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▼ 全ては愛しい人のために

ある休日の昼下がり。リビングにのそのそと起きて来た俺を見て、隆幸が手招きした。

「兄さん、ちょっとこっち来て」
「?」
「足、出して」
「足?」

言われた通り彼の前に足を差し出す。なんだろうと思っていると、足首に何かアクセサリーのようなものをつけられた。

「これ、なに」
「アンクレットだよ。足首につけるブレスレットみたいなもの」
「くれるのか?」
「くれるっていうか…まぁ、単に付けて欲しかっただけなんだけど」

足首でキラキラと輝くシルバー。特別な装飾はされておらずシンプルなデザインだったが、一目で高そうな代物だということは分かった。

「これを兄さんにプレゼントしたくて、最近バイトしてたんだ。この間の女の人はバイト先の人」
「バイト?」
「うん。やっぱり兄さんにプレゼントするものは、自分のお金で買いたかったからさ。寂しがらせてごめんね」

隆幸が俺の体を抱き上げる。ソファに座る彼の膝に跨がり、優しいその表情をじっと見つめた。

サラサラの髪。穏やかな瞳。程よく筋肉のついた身体。この人の全てが俺のものだ。

「…ありがとう。嬉しい。俺も何かお返しする」
「いいよそんなの。兄さんはそこにいてくれるだけでいい」
「…」

それはちょっと。俺は言われなくたってお前の傍にいるつもりなのに。そうじゃなくて別の、特別のものを与えたい。俺じゃなきゃなし得ないような、そんなものを。

たった今もらった、アンクレット、とやらを隆幸の指が撫でる。

「左足首のアンクレットは、誰かの所有物であることの印なんだよ」
「…俺は隆幸の所有物?」
「違った?」

首を横に振った。違わない。所有物で良い。この人の全てが俺のためにあるのなら、俺の身体も心も全て隆幸のためにある。

「…所有物…」

ふ、と笑みが勝手に零れる。そうか、俺はこの人に所有されているのか。嬉しいな。存在価値を与えられているようだ。

ここにいていいんだよって、無駄なんかじゃないよって、ここにその印が。

自然と顔が近づいて、唇が合わさった。甘い甘いキス。

「ん、ん…」

ちゅっちゅっと小鳥のように小刻みに吸い付いてくる。それだけのことなのにどんどん身体が熱くなって、勝手に腰が揺れた。

「ぁ、は…たかゆきぃ」
「兄さん、俺の兄さん…」
「ふ…っんん」
「もうやらしい気分になっちゃった?目がとろけてるよ」
「だって…あっ」

ハーフパンツの隙間から大きな手が侵入してくる。肌に触れるか触れないかのところで撫でられ、もどかしさに背中をくねらせた。

「あ、あ、触って…ちゃんと」
「そういうときは何て言うんだっけ?」
「…っん、好き…好きぃ…隆幸、大好き、愛してる」
「うん、俺もだよ兄さん」
「ああっ」

太ももをいやらしく撫で回され、はぁはぁと荒い息が漏れる。手が、指が、肌に触れる度に快感を加速させた。

「ん、ん…」

隆幸の首筋に唇を当て、強く吸い付く。赤い鬱血痕が咲いてゆくのを見て、満足感に浸った。

「できた…」
「キスマーク?」
「ん。隆幸は、俺のもの…だから」
「嬉しいよ。もっと沢山つけて欲しいな」
「分かった…ん、」

再び首に顔を埋めた瞬間、Tシャツの上から胸の飾りを軽くひねられる。ビクン、と全身に力が入った。

「ん、ふ、ぅ…ちゅっ、あ」
「もっと強く吸わないと」
「んんんっ、あ、わかって…る、ひっ」
「可愛い声」

もっと聞かせて、と囁いて激しくなる指先。右手は乳首。左手は、

「や…っ、そこ、は…」

くにくにとズボンの上からお尻の穴をなぞられた。もうすっかり開発されてしまった身体は、貪欲にその指を求めようとする。

「そこ…やぁ」
「やじゃないでしょ?」
「気持ちよすぎて、変になるからいや…」
「ふふ、それじゃ仕方ないね」

まだ明るいリビングでセックスなどという恥ずかしい行為をするのは、無理だ。初めて交わったときはよく分からなかったが、あれから俺もかなり知識がついた。もちろん羞恥心だってある。

少し熱を宿してしまった身体を鎮めながら、俺は隆幸にぎゅうっと抱きつく。

「隆幸」
「なぁに、兄さん」
「もう、バイトない?早く帰ってくる?女の人と会わない?」
「うん。真っ直ぐ家に帰って、兄さんの傍にいるよ」
「そっか」

なら、安心だ。

「たかゆき…」
「ん?」
「俺はバイトできないし、プレゼントなんて買えないけど…これが、アンクレットの代わりな」

首に散った赤いキスマーク。いわば首輪だ。彼が何処にも行かないように。俺の元にくくりつけておけるように。

指で軽くその痕に触れ、ふふふと笑った。逃れられないんだよ、隆幸。消えたらまた何度だってつけてやる。

隆幸は溜息を一つ吐き、そのたくましい腕で俺を抱きしめて言う。

「…参ったなぁ、幸せだ」
「幸せ?」
「兄さんとこんな風になるの、夢だったから」
「知らなかった」
「嫌われたくなくて気持ちを隠してたからね」
「ふうん…」
「でも今はそんな必要もない。もっと俺を縛って、もっと俺に執着して。ね?兄さん」
「うん」

左足のアンクレットの重み。彼の愛が、俺を強く強く縛り付ける。

まるで足枷のよう。そんなことしなくたって、俺はお前から離れたりしない。だけどそうやって繋がれることに幸福感を感じることも事実だ。

先程よりも更に深く深く口付けを交わしながら、俺は今日もまた一つ彼に溺れていく。


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