▼ 09
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汗で湿る肌に必死でしがみつく。もう何もかもどうでもいい。欲しくて欲しくてたまらない。もっともっともっと。何度も彼の名前を呼んだ。
「んっ、あ、依くん、依くんっ、あうっ、は、んん…!」
「…なぁに?」
「すき、すきだよう、だいすきっ、あっあっん、んっ、ふぁ、すき、すきぃっ」
「うん」
快感のせいで零れ落ちて行く涙を、舌が舐めとっていく。
「あぁ…っあ、は…っん、んん、あ」
いつもみたいにガツガツ突かれるわけではなく、いろんなものを確かめるような濃厚なセックスだった。抜けそうなくらいに引き抜かれたかと思えば、奥の奥までゆっくりねっとり擦られていく。
気持ち良くて死んじゃいそうだ。とろけそう。きゅうきゅうと後ろが彼のモノを締め付けているのが分かる。
「スイちゃん、顔エロすぎ…」
そう言う彼の方こそ、すごくいやらしい表情をしていた。薄く開いた唇から何度も吐息を吐き出している。息まで甘い、と思うのはきっと気のせいではない。
「ゆっくりすんの…好きなんだ」
「ふ…っわか、んな…あぁ、ん、は、うっ…」
「分かんなくない。ちゃんと見て」
ぐい、と顔を横に向けさせられた。視線の先にあるのは大きな鏡。何故そんなものがあるのか。答えは簡単だ。ここは俺の部屋でも依くんの部屋でもない。ラブホである。
鏡に映る自分の姿に息を呑む。涙でびしょびしょの顔。半開きの口。ぷっくりと立ち上がった乳首。汗にまみれた肌。
「や…っ」
大きく開かされた脚に申し訳程度に下着がぶら下がっているが、それがなんだか艶めかしさを助長させている。繋がった部分も丸見えだ。
「だめ。見て」
忘れかけていた羞恥心が一気に戻ってきて、目を逸らそうとする。しかし依くんはそれを許してくれない。
「いつも見てないから知らないだろうけど…スイちゃん、俺の前でこんな顔してるんだよ」
「や、やだ、依くん、手離して」
「興奮してるくせに。うそつき」
蔑むように、だけどとても愛おしそうに責められた。きゅ、と後ろが収縮する。
「ほら締まった」
「ちがう、これは…っん、あぁ…!」
ずっぷりはめ込まれたものが再び出ていく。行き場のない快楽が渦巻いて、熱くて、どうしたらいいか分からない。触れられてもいないペニスからは、透明な液がとろとろと流れ出ていた。
「俺のこと大好きって顔してるの、見える?」
「んっ、んっんっ…うんっ、見える、見えるよ…っ」
「ふ…っ、かわい、スイちゃん」
「あ、あぁ…や、抜ける、抜けちゃう、抜かないでぇ」
抜かないよ、と依くんが笑う。
「あぁ…ッ!」
その言葉通り、いきなり叩き付けるように腰を突き入れられた。ガクガクと浮き上がる身体を押さえ込まれる。
「好きなら、離れないで」
「ひぁっ、う、んはぁっあっ、んっ、ん、ふ…っい、あぁっ」
「女の子じゃなくても、っ、他の人が、何て言っても…俺は、スイちゃんを離さないから」
嬉しい。この気持ちをどうしたら伝えられるだろう。嬉しいとしか言えないのがもどかしい。もっと他に、別の言葉があればいいのに。
「し、じる、しんじる…ふぁ、あ、うれし、ぃ…よりくん、よりくんっ」
言葉で表現しつくせない部分を埋めるように、彼の身体を抱きしめた。腕も足も全部絡めて、余すところなく肌を合わせる。
「スイちゃん…」
「ん、んんぅ、ふ、んっんん、ん」
おまけに唇まで合わせてしまえば、もう互いの境界線なんてないんじゃないかと思うくらいどろどろだ。
「…ん、もうイきそう?」
「ん、ん…っはぁ、あ、いく、いく、いっちゃう」
そのままでいい。そのままの俺を、この人は受け入れてくれる。だから俺も全部を見てほしかった。恥ずかしいことなんて何一つない。
激しくなる抽送に全身がわななく。押し寄せてくる絶頂の波に身を任せようと足の先を丸めた。
「い、あぁっ、ふ、あぁっあっ、いく、いく…――――ッ!!」
ごりごりと内壁を擦られ、声も出せないほどの衝撃。彼の背中に爪を立て、一足先に精を吐き出す。
「あっ、う…すご…」
「んんっん、ん、ん…っふ、はぁっ、はう…!」
「ん、待ってね…俺もイくから」
絶頂を迎えたせいで締まる中を、無理矢理割り開く依くんのモノ。ちかちかと視界が白んだ。気持ちいい。それしか考えられない。呼吸が不規則になる。涙が零れて頬を濡らした。
「ん、んっ、あ、出そ、かも…」
「あッあぁ、ひう、あ、あ、あ」
「っスイちゃん…!」
強く強く抱きしめられる。次の瞬間、ぶわりと孔に熱い液が広がっていくのを感じた。
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