▼ 俺の恋人
色付きのTシャツは裏返して洗濯機に入れろ。食べ終わったプリンのカップはちゃんと洗え。帰りが22時以降になるときは必ず連絡して、どこに行くのかはっきりさせること。
「だぁぁぁぁっ!うっせぇぇぇ!」
「お前の方がうるさい」
「いちいち細けぇんだよ!」
「瑞貴が大雑把すぎるだけ」
「お前は俺のかーちゃんか!」
新居も決めて、引っ越しの日程も大体決めた。それに応じて、ひふみの家に入ることが多くなった。
いきなり一緒に暮らし始めるのもあれかな、と思ったのだ。少しずつ一緒にいる時間を長くして慣れていこうという俺なりの配慮?みたいな。
…いやちょっと嘘です。引っ越しの準備が進まなすぎて家が散らかっているだけです。
まぁそんなわけで今日も泊まるつもりでいたんだけど、口うるさくてたまらない。前はそんな細かく言われたことなかったのに。
「女みてぇにぐちぐち言いやがって…」
「これくらい普通だろ」
「普通じゃねぇし」
「お前に好き勝手させてたら家がゴミ屋敷になる」
「なんねーよ!馬鹿にすんな!」
ムカつくのはこっちだっつの。まじで面倒くさい。プリンカップ洗えってなんだよ…じゃあ食わねぇよプリン…。
「はー…こんなこと毎日言われてたらストレス溜まるわ」
ぴく、とひふみが固まった。そして。
「じゃあやめる?同棲すんの」
「はぁ?なんでそうなんの?」
「俺といたらストレス溜まるんだろ」
「そんなこと言ってない」
「言った」
「言ってねぇ!」
「…もういいよ。瑞貴の気持ちは分かった」
読んでいた本を閉じて、鋭い視線で睨んでくる。
「帰れば?女みたいに口うるさい奴の家なんかに居たくないだろ」
――完全に怒らせた。
*
「どした、そんなしかめっ面して」
「…喧嘩した、から…謝罪のメール送ってる」
「えっまじで!?美人クール系彼女と!?なんで!?」
いつの間にか俺は鈴島の中でクールな美人と付き合っていることになっているらしい。違うって何回も言ってんのに。まぁいいけどさ。性別以外は間違ってないし。
「全面的に俺が悪い。イライラしててひどいこと言った」
「イライラねぇ…んで、仲直りできそうにない?」
「分からん。メールも電話も全部シカトされる」
「あっちゃー。それやばいぞ。こじらせんなよ。別れることにもなりかねんぞ」
絶対絶対絶対それだけはありえない。とは言ったものの、内心は汗だらだらだ。
ごめんな俺が悪かったとメールを送っても、電話に出てくれと留守電を残しても、一向にひふみは反応を返してくれない。これはもう直接会いに行くしかないと思ったが、アイツは仕事が忙しいし、疲れて帰ってきたときに俺の顔なんか見たくないかもしれない。
というわけで、俺は絶望の淵に立たされているのである。
「はぁ…馬鹿、俺の馬鹿」
何であんなこと言っちゃったんだよ。いつもいつもそうだ。後先考えずに口先ばっかで、それを言われた相手の気持ちなんてちっとも考えない。
ひふみと一緒にいたい。そう望んでいるのは確かなのに、言ってはいけないことを口に出して傷つけた。
「おい」
「あーもうほっといて。今すげー落ち込んでるから追い打ちかけないで」
「落ち込むくらいなら最初からあんなこと言うんじゃねぇよ、クソ馬鹿」
えっ。
「ひっ、ひふみ、なんで学校に…会社は…」
「今日休み」
「え…聞いてない…」
「言ってないし。いいから来い」
「うわっ、ちょ、え、鈴島は!?」
「知らない」
「あっ、待って電話…!」
鳴りだした携帯を慌ててとる。
『もしもし萩尾?ジュース何がいい?かわいそうだから奢ってやるよ』
「ごめん俺急用思い出したから帰る!」
『あ、そうなの?』
「ごめんまじごめんありがとう!」
性急に通話を終わらせ、スタスタと歩いて行くひふみの後を慌てて追いかけた。
*
辿り着いた先はひふみの家だった。喧嘩してからずっと来ていなかったので、何だか久しぶりな気がする。
今まで無言を保っていたひふみが振り返った。
「…何、その顔」
「何って…」
「馬鹿じゃねぇの。そんな泣きそうな顔しやがって」
俺は今泣きそうな顔をしているのか。言われて初めて分かる。
「あの、俺、俺…ごめん…言っちゃいけないこと、言った」
「…」
ずっと一緒にいるから、それが当たり前になってしまっていた。当たり前なんてどこにもないのに。いつまた離れるか分からないのに。
二人でいた時間がどんなに長くたって、いやむしろ長いからこそ見失っちゃいけないのに。
「でもお前と一緒にいたいって思ってるのは本当だから、それだけは嘘じゃないから…信じてもらえないかもしれないけど…俺、ひふみと離れたくない…ごめん、ごめん…なさい」
ぐいっと腕を引かれ、抱きしめられた。頭上で溜息が聞こえる。
「…もういーよ。許してやる。俺も大人げないこと言ったし」
「ひ、ひふみぃ…」
良かった。本当に良かった。安堵して顔を上げると、ひふみは少しだけおかしそうに笑った。
