▼ 02
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う…今何時だ?結構な間寝ていた気がする。変な時間に寝ると、感覚が狂うから困るんだよな…。
「ん、」
時計を確認するために、そろそろとゆっくり目を開く。
しかしそこで俺の目に飛び込んできたのは、時計ではなかった。
「っ!?」
そこには、見慣れた顔の男がちゅうちゅうと俺の唇を貪っているというホラーな光景が広がっていたのである。何故だ。何故お前がここにいる。そして何故俺はキスをされているんだ。そうか、これはまだ夢なんだな。そうだと言ってくれ。
っていうか退けよ重い!のしかかるひふみの胸を拳で叩く。
「あ、起きた?」
「お、おまっ、なんで、鍵…」
「お前が二つあるからやるよって言って渡してきたんだろ」
ひらひらと目の前に鍵がぶら下げられた。あ、そうでした。すっかり忘れていた。だっていちいちインターホン鳴らされるのも鬱陶しいし、別に見られて困るようなものなんてないし…ってぇぇぇぇ!?
「うわぁぁぁぁぁぁっ!」
つけっぱなしのパソコンの画面が寝る前のまま…つまり、男同士が濃厚に絡み合ったエロ画像サイトを表示していた。さぁっと顔から血の気が引く。
「これはっ、ちがう!ちがうから!」
慌てて電源を切ろうとするが、のしかかられているせいで動けない。じたじたもがく俺、にやりと笑うひふみ…あ、これ終わったわ。
もういっそ殺せよぉ…何の羞恥プレイだよぉ…。
「こーいうの興味あんの?」
「ないわぼけ!」
「これが瑞貴のオカズ?」
「ちげぇっ!」
「じゃあなんで見てたんだよ」
うぐぐ。お前とヤるために勉強してました、なんて言えるか!
「なぁ、瑞貴」
答えろ、と顎に指がかかる。くいっと顔を上向きにされて、正面から切れ長の瞳が俺のことを見つめた。
「…」
ちゅ。
何も答えない俺の唇に、優しく触れるだけのキスが落ちた。今日はひふみがコンタクトではないため、眼鏡のフレームが当たるのが少し邪魔だ。
「…んっ」
何度も何度もくっついては離れを繰り返されるその行為。離れていく瞬間に少しだけ下唇を吸われるのが気持ちがいい。いつの間にか、口付けをしやすい角度に顔を傾ける自分がいた。
「瑞貴、言えって」
「…言ったら引くだろ」
「別に引かない」
おでこにひとつ。まるで恋人同士のようなキスに、かあっと頬が熱くなる。
や、やっぱり俺、おかしい。
嫌じゃないなんて。それどころか、もっとしてほしいなんて。
「あの…」
「うん」
「この間、約束した、から」
「…約束?」
「つ、次はするってお前が言ったんやろーが!」
忘れたとは言わせねえ!
「だから、ちょっと…そういうことへの知識、つけた方が、いいのかな…とか」
「ぶはっ」
「笑うな!っくそ…」
「馬鹿じゃん」
そんなこと自分が一番分かってる。馬鹿なのは重々承知だ。でも人から言われると余計にヘコむからやめろ。
「お前は何もしなくていいんだよ」
「ちょおっ、なにすん…んん」
ツボにはまったらしく笑い続けているひふみが、俺の腕をベッドに縫いとめて再びのしかかってくる。そしてまたキス。
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