて霞がかった思考に支配され、そっと声を漏らした。

「好きだ…」
「あっあっ…ん、え…?」

はっと我に帰ったときにはもう遅い。佐伯の瞳がまん丸く見開かれていて、まるで時が止まったかのようだった。

「…いや、今のは…違う」
「…」
「…帰る」
「佐伯!待てって!」
「っん、抜いて、ほんと、いやだ…樫野」

みっともなく言い訳をする俺を引きはがし、佐伯は部屋を出ていってしまう。

終わったな、と思った。未だズキズキと痛む頬を撫でる。もちろんベッドから落ちたわけではない。ほかに好きな奴がいる、と彼女に言った結果である。

「…」

何に対しても中途半端な俺は、このままどこにも行けずに一人で死んでいくのかもしれない。

だって、佐伯以上に好きになれる人なんてどこにもいないんだ。



「樫野」
「え…」

数週間後。何故か佐伯が俺の家を訪れた。

「な、さ…っど、」

なんで、佐伯、どうして。もう終わったんじゃないのか。

言いたいことがありすぎて吃ると、佐伯はおかしそうに声を上げて笑う。

「落ち着きなよ。そんな慌ててるところ初めて見た」
「だってお前…」
「話、しようと思って」

何の話をするんだ。尋ねようとするも、声が掠れて出なかった。口の動きだけで察したらしく、会話が続けられる。

「樫野、俺のこと好きなの」
「…」
「嫌いなの」
「…」
「ちゃんと言ってよ。わかんないよ」

言いたくない。言ったら何かが変わってしまうんじゃないか。だったらこうして黙っている方がいい。

「あのさ、俺…考えたんだけど」
「…うん」
「セフレやめたい」
「い、いやだ」

そうじゃなくて、と佐伯が笑う。

「俺のこと、セフレとしてじゃなくて…恋人として、見て」
「恋、人…」
「俺はずっと好きだったよ。初めて抱かれたときから、樫野だけが」
「うそ」
「うそじゃない。お前に彼女ができたときめっちゃ泣いたからね」

うそ。うそ。うそだ。佐伯も俺と同じ気持ちだったなんて、そんな。

俺はお前のこと忘れようとするのに必死で、だから彼女に告白されても断らなくて。…結局別れてしまったけれど。

「だってお前、この間…逃げたし…」
「そりゃいきなり好きだなんて言われたら心の整理が必要になるよ。あれでも混乱してたんだ」

もう痛まなくなった頬を、奴の細い指がなぞる。ふ、と下から笑顔を向けられた。

「ごめん。この間の頬の腫れの原因に気づいたの、ほんの数時間前なんだ。樫野、もしかしたら彼女と別れたんじゃないのって」
「…」
「ねぇ、聞かせてよ。ちゃんともう一回、俺のことどう思ってるか」

どう思ってるか、なんて。何年も前から決まってる。



「佐伯、佐伯…好きだ、好きだ…」
「も、分かったから…やめて」

すでに一糸纏わぬ姿の佐伯に何度もキスをする。肌を通じて伝わってくる鼓動は不規則で、俺は少し口元を緩めた。

「お前が言えって言ったんだろ」
「そんなに何回も言わなくていいよ…っん、恥ずかしい、し…」
「お前でも羞恥心とかあるんだな」
「あるよ!俺を一体なんだと思ってるの!」
「今まで散々やらしいとこ見せ付けてきたくせに?」
「だからっ、それは…!」

ぐい、とその脚を掴んで広げさせる。秘部が丸見えだ。

「やだっ、樫野、やめて…っ、無理」
「今更。いつも自分から脚開いてオナってんだろ。見て樫野…って言ってたじゃねーか」
「…っ」
「あれ見てどんだけ俺が興奮してたか知らないだろ」
「知るわけ、ないだろ…っ!もぉ、見るなって」
「いやだ」
「ひ…っ!!」

佐伯の手を取り、尻の穴に導く。薄暗い中でもヒクヒク反応するのが見えた。

「ほら、いつもみたいに自分で慣らせよ。見ててやるから」
「やだ、やだ…樫野、俺、樫野の指がいい…ッ」
「…」

涙目でねだられ、ぐっと息を詰める。今までこんな風に求められたことはなかったためか、いちいちときめく自分が恨めしい。

「わかった。じゃあお前はチンコ扱いてろ」

トロトロと蜜を滴らせる佐伯自身のペニスを握らせた。代わりに俺の指を穴にあてがう。

「う、うん…っあ、樫野、指、入れてるの…?」
「入れてるよ。佐伯のココ、すげーやらしい」
「はぁぁっ、樫野、樫野ぉ…っ!」

ぐるりと入口の浅いところで指を回すと、それだけで腰が揺れた。次いでぐちゅぐちゅと音がする。佐伯が自分のモノを弄っている音だ。

「オナニー気持ちいい?」
「んっ、あ、きもちい、あう、ぅ、はぁ…っ!!」
「自分で乳首いじって見せて」
「んっんっ、んうっ、ち、ちくび…っ!」

言われたとおり胸に手を伸ばし、コリコリになった突起を自らいたぶる佐伯。先程まで恥ずかしいとか言ってたくせに。

乱れる佐伯の姿に煽られ、俺は指を深いところまで埋めた。間を置かずに激しく抽送を開始する。

「あぁぁっ!かしの、かしのぉ…っ!あっ、すご…ッやぁぁっ、いあっ、ん、んんーッ!同時とか、ぁぁっん、やめ、あぁっ!」
「俺はケツしかいじってない。チンコと乳首はお前だろ」
「だってぇ、と、とまんなぁっ…!ひううっ、あ、イっちゃう!イっちゃうぅ!」

