▼ あれもしたいこれもしたい全部したい
付き合ってはや数年。俺もひふみも社会人になって一緒に暮らすようになったとはいえ、当然学生のときのように時間がたっぷりとあるわけではない。
お互い忙しくてすれ違いの生活になるときもあるし、そりゃあもう、付き合い始めたころのような……その、なんていうか、いちゃいちゃ……的なものは減って当たり前だと思う。
だが、学生でなくなったからといって、大人になったからといって、俺が俺でなくなったわけではない。
ひふみと一緒にいると嬉しいし、もっと一緒にいたい。そう思う気持ちは年々強まるばかりだ。
もういい。ごちゃごちゃ言っても仕方ない。
――やりたい。したい。何をって、そりゃもちろん。
「なぁ、ひふみ」
「んー」
晩御飯を終えた後、テレビの前でくつろぐひふみにさりげなく話しかけてみる。
「明日明後日休みだよな」
「そう。瑞貴もだろ」
「うん。そんでさ……」
「何、どっか行きたいとこでもあんの?」
ちっげぇぇぇ!
大体、なんで襲ってこないんだよバカ。前は俺が嫌だっつっても無理矢理やってただろ。それぐらいの勢いで来いよ。そうしたら俺がこんなに悩まなくて済むのに。
「いや、そうじゃなくて……」
「?」
歯切れの悪い俺の顔を、ひふみが不思議そうな表情で見つめてくる。伝われ!と思いながらそれを見つめ返してみた。
「何ガン飛ばしてんだよ」
「……」
こいつ、俺が「したい」って訴えかけてる瞳をみて「ガン飛ばしてる」だと?この上なくムカつくな。殴りてぇ。
「……っ風呂!!入る!!」
いい。こうなりゃ実力行使だ。俺はすくっとその場で立ち上がる。
「そんな宣言しなくても、勝手に入れば……」
「寝てたらぶっ殺すからな」
「……」
ひふみの顔を睨みながらそう言うと、少しの間の後、ようやく合点がいったというような顔で笑われた。
「なんだ、誘ってんのか」
「違う!誘ってない!俺がしたいだけ!」
「それ、誘ってるっていうのと何が違うんだよ」
ひふみが立ち上がって俺の両肩に腕を乗せてくる。
「じゃあ、折角だし一緒に入る?」
「……入る」
*
「も、……っぉ、いい、自分で、できる……ッ」
「だめ。俺がしたい」
後ろから長い指でぬぷぬぷと中を掻き回され、俺は漏れ出る声を抑えるのに必死だ。ただでさえ音の響く浴室で、自分の喘ぎ声なんぞ聞きたくはない。
「……っん、……ッ、う、はぁ……」
「瑞貴、声。我慢するな」
「う、るさい、っ、ばかぁ……っ」
「バカはお前」
「ぁあ……―――ッ」
ひふみが後ろから固くなったものを腰に押し付けてくるものだから、鼻にかかった変な甘え声が出てしまった。ふっと耳元で笑われる気配がする。
くそ!そんなにばっきばきに勃起してるくせに、しつこいんだよ!入れたいなら入れろ!っていうか俺がもう限界だから入れろ!
「ひふみ……っ」
「……ん?」
振り返って名前を呼ぶと、興奮しきったひふみの顔が目に入った。余裕のないのは俺ばかりかと思っていたら、そうでもないらしい。
「なに人の顔見て濡らしてんの」
「んん……ッや、だ、違う」
とんとんとひふみの指が濡れた先端を弾く。粘ついた液体が間に糸を引いた。
「違くない。ほら」
「ひ……っ、あっ、あっ、ちょ、ふざけ……っ、〜〜〜〜〜ッ」
竿を握りこまれ、根元から先端に向かってぐにゅうっと絞り出すように扱かれる。あまりの刺激にびくびくと背中を丸めて悶えた。目の前がチカチカする。
「はぁ……っ、はぁっ、あ……ッ、あ……っ」
「あれ、イった?」
見れば、先端からとろとろと白濁が滴っていた。嘘だろこんなんでイかされるとか。俺はまた後ろを振り返ってひふみの顔を睨む。
「おまえぇ……!手加減しろバカ!ちんこもげるかと思ったわ!」
「嘘。扱いてやったときすげぇ中締まったし。気持ち良かったんじゃないの?」
気持ち良すぎてもげるかと思ったって言ってんの!
