▼ 02
とはいえ、その三年という月日の中で特筆すべきことがあるとすれば、今言ったようにひふみが学生ではなくなったことと、俺が順調に進級していることくらいだろうか。
それと、そのせいで会う時間が格段に減っていることとか。
今日は久々に時間がとれるから、と前々からこの家に来る約束をしていたひふみ。顔を見るのは、二週間ぶり?…あれ、それでもそんなもんなのか。もっと長い間会っていない気がする。
毎日一緒だった大学生の頃とは、やっぱり違うのだ。
「はー…疲れた」
抱き着いたままのひふみは、溜息を吐きながらぐりぐりと俺の腰に額を押し付ける。
「労わって」
「労わるって…何すればいい?肩もみとか?」
「それもいーけど」
キスして。
「…それは労わるって言わねぇ」
「瑞貴がキスしてくれたら、俺頑張れる」
「別にそんな頑張んなくてもいいだろ。無理すんな」
「無理はしてない。当然のことをしてるだけ。でも疲れるものは疲れる」
慣れない環境に身を置き、新しいことを頭に叩き込む毎日。珍しく弱音を吐く姿を見て、胸が痛むと同時に少しだけ嬉しくなってしまった。
…疲れてるのに、俺に会いに来てくれたんだ。
「手、邪魔」
「あれ、してくれるわけ?」
「…俺がキスしたら、お前は嬉しいんだろ」
「うん」
だったら、いくらでもする。
「…ん」
寝転がったままのひふみの唇に、覆いかぶさるように口付ける。触れるだけのキスを、何度も何度も繰り返した。
「なんか、積極的」
「うるさい」
「瑞貴」
「なんだよ」
「やろ」
「は?」
「セックスしようっつってんの」
「…いやだ」
顔を背けて拒否する俺。ひふみがはぁ?と不機嫌そうな声を出した。
「何、明日一限からとか?」
「ちがう」
「じゃあいいだろ。まさか今更恥ずかしいとか言わないよな」
「…馬鹿」
お前、何にも分かってない。怒鳴りそうになるのを堪え、努めて冷静に話そうと心がける。
「久しぶりに会えたのに、折角会えたのに、俺は…俺は、身体を繋ぐことばっかになりたくない」
そりゃあ俺だって、そんな風に求められて悪い気はしない。だけど、中々会えない貴重な時間をそういうことだけに費やすのは…何か違うと思う。
俺はひふみが隣にいれば幸せだし、顔見られればそれで満足。
そんな主旨のことを途切れ途切れに拙くも伝えれば、ひふみは益々不機嫌そうに眉を寄せた。
「…てめえ、それじゃ俺が身体目当ての馬鹿男みたいだろうが」
「そう言われても仕方ないだろ」
「あのなー…」
「どうせ俺とセックスしたいだけなんだろ…っ俺は久しぶりに会えるって思ってずっと朝から楽しみにしてたのに、お前はちんこ突っ込むことしか考えてなかったんだろ…!」
「おい待ていろいろ間違ってる」
「俺はお前の性欲処理機じゃないっ」
「あほ。本当ばか。救いようのない能無し」
「なっ…」
ぐずぐず自分でも面倒くさいと思う拗ね方をしていると、突然組み敷かれる。い、いやだって言ったのに結局するんじゃん。もうやだ。
抵抗しようと試みるが、腕を押さえ込まれびくともしない。相変わらず力だけは強い。
「俺だって瑞貴に会えるの楽しみだったに決まってる」
「うそだっ」
「何でわざわざお前にこんな恥ずかしい嘘つかなきゃなんねぇんだよ」
「離せ!」
「やだね。離してなんかやらない」
耳にふっと息を吹き込まれて、意思とは無関係に身体が反応する。
嫌だって言ってるのにこいつは!!!しね!!!性欲魔人が!!!
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