▼ 07
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「うーん…」
「まだ悩んでんのかよ…」
いいから行くぞ、と服の裾を引っ張る。さっきからずっとここばっか見てんじゃねーか。いい加減飽きたし。
当初の目的は不動産を巡ることだったのに、何故か俺たちはショッピングモールで家具を眺めている。
俺たちっていうか、主にひふみが。
「これなんかどう?」
大きな大きなキングサイズのベッドを指差すひふみ。
「でかくね?」
どんだけ広い部屋に住むつもりだ。
「この間瑞貴の家行ったとき、やっぱシングルだと狭いなって思ったから」
「狭くて悪かったな」
「いや、ぶっちゃけ俺は構わないけど、お前がいつベッドから落ちるかはらはらするんだよ」
「は?」
「セックスするとき。お前すげー動くじゃん。たまに逃げようとするし」
「なっ…お、俺はそんなこと…!」
「いっそのことすごい大きいやつ買った方がよくない?これならそう簡単には落ちなさそう」
白昼堂々公共の場で、情事の話をしていることが、ひどく恥ずかしい。顔から火が出そうだ。
「か、勝手にしろよもう…」
両手で顔を隠し、逃げるようにその場を去る。
…っとに、こいつは!ロクなこと言わねえな!変態!エロ魔人!馬鹿!
「おい瑞貴、待て」
「待たねえ!」
足の長いひふみはすぐに追いついてきて、俺の腕を掴んだ。そしてこちらの赤くなった顔を見て笑う。
「今更なに恥ずかしがってんの」
「恥ずかしいに今更もクソもあるか!」
「もう数え切れないほどしたのに?」
そういう問題ではない。
たとえ身体を重ねた回数は数え切れなかったとしても、そこに一度だって同じ行為はなかったのだ。
時が経てば経つほど気持ちは降り積もる。ひふみに対する気持ちは、日々増幅している。日増しに好きになっていく。
こいつを好きだと思う気持ちが同じ日なんて一度もない。
同じ気持ちで抱かれた日なんて一度もない。
だから恥ずかしいと感じるのも当然なのだ。
こんなこと、こっぱずかしくて言えやしないが。
「いいから行くぞっ」
「はいはい」
ひふみも俺と同じであればいい。互いが互いを思い合うような、そんな幸せな恋を。
「今日こそ部屋決める!」
「良いところがあればな」
「お前も真剣に選べよ!俺に任せてないで!」
「分かってる」
本当かよ。ジト目で横を歩くひふみを睨む。が、ニヤリといやらしい笑みが返ってきただけだ。
「誘ってんなよ瑞貴くん」
「…この年中煩悩野郎」
「早くあのキングサイズのベッドでしたいな」
「一人でしろよもう…」
さて、どんな部屋にしよう。どんな場所がふさわしいだろう。
二人が描く未来の中に映る部屋は、どんなカタチをしているだろう。
まだ分からない。どれが正解かも知らない。
ただ一つ分かっていることがあるとすれば、それは先ほどの大きなベッドが近いうちに俺とひふみの寝床になるということだった。
end.
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