▼ 06
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目が覚めると、時計は丁度日付が変わった時間を指し示していた。
「起きた?」
あの後いつの間にか眠ってしまったらしい。狭いベッドに二人で抱き合うようにしてくっつく身体。お互いに服は一切纏っておらず、生まれたままの姿だ。ひふみがじっとこちらを見つめている。
「…起きた」
「まだ寝てても良かったのに」
「お前は寝ないのかよ。明日も仕事だろ」
「いや、休み」
「えっ」
「このまま泊まっていい?」
い、いいけど。もっと早く言えよそういうことは!
目の前の顔を睨み付けようとして…思い出した。
『瑞貴、愛してる』
ボッと顔が熱くなる。あ、あ、あ、愛してるって。
好きよりももっと上。特別な言葉。初めて言われた。
一人で悶える俺をひふみは全て見透かしたように笑う。そして瑞貴、と俺の名前を呼んだ。
「聞いて。言いたいことがある」
「言いたいこと?」
「そ。大事な話」
何だ?首を傾げる。
「瑞貴は、先生になりたいんだっけ?」
「うん」
「地元帰る?」
「いや、多分こっち。倍率とかいろいろ考えて、地元より可能性ありそうだったから」
「そっか」
「なに?」
「いや、あのさ」
卒業したら、一緒に住まない?
「…」
全く予期しなかった言葉に、思考が停止する。…え、一緒に、…え?
「一緒にって、いうのは」
「二人で少し広い部屋借りて、そんで同棲しよう」
「…何で急に」
「ごめん、俺が瑞貴と一緒にいたいだけ。社会人になってお前と過ごす時間が減って、寂しくて仕方ないだけ」
「ひ、ひふみが?」
「うん。何でだろうな。家を出てからの一年間は、会わなくたって耐えられたのに。多分これ以上瑞貴と離れたら、俺今度こそ死ぬと思う」
大げさな。そんな馬鹿なことあるわけねーだろ。簡単に死ぬとか言うんじゃねえ。
言いたいことは次々と頭に浮かぶのに、どれも声にならなかった。
「…」
「瑞貴?」
「っ」
「駄目?」
「駄目なわけあるか!このばか!」
「また泣くのかよ。お前本当泣き虫だな」
「誰のせいだ!!」
「痛っ」
鎖骨あたりを拳で叩くと、骨の音がする。細い身体。ちゃんと食ってんのか、というくらい不健康そうなもやし体型。でも、俺を優しく包み込んでくれる大きな身体。
なぁひふみ。俺、諦めなくて良かったよ。お前のこと追っかけてきて良かったよ。
お前のことを好きじゃなかったときの自分を思い出せないくらい。
それくらいあっという間に、何もかもが変わっていった。何もかもが新しく塗り替えられていった。
「約束だからな」
「うん。約束」
「破ったら承知しねぇ」
「ダイジョーブ」
ひふみが俺を抱きしめる。薄い胸板から心臓の音が聞こえるのが心地よくて、そっと目を閉じた。
「ずっと一緒にいよう」
…お前のこと、好きになってよかった。
end.
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