「反省した?」
「した…」
「じゃあ仲直りな」
ちゅ、と軽く口付けられる。そんな他愛のないキスすら久々で、もっととねだるように自分から顔を近づけた。
「サカってんなよ」
「だって」
「仲直りセックスしたい?」
「…そういうあけすけな言い方やめろ」
まぁ、したいけど。
「俺を怒らせたからには、分かってるよな?」
…やっぱり、やめようかな。
*
「あっあっあぁっあうっんん…っはぁ、やっ、そこ…っむり」
「泣いてんじゃねーよこんくらいで」
「ひっあぁぁぁぁ!やらぁぁっ、い…っ、いく、いくうっ」
「は?また一人でイくわけ?」
淫乱、と楽しそうな声が聞こえる。バックで突かれているので、涙や涎やらでぐっちゃぐちゃになった顔を見られないことだけが救いだ。
「あ゛ぁ…ッ」
びくびくと背中をしならせて、もう何度目かも分からない絶頂を迎える。精液はすでに薄く半透明になってしまっていた。尻の穴には何度も注ぎ込まれたひふみの精液が溢れかえっている。
「やぁぁぁぁっ!も、おねがいぃぃっ、でな、でないからぁぁぁっ!やめて、やめてよぉぉ…ひうっあ、あ゛っあ゛っ!」
イっているところをさらに激しくばつばつと突かれ、悲鳴をあげた。
「まだ…っ勃ってるじゃん。なんか超ヌルヌルしたの出てるし」
「いやっさわんなぁぁっ!うっあっんんん!ひぎっあぁぁっ!」
ガクン、と腕の力が抜ける。枕にだらだら涎を垂らしながら必死に逃れようとした。が、しかしひふみの手ががっちりと俺の腰を掴んで離さない。
もう出せない。つらい。やだ。さっきから突かれる度にイってるような気がしている。もう何が何だか分からない。痙攣しっぱなしで身体のコントロールが出来ない。
「うっあ、あ、あぁ…っ!ひふみ、ひふみぃ…!」
「なん、だよ…っていうか、お前さっきからずっとイってない?」
「んんっんっあ、だって、だってぇっ、あぁぁっ!あっうぅ!あ、ひふみ!ひふみ…ッ!」
「だから、なんだって聞いてんの…!」
飛びそうな意識を手繰り寄せ、くるりと振り返る。
「キスしたい、あぁっ、キス…ッして、してぇっ」
額に汗を滲ませたひふみが一瞬固まり…にやりと口を歪めた。
「やだ」
「んっあ、やぁ、なんで、なんでしてくれんのぉ…ひ、あっあっ、ちょ、激し、やめ…!!」
一層突き上げが激しくなる。キスをしてくれないもどかしさ、ナカを掻き回される快感、二重の意味で涙がまた溢れた。
「俺、結構傷ついたけ…っ、お前の言うこと、今日は聞いてやらん」
ぐちゅぐちゅずぷずぷひどい音がする。穴から溢れだした精液が、どろりと太ももに伝う感触がした。
「っく、ああっ、ごめ、ごめんってばぁ!あぁぁぁっ、も、だめ…っくる、あ゛っいく!」
「ん、あ…俺もイく」
「あぁぁぁぁ…っ!!」
なけなし程度の射精をし、ガクガクながら狂いそうなほどの絶頂を迎える。穴の中にまた大量の精液を出されたのが分かった。どんだけだよこいつ…。どんだけ溜まってたの…。
「…っはぁ、あ…」
「ん――ッ、あ、あ、も…お腹、くるし…あんっ!」
ぬる、とちんこが抜けていく。汗だくだし上手く呼吸できないしもう腹パンパンだし苦しいしもう最悪だ。脱力してベッドに沈み込むと、その上からひふみが覆いかぶさってきた。
「重い」
「あーすげー出した…もう出らん…」
「やりすぎだっつの…」
「反省した?」
「したっつったじゃん!」
「言葉だけじゃ甘いからな。ちゃんとお灸を据えておかないと」
「…悪かったよ」
拗ねた声でもう一度謝ると、後ろから頬に口付けられる。
「こっち向け」
「なんで」
「お望み通りキスしてやる」
「…」
最後の最後まで上から目線だ。しかし悪いのはこちらなので何も言えない。
身体の向きを変え、首に腕を回す。柔らかく触れる唇に安堵して、俺はもう一度ごめんなと呟いた。
「いいって。もう怒ってないし」
「本当か?」
「あんなメールもらったら怒る気失せるだろ」
「あ…っ、あれは、必死で」
「俺はひふみがいないと駄目になる。一生俺の傍にいてく…」
「わぁぁぁぁ!うるさい!うるさい!」
「くはっ、恥ずかしい奴」
でも、と抱きしめられる。
「嬉しかった」
「そ、そーですか…」
「心配しなくても離れる気なんかねーよ」
「…うん」
「あと俺はお前の母親じゃないから」
「こ、恋人、だろ」
分かってるっつの。
「正解」
久しぶりのひふみの笑顔にドキドキしながら、俺はこいつを怒らせると大変面倒なことになるということを学んだのだった。
end.
*
名無しさん2名
すれ違いからの甘々エッチというリクエストでした。同棲ちょっと前の二人の話です。
ひふみは結構綺麗好きというか、神経質っぽそうだなぁと。瑞貴は逆にズボラ。
気に入ってくださいますように!リクエストありがとうございました!
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