兄さんは、声が大きい。
控えめでおずおずと話す彼の声は、普段はとても大きいとは言えない。でも、セックスをしているときだけは違う。
「うぁぁぁっ、あっ、あぁっ、たか…ッゆきぃ、たかゆきっ…!!」
「兄さん…ちょっと、声、我慢して」
「むりっ、むりぃ、できな…ん゛――…っ、ふ、ぁ…っ、あっあ゛〜〜んんんっ!!」
だからいつも唇を塞いであげなくちゃいけないんだけど、ついこの間、クラスの女子の気になる会話を耳にした。
「エッチしてるときにさ、声出すのって結構疲れない?」
「わかる。ぶっちゃけAVみたいなのって出ないしさ。多少盛るよね」
――…盛ってる、のか?
兄さんがそんなことをするとは思えないし、最中はとにかく気持ちよさそうなのに…まさかあれが演技だなんて、そんな。じゃあ今まで「我慢して」なんて言ってた俺は、一体。ただ驕っていただけじゃないか。
「んっ…ふっ、んっんっ、ぁあ…っ、あうっ、ぅ…ッ」
「…ねぇ、兄さん…」
「んん…?な、っに、たかゆき…っあ、ぁ…っそこもっとぉ…」
「ん、ここ…?」
「あぁぁっ、ん、そこ、そこきもちい…っ」
…駄目だ。気になる。
「兄さん、あの…声…」
なんて尋ねればいいんだろう。その声って演技じゃないよね?いやそんな兄さんを疑うような言い方したくない。もっと簡潔にさりげなく。
「ご、ごめんなさっ、んぐっ、ぅう…んっんっ…んん」
ぐるぐる悩んでいる俺に、兄さんは慌てて自らの口を手で覆ってみせた。しかし堪えきれたわけではなく、隙間からは絶え間ない嬌声が零れ落ちている。かわいい。本当にかわいい。
「いや、そうじゃなくてね…その…兄さんは」
「え…っん、な、なにぃ…?」
「声出すの…疲れたり、するのかなって」
「声…?」
彼の頭の中が疑問でいっぱいになっているのが見ているだけでよくわかった。
「疲れるっていうのは、声がかれるってこと…?」
「うーんと、少し違う。声を出すのを意識してるかってこと」
「大きな声は出さないように意識してるけど…」
「…大きな声出ちゃうの?」
俺の質問を聞いた兄さんの表情が曇っていく。
「もしかして俺、おかしい?変?うるさい?」
――俺の馬鹿。こんな顔させちゃ駄目だろ。
「違うよ。兄さんはおかしくないし、ちっともうるさくなんてない」
「でも、んっ、ぁ、声、が…っ」
「気持ちいいから出ちゃうんでしょ?」
「うん、ん…っ」
「嬉しい。大好きだよ兄さん」
べろ、と自らの口を覆っている彼の手を舐める。
「でも他の人に聞かせたくないな。俺だけに聞かせてほしい」
「わかっ…た、我慢、する…っ」
「塞いであげるから、手どけて」
「ん…」
唇を塞ぐと、くぐもった声が直接喉の奥に入り込んできた。
「んっ、ん、んぁ、んん…ッ、〜〜…!!」
甘えるようなその声色にうっとりとしてしまうのが自分でもわかる。わざと唾液を送り込んでやると、兄さんはこくこくとそれを素直に飲み込んだ。
「ん…ふ、はぁ、…っぁ、んん」
「かわいい兄さん、ね、もっとちょうだい」
我慢して、なんて言ったのは自分のくせに、このままずっと彼の声を聞いていたいと思った。でもそれは、きっと矛盾なんかじゃない。