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「だぁかぁらぁ、いろいろ忙しいんやけん、仕方なかろ」
『電話する時間くらいあるやろ?』
「そんなん言うたって…俺がまめに連絡とかするわけないやん」
面倒くさがりなのは別に今に始まったことではない。カップ麺にお湯を注ぎながら、携帯を耳と肩の間に挟む。
大学に入学して、早1か月。世間ではGWと呼ばれる大型休暇がやってきたわけであるが、俺にとっては何か予定があるわけでもない、普通の休日だ。
交通費も高いし、一人暮らしを始めてまだそんなに日も経ってないし、別に帰らなくてもいいだろう。そう思っていた矢先に家から電話がかかってきた。
『ちゃんと食べよる?洗濯とか小まめにやらんと…』
「わかっとる!ガキやないんやけ!」
全くうるさいババアめ。口に出したら何を言われるかたまったものではないため、心の中だけで悪態をつく。
お、3分たった。なんだかんだ言って、結構インスタント食品ってうまいからつい買っちゃうんだよな。
『そういえば、ふみくんには会ったん』
「げほっ」
『なんねいきなりきったない音立てて』
「んぐっ、だって、ごほっ」
折角忘れてたのに、何で思い出させるんだ。啜ろうとした麺が喉に詰まって、その苦しさに涙が滲んだ。
「…あ、会ったよ。てか大学一緒やし…」
『迷惑かけとらんやろうね?あんたは昔からいっつもことあるごとにふみくんふみくんって何でも頼りっぱなしで…』
「そんなこと…っ!それは俺やなくてあいつ!」
『折角のGWなんやけ、一緒に帰ってきたら良かったんに』
「やだよ!」
くだんないことばっか言うんやったら切るけんな、と返事も待たず電話をぶち切った。
「あー!もう!」
――今日はしない。でも次は最後までするから。
耳元で囁かれた声を思い出し、ぐしゃぐしゃと髪をかき乱す。
「くそ…」
次っていつだよ。あほひふみ。
*
「…」
うげぇ、と思いながら画面を見つめる。もうやめよう。俺にはレベルが高すぎて無理だ。
なんだよ男同士のエロ画像サイトとか何の需要があるんだよ…もうこれエロじゃないよ…全然やらしさを感じないよ…。こんなページを見ている俺も俺だけど。でもさ、これには歴とした理由があるんだよ。
この間、図書館のトイレで…ケツの穴に指を突っ込まれてから。
時折あのときの感覚を思い出して、…その、言いたくないけど、ムラムラするっていうか。だからちょっと、そういうの、勉強しようかなって、思って…。
とうとう頭がいかれてしまったんだろうか。俺とひふみがしようとしていることは、今見ていた(俺にとっては全く興奮しない)エロ画像と変わらないはずなのに。
全身が性感帯になったみたいな気持ちよさとか、冷たい奴の唇にキスされたこととか、はぁはぁとどちらのものか分からない吐息とか。
そういうのを思い出すたびに胸が苦しくなって、ドキドキと心臓が高鳴って、泣きそうになる。
…俺、インランなのかなぁ。
気持ち良ければ誰でもいいのか。いやいやそんなわけない。他人に触られるとか、死んでも嫌だ。
じゃあ、なんでひふみなら良いんだろう。大事な幼馴染だから、という言葉では片づけられない気がする。なんか、違うんだよ。大体幼馴染とはセックスしねーよ。馬鹿か。
そういうことじゃないんだよ。
じゃあどういうことだよ。
「あー、もう分かんねぇ…」
どさっとベッドに倒れこむ。折角の楽しいキャンパスライフなのに、どうしてこんなことで悩まなきゃならないんだ。
くそ。それもこれも全部全部あいつのせいだ。責任とりやがれ。
もやもやと訳の分からない感情を抱いたまま、俺はいつの間にか夢の中に落ちて行った。
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