▼ 秘密の王子様
クラスメイトの八名川史郎を、一言で表すとしたらそれは「王子様」だ。
奴は持ち前の明るさと人懐っこさ、憎めないキャラクターと何よりその美しい容姿のおかげで、学校中の人気者である。
しかし俺にとって八名川は、ただのアホ男だった。
「あ、あっあっ、きもち、いっああん!」
綺麗な顔を歪ませて喘ぐ八名川。…どうして俺とこいつがこんな関係になったのか、未だに理解できない。
「なるせ、なるせぇ、もっとぉ…っ」
八名川は俺を好きだと言う。抱かれたいと言う。さっぱり分からない。こんな平凡で取り柄もない男のどこが良いのか。もっと周りに良い人はいるだろうに。
「ああっ、なるせ、すきぃ、すきだよ…ぁっ」
腰に長い足が巻きついてくる。いわゆる駅弁と呼ばれる体位。少し動きづらくなったが、構わず律動を続けた。
「っはぁ、ああっ、あぁぁっんっやぁっ」
後頭部を後ろの壁に擦り付け、快感のあまり泣き出してしまう八名川。ぎゅうぎゅうに締め付けてくる肉壁に、汗が滲んでくる。
「八名川」
「うぁっ、なに?なに?」
「…ちょっと、声、抑えろ」
「んっ…ん、わかったぁ、んんっ」
素直すぎるだろ。どれだけ俺のこと好きなんだ。
「ふっ…ぁ、んん、んぐっ、んぅ…んんん!」
「唇噛むな」
「ぁ、う、だって、声…んぁぁっ」
仕方ない。上半身を前に倒し、噛み付くように口を塞いだ。漏れる声を全て自分の喉奥に吸い取ってしまう。
「んぁ…ふ、っぁ」
「…」
こいつはキスが好きだ。自分から舌を絡め、嬉しそうに俺の口付けを貪っている。身体の方も悦んでいるのか、腸全体が精液を搾り取るかのごとくうねった。
「はぁ…っ」
力いっぱい最奥まで叩きつける。そうしないと押し出されてしまいそうだ。ぐちゃぐちゃになったペニスで何度も何度も中を割り開いた。正直もう腰がだるい。
「ひっあぁっ、激し、ああっあっあっあっ、も、だめ、いくっ」
「早く、っいけよ」
「やぁっ、なるせっなるせもいっしょがいいっ!いっしょにいって!」
「やだ」
「なんでぇっはあぁアん!ちょ、だめだめっそんな突いたらいっちゃううっ」
そう叫びながら、奴ははしたなく濡れそぼっているペニスから白濁を飛ばした。吐き出された液体は二人の腹の間を伝い、床に染みを作っていく。
絶頂を迎え脱力していく八名川の身体。脚をしっかりと抱え直し、痙攣している内壁を好き勝手に抉りまくった。勿論こちらがイくためだ。
「あ、うう、う、んん…あぁ…ッ、そ、な…擦っちゃだめぇ…」
「…」
「鳴瀬、鳴瀬…んっ、イイ!そこ!そこイイっあぁ!」
どっちだよ、と思いながらイイと言われた場所を重点的に攻める。きゅっきゅっと断続的に締まる入り口が途轍もなく気持ちいい。
「…くっ」
「あひゃぁぁっ!あ、ナカ、出てるっ!なるせぇっ!」
耐えきれずに精液をぶちまけた。八名川の身体をきつく抱き締めながら、最後の一滴まで注ぎ込む。
「あ、ぁ…多い…溢れちゃう」
恍惚の表情を浮かべ腰を揺する奴を見て、思わず固まってしまった。…こいつ、なんて顔しやがる。
「…八名川」
「ん…?なに?」
「お前…本当に俺が好きなのか」
お前なら女の子だって選び放題だろ。わざわざ尻の穴を捧げなくたって、自分が突っ込む側になれるんだぞ。なのに何故。
「好きだよ。鳴瀬ちょーかっこいいもん」
「お前の方がかっこいい」
「あはっ、ありがと。嬉しいな」
「…」
「鳴瀬は俺のこと好きなの?それともただのセフレ?」
まぁ傍にいられるならどっちでもいいけど、と微笑む八名川。
俺、俺は…。
「…好きでもない奴とこんなことするわけないだろ」
キスもセックスも、お前とだから気持ちいい。屈託なく笑いながら懐いてくるお前に、俺は存外絆されてしまっているようだ。
いつの間にか、こんなにも夢中になっている。
「んふ、知ってる。でもちゃんと言って?」
「言ってって…」
「好きって、俺のこと好きって。鳴瀬の口から聞きたい」
「…」
キラキラ輝く王子のような笑顔に見つめられ、俺は言葉に詰まった。そんなこと、改まって言えるわけ…。
「鳴瀬」
「ぐっ」
首を締められた。先程の可愛かった八名川の姿はどこにもない。巻きついたままの脚もぎっちぎちに腰を締め上げている。
…仕方ない。こいつに惚れてしまった以上、俺はこうして尻に敷かれる運命にあるのかもしれない。
「八名川」
「うん」
王子の耳元に口を寄せ、俺は最大限の愛の言葉を囁いた。
「好きだ」