「はぁ……もういい。次はお前」
「俺?」
「舐めたい」
ぶはっとひふみが笑い出した。
「今日は大サービスやな。欲求不満かよ」
「うるっっせぇ!!いいからそこ座れおら!!」
「はいはい」
バスタブの淵にひふみを座らせ、その脚の間に跪く。ひふみのちんこは腹につくほど勃起していた。
「人のこと言えねぇじゃんか。なんだこの勃ち方」
「俺も欲求不満だから?」
「なんだそれ……そんなんならもっと早く言えばいいのに……」
「駄目。時間ないときに雑にやりたくない」
雑にやったことなんか一回もないくせに。俺はぐっと押し黙る。こいつのこういうところが好きだ。
「ん……」
唇を開き、先端を口に含む。ひふみの身体が一瞬ぴくりと反応した。うん。こいつのこういうところも好きだ。可愛くて。
「ん、ぐ……ッ、う、っ」
招き入れられるところまで、深く深く。徐々に奥まで咥えていく。無理だ入らないってただひたすら舐めるだけだったのは最初のうちだけで、いつの間にかこんなことまで覚えてしまった。
「んっ、ん、ん……っ、ふ、うう、んぐ」
「ぁ……っ」
頭を上下させ、ゆっくりと抜き差しを始める。抜くときに舌を絡めて裏筋を擦ってやると、ひふみが小さく声を漏らした。これ本当好きだな。
「……エロ瑞貴」
ちゅぽちゅぽと夢中になって舐めしゃぶる俺の髪を、ひふみの手が握る。そのまま指が耳の外殻を撫で、耳の中に入ってきた。
「……ッ!?」
――ぐちゅ、ぐじゅっ、ぐちゅぐちゅ
そうしたら、自分がしゃぶっている音が直接入り込んでくるみたいにクリアになってしまった。
こんなの、こんなの。
「瑞貴……っ、口、締めんな」
脳が溶ける。
「ん……っ、んんっ、んっ、う、んん」
両手で自分のペニスを握りこむと、それはもう漏らしたのかってくらいに濡れまくっていた。
「うぅ、ふっ、ぐ、んんっ、んっ、んんんっ」
ひふみのものを愛撫する速度に合わせ、濡れそぼった自分のちんこをぐちゅぐちゅと扱く。ああもう、気持ちいい。すぐにでも射精してしまいそうだ。すぐそこまで精液がせり上がってきているのがわかる。
「瑞貴」
ふーふーと荒い息でひふみを見上げると、突然額を押された。
「んぇ……っ!?」
ぬぽっと口からペニスが抜ける。
「……駄目だ。もう、入れたい」
「あ……っ」
いいよ、ともまだ駄目、とも言う前に腕を引かれ立たされる。バスタブの淵に両手をついた俺の後ろにひふみが立ち、尻の肉をぐっと割り開いてきた。
「入れていい?まだ、無理?」
剥き出しにされた孔に、ぴたぴたと先端をくっつけてくる。俺の身体を心配しての台詞だろうが、ただの焦らしでしかない。俺は余裕もなく頷いた。
「は、ぁあ……ッ、あ、あ……っ」
ぐちゅうう、と狭い中を掻き分けてペニスが挿入される。久しぶりの感覚に頭が真っ白になって、脚も腕もがくがくと震えだした。
「ひふみぃ……っ、いい、きもちいぃ……っ」
「バカ、その顔でこっち見んな」
「あ、もぉ、むりぃ……っ」
やばい。やばい。大きな波が内側に渦巻いて、徐々にせり上がってくる。中がうねうねと収縮し始めるのがわかった。
「ひふみ、ひふみ、イく、ひふみ」
「まだ、入れただけ、だろ……っ」
「むりぃ、いく、いくっ、あぁもういくうう……ッ!!」
まだ奥まで届いていないモノを強く締め付け、我慢できずに射精してしまう。精液と先走りの混じったはしたない液がとろとろと床に絶え間なく滴り落ちた。
「は……―――ッ、はぁ…っ、ぁっ、ぁう……」
なんだこれ。なんだこれ。気持ち良すぎる。
「あ゛う………ッ!!」
びくびくと痙攣しながら呼吸を整えていると、余韻に浸る間もなくひふみが最奥まで腰をぴったりくっつけてくる。
「……入った」
はぁ、とひふみの息を吐く声がする。
「ひ、ぃ………ッ!!」
そのまま軽くゆさゆさと揺さぶられた瞬間、俺は自分でも驚くくらい切羽詰った悲鳴をあげていた。
――嘘だろ俺。まじか。
「ちょっと待った、お前まさか」
「イ、いく……」
「我慢」
「むり、できな……っ」
バスタブを指が白くなるくらい強く掴み、込み上げる絶頂感を必死に堪えようと抗ってみる。が、中に埋められた硬い感触を意識するともうダメだった。
「ひふみぃっ、かたい、の、無理、むりぃ……ッ」
「……っ」
「イっていい?我慢できない、なぁ、いいって言って、ひふみ……っ!!」
ぐい、と強く腰を引き寄せられる。
「あ……っ?」
ひふみは力の入らない俺の太腿を抱え上げ、そのまま床に腰を下ろした。必然的に俺もその上に座ることになる。所謂背面座位というやつだ。
「……〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!!」
