小ネタ | ナノ

ADD



18th Nov 2016

小ネタ


伊「見てください坊ちゃん、綺麗なお月様ですよ」
望「スーパームーンとやらだな。確かに煌々と輝いている」
伊「果てしない距離があるはずなのにあんなに近くに見えるなんて、きっと月はとても大きいんでしょうね」
望「お前は可愛いなぁ」
伊「なんです突然」
望「いや、月一つでそんなに嬉しそうにできるのはとてもいいことだと思ってな。お前のその感性が僕は好きだ」
伊「そんな私に付き合ってくださる貴方も、とても素敵ですよ」
望「僕はお前の見ているものがどんなものなのか、何を見てどう感じるのか、いつだって知りたいと思っている」
伊「…えぇと、では、その…」
望「?どうした?」
伊「私が何を見ているか、と言いますと…もっと近くでこの瞳をご覧になってくだされば、わかるかと思いますが…」
望「もっと近くで」
伊「はい」
望「…僕だな」
伊「…はい」
望「伊原の瞳には、僕が映っている」
伊「はい」
譲「お前たちは互いにロマンチストだな」
伊「だ…っ、旦那様!!」
望「…父さん」
譲「月を見て愛を囁き合うなんて、漱石の訳した言葉さながらじゃないか」
望「愛を囁き合う前に声をかけていただきたかったですね」
譲「二人の世界を邪魔するのが忍びなくてね」
伊「すみません、あの、大変失礼致しました…っ」
譲「いいんだよ。私は気にしないから」
望「…それで一体どうなさったんです?」
譲「あぁ、恵司に用が」
伊「私…ですか?」
譲「この間つくってくれたカヌレ、良かったらまた焼いてもらえないかと思ってね」
伊「えぇ、お安い御用ですよ」
譲「それと、先週一緒に行った喫茶店があっただろう。そこの店主が新しいランチメニューを出すから、まずは私達に食べてほしいと」
伊「本当ですか!是非お供させてください」
譲「明日の昼は空いてるか?」
伊「はい。私は旦那様のご予定に合わせますので、ご都合が良いときに」
望「ちょっと待ってください」
譲「なんだ望。お前も行くのか?」
望「違います。何故父さんと伊原が僕の知らないところでプライベートを共にしているのかを聞きたいんです」
譲「そりゃあ恵司は私にとって息子同然の存在だからだ。息子とお茶くらいするだろう」
望「…伊原。お前、明日は僕と新居で使う食器棚を見に行く予定だっただろう」
伊「あ、そうですね。では食器棚を見に行くのは明後日にしましょう」
望「ちがう!!何故父を優先させる!!夫の僕が最優先になって然るべきだ!!」
伊「旦那様はご多忙でなかなか時間がとれません。でも坊ちゃんはまだ一応学生なのですから、今の時期はまだ融通がきくでしょう?」
望「…お前は僕と父さんのどっちが好きなんだ」
伊「またそんなことをおっしゃって…比べられるわけがないでしょう。次元が違います」
望「一緒だ!僕も父さんも人なんだから!」
伊「分類が雑すぎます」
望「…僕も行く」
伊「喫茶店にですか?」
望「そうだ。あとカヌレも食べる」
伊「明日行く喫茶店にはカヌレは売っていなかったような…」
望「お前がつくったカヌレをだ!」
伊「前つくったときはカヌレよりホットケーキの方がいいとおっしゃってたのに?」
望「いいからつくれ!」
譲「望は本当に恵司がいないと駄目だなぁ…。もし恵司がいなくなったらどうするんだ?」
望「いなくなりません。これはずっと僕の傍に置いておきます。僕のものです。だから例え父さんでも僕の許可なく連れ回すのはやめていただきたい」
譲「我侭な子ですまないね」
伊「いえ、慣れてますから」



望は父がそんなに好きではない。
BACK


PREVNEXT
TOP