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▼ ゆきひろくんのお勉強

「…」

隆幸が言っていた「精液」とやらをネットで調べてみた。確かに世の中の男たちは、自慰行為と呼ばれるものを行うことによって、自身でそれを放出させるらしい。全く知らなかった。

机に向かって黙々と勉強をしている弟。そのピンと伸びた綺麗な背中を眺めながら本を読むのが、最近のマイブームだ。

隆幸、兄さんもちゃんと勉強したんだよ。だからいつもみたいによしよしって頭撫でて、えらいねって言ってくれよ。

「隆幸」
「なに?」
「この間のやつ、アナルセックス…って、言うんだろ?」
「は!?」

げほげほと激しく咳き込む隆幸。慌てて立ち上がり、その背中をさすってやる。どうしたんだいきなり。

「ど、どこで聞いたのそんなこと…」
「ネットで調べた」

便利な世の中になったものだ。いろいろな情報を身につけて、俺は少し賢くなったような誇らしげな気持ちになっていた。

「お尻の穴を使ったセックスはアナルセックスと呼ぶんだって書いてあった」
「あぁ…うん、まぁ…そうだね…」
「でも、アナルにナマでペニスを挿入するのは、性病につながるんだろ?」
「兄さん」

勘弁して…と呟きながら、隆幸は顔を両手で覆った。

あれ、俺なんか間違ったこと言っただろうか。結構詳しく調べたつもりだったが、やはりネットの情報をあてにしすぎるのは駄目だな。

「いや、間違ってない。間違ってないんだけど…」
「それなら良かった」
「…俺以外の前でセックスとかアナルとか言ったら駄目だよ」
「ん。分かった。言わない」

そうだ。丁度良い。自分の部屋から持ってきた箱を、目の前に差し出す。

「何?これ」
「コンドーム?ってやつ」
「コ…」
「よく分からなかったから、レビュー評価が高いやつを注文した」

精液は本来子作りをするのに必要なものらしい…と、いうことはだ。

さすさすと自分の下腹を撫で、隆幸に向き合った。

「赤ちゃんできちゃったら困るし…」

俺に子どもを育てる力があるとは思えないし、なにより隆幸はまだ高校生だ。子作りをするのは危険すぎる。

この間は初めてでいろいろ知識がなかったから仕方がないけれど、今度からは精液を中に出すのは自粛してもらおう。そのためのコンドームだ。

「…兄さん」
「ん?」

突然掠れた声で呼ばれ、視線を上げる。

「俺もう心臓が苦しい…」
「えっ」
「兄さんが可愛すぎてきゅんきゅんする…お願い、抱きしめさせて」

顔を真っ赤にさせてこちらを見つめる隆幸。今のどこに胸きゅんするような要素があったのか全く持って謎である。

でもまぁ特に拒む理由も無いので、大人しくその腕の中に身体を収めた。ぎゅううっと骨が折れそうなくらい力をこめられる。

「俺が大人になって頑張って稼いだら、兄さんは俺の赤ちゃん産んでくれる?」
「んん…考えとく」
「そっか。じゃあ兄さんと子どもを養えるような立派な大人になるよ」
「…お、俺は何をすれば…っん」

ついばむようなキス。とろけそうな甘い笑みで、隆幸が言った。

「幸広は俺に愛されてればそれでいい」

そうか。

…いや、それは親としてどうかと。産むからにはきちんと責任をもってだな。

中卒ニート引きこもりが何を言ってるんだと思われるかもしれないが、さすがに家庭を持つというのがどんなに大変かということは、なんとなく理解できる。

「俺も何かしたい」
「じゃあ…キスして」
「そういうことじゃないんだけど…」

とりあえず、母親に料理でも教わろうかなと思った。


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