「ん……きつ……っ」
体重のせいか、より奥深く、入って来てはいけないような場所を先端でごりごりこじ開けられ、俺は声も出せずに仰け反って三度目の絶頂を迎えた。俺の締め付けに耐えられなかったらしいひふみもどぷどぷと中に射精する。
「ぁ……っ、あ、……」
「瑞貴」
指先まで支配されるような快感。気持ち良すぎてしんどい。くったりとひふみの身体に凭れかかる俺を、ひふみが抱きしめてきた。
「ん……ごめ、俺一人で何回も……んむ」
後ろから覆いかぶさるみたいなキス。ちゅっちゅっと舌で俺の好きな場所を擽られ、また思考が蕩けていく。
「ん、ひひゅみ……、んっ、まっ、ひぇ」
「待たない」
待て。唇を噛んで抗議すると、ひふみは不満そうに少しだけ顔を離した。
「このままじゃ二人とも風邪ひくから、ベッド行こ」
「……抜くの?この状態で?」
「う……」
それは確かに辛い。だが抜かないと移動することはできない。
「入れたままとか、無理だろ」
「……頑張る」
え。嘘。
*
――駄目だ。死ぬ。死ぬ。これは死ぬ。
ばちゅんっばちゅんっずぶっずぶっ
「あ゛……ッ、あ゛っ、う、ぁ、あぁ……ッ」
――なんだこいつ、こんなに体力あるやつだっけ?
俺の知ってるひふみは、スタミナなくて、ひょろくて、細っこくって。
少なくとも、風呂から俺を抱えたままベッドまで歩くなんて芸当ができる奴じゃなかった。こんなに何度も何度も激しいセックスだって……いやこれは前からか。
「ひ……ッん、ぁあっう、あ゛ッ、はげ、しい、はげしい、ってぇ……っ」
後ろから容赦なく内側を抉られ、俺はずるずるとシーツを掴んで逃げようともがいた。
「こら、逃げんな」
「はぁあ……っ、あっ、やぁぁ……っ」
腰を引き寄せられ、また奥まで突っ込まれる。ぴゅる、と少量の薄い液がちんこから漏れた。
風呂から出て、早数時間。今何時だ。日付はとっくに変わっているはず。もう精液すら出ない。
「やじゃない」
嫌じゃないが、逃げたくもなる。こんなにするなんて聞いてない。誘ったのは俺だけど。
「もぉ出ない、出ない、許して」
「出さないイき方知ってるだろ」
「やだぁ、あれいやだ、変になる……っ」
「俺はあのイき方する瑞貴くん好き。見たい」
馬鹿か!!この絶倫!!何が好きだ!!なにが見たいだ!!じゃあいいかななんて俺も思ってんじゃねーよタコ!!
「ひ……ぐっ、うう、ぁっ、あんんっ、あっ、そこ、突くな、そこやだっ」
「ここ?」
「ぁあ――――ッ!!」
絶妙な力加減で小刻みに感じるポイントを突かれ、ぼろぼろと涙が溢れてきた。
「あっ、やだって言ってんだろボケ……ッ、しね……っ」
「泣くほどいいくせに?」
「よすぎて辛いんだよ……っ!!」
「ふーん。じゃあここずっと突いてたら空イキすんのかな」
「バカバカバカバカバカ!!アホ!!そんなことしたら……!!」
「一旦抜く」
「へ……っ?」
ぬぽんっと音を立ててちんこを抜いたひふみが、今度は正常位で覆い被さってくる。ひいいいなんでまだそんなびきびきに勃ってんだよおお。そういえばまだ全然イってないっけこいつ。
「折角だから死ぬほどイくお前の顔見たい」
「やだぁぁぁ……っ、ばかっ、入れんな、ぁ、あ……っ!!」
いやだと言えば言うほど、駄目だと言えば言うほど、嬉々としてそれを攻め立ててくる。こいつはそういう奴だ。
「……っ、ッ、……っ、ひ……―――……っ」
再び挿入するやいなや、ひふみはぬぷんっぬぷんっとしなやかに腰を送り込んできた。
「はぁぁ……っ、あっ、あっ、や……っ、やめ、も、もう」
しっかりと俺の嫌がる弱い場所ばかり突いてくるものだから、確実に来てはいけない何かが近づいてくるのを感じる。
「突くたび、すげぇ、締まる……っ、こんなにしてんのに、なんなの、お前の中」
ひふみがはぁはぁと息を荒げながら尋ねてくるが、聞きたいのはこっちの方だ。知るか。誰のせいでこんなになったと思ってる。
「っ、う……ッ、っ、っ、……っんは、ぁ……ッ」
――あ、むり。くる。
「ひ……っひふみ」
「ダメ。止めないから」
いつもとは違う、だけど経験したことのある射精感がどんどん迫ってくる。ひふみはどうにか逃げようとする俺の膝裏に手を入れ、ぐっと力を込めてきた。
「ちょ……っ、や……ッ、ん、んっ、……ッ!!」
お尻が上がって身動きがとれなくなったところに、さらに激しく腰をぶつけてくる。上から突き落とすようにじゅぶじゅぶと中を掻き混ぜられ、ぶるぶると全身が震えだした。
「う……ッ、うっ、はぁ……ッ、あっ、っく、いい、イ、く……ッ」
――イく、イく、イく……っ!!
