▼ 01
部屋のクーラーが壊れた。もともと暑がりな俺にとって、これはもう拷問以外の何物でもない。
「あ゛つ゛い゛…」
座っているだけで汗が出てくる。段々腹立ってきた。何でこんなときに限ってこんな暑いんだよ!馬鹿か!
業者に連絡をとってみたのはいいが、修理に来れるのは明後日らしい。ふざけんな。その前にもう今日溶けてなくなってしまうわ。
とりあえず扇風機の前にへばりつき、流れる汗をひたすら拭い続けるだけの時間を送る。あぁぁ、もう。暑い。暑いとしか言えない。
「あ、そうだ」
いいこと思いついた。ひふみの家に行けばいいんだ。どうしてこんな簡単なことに気が付かなかったんだろう。そうと決まればさっさとこのクソ暑い空間から脱出してやる。
服なんて着ていられず、パンツ一丁のままだった俺。着替えるために立ち上がった瞬間、玄関が開いた。
「…」
「…」
ひふみだ。汗をだらだらかいている俺をきょとんと見つめ…合点がいったように頷く。
「…ソロプレイ中か」
「なんでだよ!ちげーよ!」
そういうことしか考えられないのかお前は!
「はぁぁぁ…何で来んの?」
今から行こうと思ったのにタイミング悪すぎだろ。少しキレ気味な口調でそう言うと、玄関に立ったままちょっと不機嫌になるひふみ。
「あっそ。じゃあ帰る」
「あっ、ちが…そういう意味じゃなくて」
「なんだよ」
「今からお前の家行くつもりだったから」
「…パンイチで?」
「んなわけあるか!!」
辿り着く前に捕まるわ。
「クーラー壊れてさぁ…もう暑くて暑くて死にそうだったから、お前のとこで涼もうと思って」
「あぁ…確かに暑いな」
「だろ?」
極度の寒がりであるひふみにとっても、さすがにこの気温は暑いらしい。その首に少し汗が光っていた。
「うち泊まる?」
「えっまじで。助かる」
「じゃあさっさと用意しろよ。待ってるから」
「あ、じゃあちょっとシャワー浴びさせて」
汗が気持ち悪い。体中べとべとだ。
「俺も入る」
「はぁ?」
「ここに来るまでに汗かいたし」
「あのなぁ、シャワーっつってんだろ。湯船にお湯を張るんじゃないんだぞ?」
「じゃあお湯張ればいいじゃん」
「無理。時間かかる。一刻も早く俺はこの部屋から逃れたいんだ」
「一緒に入らないなら泊まらせない」
「!!」
鬼かこいつ。…大体なんでいっつもいっつも一緒に入りたがるんだよ。お前と入るとロクなことがないから嫌なんだけど。
ふん、と勝ち誇ったように笑う奴の顔を睨み上げる。が、しかしその間にもじわじわ汗が滲み出て来て、いい加減限界だった俺は即行で諦めた。駄目だ。このままじゃ干からびる。
「分かった。一緒に入ってもいい。ただしお前の家にしてくれ」
「いーけど」
「あとなるべく変なことはしない方向で」
「…」
「なんで黙るんだよ」
はぁ、結局こうなるんだ。なんて不幸な俺。
それこれも全部クーラーのせいである。本当ムカつく。修理し終わったら酷使してやるからな、覚えとけよ。
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