▼ 06
これからの流れを想像して身を堅くしていたのに、奴は気にした風でもなくテキパキと後処理を始めてしまう。
しばらくその様子を黙って眺めていたが、段々と怒りにも似た思いが湧き上がってきた。
…え?
尻にちんこ入れんじゃねーの?だからケツ穴弄りまわしてたんじゃねーの?
「なんだよ瑞貴。拗ねてんのか?」
拗ねてんのか、じゃないわ!わざとか!?わざとなのか!?
「…しないのかよ」
しないなら、何のために俺はあんな…っ。散々嫌だって言ったのにっ。くそが!!しねよ!!
仏頂面でそう言えば、ひふみはくくっと喉の奥で笑った。
「あんなによがってたくせに、まだしてほしいわけ?」
「よがっ…!?」
「そうだよなぁ。俺とセックスする夢見ちゃうくらいヤラしいもんなぁ瑞貴くんは」
「だからっそれは…あ、馬鹿そこは自分で、」
精液でべとべとの俺のちんこをトイレットペーパーで拭われて、腰が少し浮く。やめろ馬鹿お前に触られると、その…また勃つだろ。
「はは、まぬけな格好」
「るせぇ!!」
「本当…つくづくうまいよ、お前は」
俺を煽るのが。
うなじに唇をつけたままおかしそうに囁く。皮膚を伝って直接響いてくる声は、ひどく優しい。…こいつ、俺の首にキスするの好きなの?何か毎回毎回後ろからそうやって口付けられている気がする。
「今日は、しないよ」
その言葉にほっと安堵の息を吐いた。あー、良かった。こんな場所でなんてありえないもんな。いやそもそも場所の問題以前にいろいろありえないけどな。
「おい!」
しないと言いながら、まだ露出したままの俺の尻にごりごりと股間を押し付けてくるひふみ。お前言ってることとやってること違うだろ。なんなんだよやめろまじで。
「くは、うける」
「うけるじゃないわ!やめろ!」
「お前、俺の言葉の意味分かってないな」
「はぁ?」
「今日はしないけど、次はするっつってんの」
「え?」
「優しい俺は、瑞貴くんのために、こんな場所じゃなくてもっとちゃんとしたとこを選んでしてやるってこと。トイレが初めてなんて嫌だろ?」
あ、そうかさすがにトイレはないよな。俺のこと考えてくれてるなんて、こいつ意外と良い奴…じゃねぇよ!!
「ほ、本気でやんの?」
「今更カマトトぶるなって。しないのかって物欲しそうな顔で聞いたのはそっちのくせによぉ」
「物欲しそうな顔なんてしてねぇ!」
「大丈夫。尻の穴でイけるくらいだし。素質あるよ」
「そんな素質あってたまるか!」
「はいはい。落ち着け落ち着け」
むぎゅっ。暴れる俺を抱きしめるひふみの腕。細っこいくせに意外と力が強くて、実はちょっとショックだった。俺の方が絶対強いと思っていたのに。
昔は俺のが背も高くて、取っ組み合いの喧嘩だって負けたことはなかった。なのに、今ではすっかり立場が逆転している。こんな風に抱きしめられると動けないし、一度組み敷かれてしまえばそこから逃れることはできない。
いつから、こうなってしまったんだっけ。
「瑞貴」
「…なに」
「瑞貴」
「だからなんだよ」
ふふふ、と俺を抱きしめたままひふみが笑う。何度も何度も名前を呼ばれ、なんだかそわそわした。
「いざいつでも奪えるってなったら、何か勿体ない気がしてくるんだよなぁ」
「?」
「でも俺、結構待ったと思うんだよね」
「…何が?」
たまにこいつは訳が分かんないことを言う。言いたいことがあるなら、1から10まで全部口にするべきだろ。そうじゃなきゃ伝わんない。…特に、俺みたいな馬鹿には。
「瑞貴は分かんなくていーよ。そのままで」
お前はそう言うけど。俺だって知りたいことはたくさんあるんだよ。
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