乳首、ペニス、そしてアナル…と三つの快感を同時に与えられてもう限界らしい佐伯は、とろけた顔で腰を振りたくった。

…くそ、かわいい。

もう何年もずっとずっと抱き続けているのに、見てないところなんてないはずなのに、こいつは俺を何度だって夢中にさせる。

「か、っしの、かしの…!うっぁぁぁ…ッ!」

ビクビク震えながら佐伯は絶頂を迎えた。穴に埋めた指がキツく締め付けられる。

「…大丈夫か」
「う、あっ、はぁ…うん、き、気持ちよくて変になりそーだった…」

両思いってすごいね、と笑う。

「今までで一番イイかも。樫野の入れられたら…俺どうなっちゃうんだろ」
「…やめる?」
「いやいや、それはこの場で最もありえない選択肢でしょ」

そう言いながら、佐伯は俺のベルトを外した。そして。

「ん…入れて、樫野」

少し恥ずかしそうに目を逸らし、自ら脚を広げる。あまりにエロい光景に目眩がしそうになった。

…だから、煽るなって、この馬鹿。

「あっあっ、あ…樫野の、入ってくる…」
「…すげ、熱…」

自身をゆっくり埋め込む。熱く濡れた感触で初めて気がついたが、ゴムをしていない。慌てて引き抜こうとすると、ぎゅうっとしがみつかれた。

「な、なんで抜くの…?やだった?」
「いや、ゴムを…」
「そんなのいらない」
「いらないってお前…腹壊すぞ」
「いい。中に出して」

さらりとそんなことを言ってのけるものだから、また倒れそうになる。…どんだけエロいの、こいつ。

「樫野が欲しい…ね、いいでしょ。両思い記念」
「そんなことで記念を祝おうとするな」
「俺がいいって言ってるんだからいいの!」
「…わかったよ。でも後でちゃんと掻き出すから。俺が」
「自分でやるからいいよ。恥ずかしいし」
「いやだ。俺にやらせろ。そこは譲らない」

苦虫を噛み潰したような表情をする佐伯。

「もういいだろ…動くぞ」
「んっ、あ、待って、待って」
「なに、まだ何かあんの」
「あのね、樫野、好きだよ」
「っ」
「身体だけじゃなくて、ずっと樫野が好きだった。だから今すごく幸せ。ありがとう」

…それは、

「それは、俺のセリフだろ」
「あ…ッ、ん、ふ、ぁ…」
「佐伯…好きだよ。大好きだ」
「んんんっ!あっん、ん、あっ、ひうぅっ、んっはあ、あっあっ…!」

囁きながら律動を開始する。好きだと口にする度に腸壁が収縮し、締め付けられた。

「んっく、ぁ、イイっイイっあぁぁっ!!樫野…樫野ぉっ」
「かわいい、佐伯」
「あっう、ん!ふ、あぁっ!うぁぁんっ、う、ひっ…!」

ぼろ、と佐伯の瞳から涙が溢れる。そして子どものように声をあげて泣き出した。驚いて動きを止める。

「ど、どうした…?痛かった?」
「ちがっ…ん、う、ぇ…っ、かしのぉ…俺、俺」
「うん、なに?」
「俺、こんな風になれると、思ってなくてぇ…っ、ごめ、情けないって、分かってるんだけど…涙、止まんない…!」
「佐伯…」

…佐伯も、俺と同じだったんだ。いつの間にか夢中になって恋焦がれて、不毛だって決めつけて身体で繋ぎとめようとして。

俺がこいつを好きなのと同じくらい、こいつも俺のことを思ってくれている。そう考えると、胸の内に何か熱いものが溢れて止まらなくなった。

「佐伯…っ、すきだ、すきだ、もう離さない」
「んっ、ふ、ぁ、あっあっひ、樫野っ、樫野っ、あ、もっと、奥…ッちょうだい…!」

ズッズッと腰を突き入れる。佐伯の腕が背中に回り、指の腹で皮膚を押された。爪を立てようとしないのはいつもの癖なのか。…今はもう、どれだけ痕が残ろうと気にしないのに。

汗にまみれた肌を合わせ、腹の間で揺れる佐伯のペニスを軽く扱く。ヌルヌルした透明な液で手がびしょ濡れだ。

「は…っ佐伯のここ、やばい…」
「やぁぁっ、触んないでっ、も、ほんとやばいから…ッ!んぁぁっあっあぁぁっ!」

くちくちと鈴口を擦れば、腸壁が収縮を増して外に押し出されそうになる。そこを無理矢理割り拓くように強く腰を押し付け、ただひたすらに佐伯が好きなポイントを抉った。

「んぐっ、ふぁぁぁっ!あっうう、ひやぁぁっあっそこっ、そこぉぉっかしのっ!かしの!」
「ん、もう…いく」
「俺もっ、俺もいく…っ!あっ、あっ…んんんんんッ!」
「…く、ぁ…っ」

全身を突っぱらせ、佐伯が白濁を飛ばす。ぐっと息を詰めて射精を堪えようとするが無理だった。溶けそうな快感に酔いしれ、奥の奥まで精液を注ぎ込む。

「は、ぁ、樫野、樫野…」
「…佐伯、恋人になろう」
「あは、どしたの急に改まって」

恋人になろう。ここから始めよう。今まで遠回りした分、新しく作り直そう。

「…でも、うん、そうだね…恋人に、なろう」

汗の滲む肌を合わせ、俺達は初めてキスを交わした。



ゆいさんへ

誘い受け、片方が恋人持ちのセフレ→両思い発覚というリクエストでした。

少々長々しくなってしまいましたが、気に入ってくださいますように!リクエストありがとうございました!


[ topmokuji ]



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