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27th Oct 2016

小ネタ

前から思っていたけれど、ひかるは何故か俺以外の人の前では若干言葉遣いが荒い。…荒い、とまではいかないまでも、俺に対するふにゃっとした喋り方を他の人の前ではしない。

「聡太郎小腹すかない?どこか寄って帰ろうよ。俺ドーナツ食べたい」
「俺も行きたいです」
「お前は呼んでねぇよ野見山!!」
「なんでですか」
「俺と聡太郎のデートを邪魔するな」
「いつもデートしてるじゃないですか。たまには俺がいたっていいでしょう」
「駄目。無理。帰れ」
「村上先輩の意見も聞きましょうよ。どうですか先輩」
「俺は…別に…」
「なんで!?なんでなのそーちゃん!?」

――うん。やっぱり違う。とくに野見山くんに対してが一番語調が強いというか。

「くそ…てめぇ早く彼女でも彼氏でもつくれよ…そんで聡太郎のことは諦めろ!」
「諦めてますよ。守山先輩がいる限り俺に勝ち目なんてないですもん。だから友達として、後輩として、下心なく仲良くしたいだけです」
「嘘だな!下心が見える!」
「先輩と一緒にしないでください」
「俺は下心持ってても受け止めてもらえるからいいんだよ」
「うわー…俺なんでこの人に負けたんだろ」

俺は二人の会話を小耳に挟みつつ、少しだけどきどきしていた。



「なぁ」
「ん?なになに?」
「俺の前でも野見山くんといるときみたいにしてみて」
「はい?」

ひかるは訳がわからないという顔をしている。

「なんで聡太郎を野見山と一緒にしなきゃいけないの」
「…野見山くんといるときのお前って、ちょっと男らしいから」
「えぇ?そうかな…」
「喋り方とかふにゃふにゃしてないし…」
「それいつもふにゃふにゃしてるってこと?てかふにゃふにゃってなに?」
「今その喋り方のこと。妙に柔らかいっていうか…他の人にはもっとこう…乱暴な、男子高校生らしい口調を使ってるだろ」
「…お前、とか、てめぇ、とか?」

俺はこくこく頷く。

「だって野見山に気を遣う必要ないじゃん」
「じゃあ俺にはわざわざ気を遣ってくれてるってことか。それはそれで距離を感じるんだけど」
「あっ、違う!そうじゃなくて、俺はとにかく聡太郎の前では優しい男でいたいの!かっこつけたいの!」
「なんだそれは」
「うーんと、どっちも素なんだけど、聡太郎に対しての態度が特別ってこと」
「特別…」
「俺が聡太郎に柔らかい?だっけ?…そういう言葉遣いになるのは、聡太郎を柔らかく包み込める男でありたいっていう願望の現れだから!」
「…」
「…だめかな?」

――だめじゃない。全然だめじゃない。

「…俺も、ひかるのその話し方が一番好き」
「えっ!ほんと!?すき!?」
「でもやっぱり他の人と話してるお前を見てたら、ちょっとどきどきするから」
「どきどき…?」
「だからとりあえず、一回俺のことお前って呼んでみて。あ、てめぇでもいい」
「えっむり」
「…」
「…」
「…」
「…えぇー…言わないとダメですか」
「言ってくれたらサービスする」
「何のサービス!?」
「…ちゅうとか?」
「お前」
「早い」

散々渋ってたくせに。

あまりの反応速度がツボにハマり、俺はその後しばらく笑い続けた。

「ね、ね、聡太郎、笑ってないで早くちゅうしてよー」

――確かにこんな甘々な態度、他の奴の前では見せて欲しくない。なんて、俺はかなり自分勝手だ。



よくわからない小ネタになってしまった。
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