▼ 07
「ううう…ゆっこ、大好きぃ」
「あはは!私も大好きよ」
「うれしい、ありがと、ほんとに、うれしい…!」
そこの二人何やってんの、と店から出てきたメンバーに次々と突っ込まれた。
「ずりぃぞ!俺も宇田川に抱き着かれたい」
「俺も混ざろっと」
「うちの可愛い娘に手を出さないでよケダモノ!」
「ひでぇ」
笑い声がそこら中に響く。
俺はなんて素敵な友人たちを持ったのだろう、と胸がいっぱいで何も言えなくなってしまった。
それと同時に、何故かどうしても依くんに会いたいという気持ちに駆られる。
依くん、今何してるかな。おじさんとちゃんとお話したかな。
やっぱり男とは付き合えないから、別れようって思ってる?冷静に考えたら変だもんね。受け入れられることはあっても、祝福されることは決してない。そんな関係だもの。
父さんの意見を聞いてみて分かったんだ。俺やっぱりスイちゃんとは…
もし、もし依くんがそう思うなら、わがまま言わないでちゃんと受け入れるから、だから――
「スイちゃん!」
友人たちの楽しそうな声が一気に静まる。
「スイちゃん」
「え…」
訪れた静寂の中、視界の先に立っていたのは。
「より、くん」
あれ。うそ。俺、もしかして自分じゃ分からないだけで、結構酔いが回ってたのかな。酔ったら幻覚って見るんだっけ。もしこれが幻覚だとしたら相当だ。末期だ。
しかし何度瞬きをしても、依くんの姿が消えることはなかった。
「なんで、依くんがここに」
「スイちゃん」
質問に答えず、彼はずんずんとこちらに向かって歩いてくる。そうして俺の両手を握り締め、大きく叫ぶようにこう言い放った。
「スイちゃん!俺と結婚してください!」
…。
……。
………へ?
固まったまま返事ができないでいる俺の指をとり、彼はそこに何かをつける。お店の明かりに照らしてよく見てみると、それは折り紙で作った指輪だった。左手の薬指に金色が光っている。
「これ、受け取って」
「受け取って…ってこれ、あの…」
「ごめん、今はこんなちゃちな指輪しかあげらんないけど…俺頑張るから。頑張って政治家になってスイちゃんを養うから」
「な、なんで政治家…?」
「日本で男同士が結婚できるように、政治家になって法律を変える」
…待って。待って待って待って。思考が追いつかないんですが。
政治家ってそういう理由で言ってたの、とか。なんでここにいるの、とか。この指輪はわざわざ折り紙を買ってきて作ったの、とか。言いたいことがごちゃごちゃになって喉から先に出てこない。
依くんが少し不安げな表情で顔を覗き込んできた。
「…返事は、どうですか」
「へんじ…」
「俺、今プロポーズしたんだよ」
プロポーズ。プロポーズって、あのプロポーズだよね。…何言ってるか自分でも分かんないけど。
握られた手が熱い。そこだけ焼かれているみたいだ。
「スイちゃん」
「あ…」
心臓がどきどきする。どきどきしすぎて、死んじゃうかもしれない。
…結婚。俺と依くんが、結婚。
唇がかさかさになっているのが分かる。ごくり、と一度唾を飲み込んでから、小さく小さく呟いた。
「ふ、不束者ですが…よろしく、おねがい、します…」
次の瞬間、思いっきり抱きしめられた。
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