「――――……ッ、あ゛、ぁあ゛………〜〜〜〜〜ッ!!」
びくびくびくっと身体が大きく痙攣した後、ぷしゅっと何かがペニスから噴き出す感覚があった。
「……ッ」
ひふみがぐっと息を呑んで、それから勢いよく中に精を吐き出す。だが射精している間もピストンは止まらない。
ぱちゅんっ
「あ゛う……っ」
ぬぷんっ
「ぁあ゛……ッ、あ……ッ!!」
ずちゅんっ
「あ゛――――……っあ゛――――っ」
俺の身体は突かれる度に激しい絶頂を繰り返し、ペニスからはぷしゃぷしゃと水のような液体が噴き出した。
なんだこれ。なんだよこれ。
「はぁ……ッ、はぁ…っ、はぁっ、あ……〜〜〜〜ッ」
気持ち良すぎて、俺の身体、バカになったんかな。
「……っう、うぅ……」
「!」
「ひふみ、ひふみぃ……」
ぐすぐすと泣きじゃくりながらひふみに手を伸ばすと、ようやく動きが止まった。
「……瑞貴」
「うう……っ」
ひふみは伸ばした俺の手をとり、自分の背中に回す。きつく抱きしめられたが、肌の触れ合う刺激ですらもイってしまいそうだ。ひくひくと腰が跳ねる。
「……ッ、ん、ぁあ……、ひふ、み……」
「まだイってる?」
「イ……ってる、イってる……っ」
「止まんない?」
「ん……っ」
「潮ふくほど気持ち良かったもんな」
ちゅう、とひふみが頬にキスをした。
「ひどい顔。ぐちゃぐちゃ」
うるさい。お前のせいだろ。
「ひふみぃ……」
「ん」
顔を寄せると、今度は唇にも軽く口付けてくれる。そうして絶頂の波が引くのを待つこと数分。
「満足した?」
ぐったりと四肢を投げ出す俺に、ひふみは機嫌がよさそうに話しかけてきた。
「あ、あほぉ……っ、やりすぎだこの絶倫!」
「休日はこもりっきりコースだなこれ」
「当たり前だ!朝も昼も夜も全部お前がご飯当番だからな……っ!あと風呂掃除も!」
「わかってるって」
起き上がったひふみの背中を足で蹴る。ムカつくこいつ。俺は動けないのに涼しい顔しやがって。
「動ける?」
「動ける訳ないやろ」
「寝る前にシーツ替えないとだから、ちょっとだけ」
「う……っ」
先程の自らの痴態を思い出し、頬が熱くなった。
「俺のせいだから、瑞貴は悪くないよ」
いや、それはそうなんだけど。でも恥ずかしくてたまらない。
し、潮ふくとか、そりゃ気持ち良かったけど、あんな……っあんな……。
「ほら、シーツ替えてる間ソファまで連れてってやるからおいで」
「……」
ううん。あんなに激しくセックスしておいて、その上まだ俺を抱き上げる気力が残っているとは。本当にこいつ、まじで体力ついたんじゃ……。
「……腕ぷるぷるしとるんやけど」
と、思ったのもつかの間。俺を抱え上げたひふみの腕はぷるぷると震えていた。明らかに無理をしている。
「俺が貧弱なの知らんかった?」
「貧弱なやつはあんなずっこんばっこん腰ふらんわ!!」
白々しい!都合のいいときだけ貧弱面すんな!
「またしたい」
「二度とせん!!」
「誘ったのはそっちやろ。そんなんされたらこっちだって張り切るわ」
「普通でいい普通で!」
「だって、久々やったし。やっぱもっとせんとダメやな。ちょっと今回はまじで日にち空けすぎた」
「……それには同意する」
後日撥水加工のシーツが通販でうちに届いたので、俺はひふみを殴った。
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