ウィッグやニット帽を見ただけでじゅんと尻を疼かせるようになってしまったバーナビーは、すっかり別人という設定でのお遊びが気に入っているらしかった。それは何も変装している時に限らず、日常の中でも取り入れられる。珍しくバーナビーの方からキスを仕掛けてきたりすると、虎徹は決まって問うた。
「今はトム?」
 悪戯っぽく目を細めて、八重歯を見せて。素のままの美しい金髪を撫で、なだらかな丸い額にキスをする。バーナビーはそれを大人しく受け入れ、くだらないやり取りにも機嫌を損ねることなく微笑んでみせた。
「そうかも知れませんね」
 ばからしいと愛おしいは紙一重だ。きょとんと見開いてから余裕たっぷりに細められる緑の目は、日々虎徹を惹き付けてやまない。
 最近はまっているのは夜の散歩だった。勿論ただの散歩ではつまらないので、ちょっとした遊び心を取り入れている。虎徹自ら、もしくは目の前で慣らさせた後孔に遠隔操作型のローターを仕込み、いつもの通り変装して外出するというものだ。
 綺麗に洗浄し、ローションでぐっしょりと濡れたアナルに冷たい玩具を埋め込み、普段通り下着を身に付けさせる。もぞもぞと違和感に腰を揺らすバーナビーにだぼついたジーンズを穿かせ、モーター部分をポケットに入れてからパーカーを着せる。手元のリモコンでスイッチを入れてやるとぴくりと肩を揺らした。
「んっ…!」
「どうだ?」
「イイ、です…」
 ナカでの当たり具合を確認すると、ほんのり上気した顔で答える。膣と違って振動自体が快感へ直結するわけではないが、感じるポイントの近くに刺激を与えられ続けるとそれはそれで頭が蕩けてしまいそうになる。これから自らの身に起こる出来事を想像して、バーナビーはきゅんとナカを締め付けた。
 そのいやらしく緩み始めた表情に満足すると、バーナビーの艶やかなブロンドにウィッグをかぶせる。宝石のように潤んだ瞳もサングラスで隠し、バーナビーという存在をおぼろげにしてしまう魔法のヴェールをかけた。
「んじゃ行くか、トム」
 その名前は非日常へのスイッチだ。これまでの生き方や現在の立ち位置を白紙に戻し、ただのトムとして与えられる快楽を楽しむための。
 バーナビーは暗示をかけられたようにこくりと頷き、ひっそりと夜の街へと繰り出した。



* * * 







 スーパーマーケットのトイレは清潔で広く、時間帯も相俟ってがらんとしていた。駅のトイレのような饐えた臭いこそしないものの、消臭剤の下品な臭いが立ち込めていて買った食材を持ち込んだことを若干後悔する。しかし後の祭りだ。バーナビーは相変わらず蕩けた表情のまま付いてきて、時折ん、と鼻にかかった声を漏らしながら太腿を擦り合わせている。
 入り口の清掃チェック表に素早く目を走らせ、暫くは人の出入りがなさそうだと確認すると奥の個室へバーナビーを連れ込んだ。
「座れよ」
 便座を閉めてバーナビーを軽く押すと、おそるおそる腰を落としながら小さく喘いだ。体勢が変わると中のものが動き、刺激になるのだろう。注視しなければわからないが、ジーンズの前も窮屈そうに膨らんでいる。
「ぅん、ん、あ、あ…」
「ほら、自分だけ気持ち良くなってないで」
「ごめ、なさ……きゃん!」
 軽く突き飛ばすと便器に尻もちをついて、身悶えながら高い声を上げた。舌を出してはっはっと短く息をしながら、震える手で虎徹のベルトに手をかける。バックルを外した後は躾けた通りにチャックを歯で噛み、ゆっくりと下におろした。
「トムの一番好きな肉、おしえてみ」
「ん、んぅ…」
 邪魔なサングラスを虎徹の手が外すと、緑の目で見上げたまま前をくつろげ、鼻先を下着に埋めた。すんすんと匂いを嗅いでからじっとりと汗ばんだそこに頬ずりをする。唇を寄せて布越しに口付け、漸く合わせからそれを引き出した。
「これ…」
「これって?」
 虎徹の昂りを手で撫でさすりながら頬を寄せ、甘えるように見つめる。虎徹はそれを許さず、やわらかな頬に触れながら決定的なことばを促した。バーナビーのささやかな抵抗はいつだって結局へし折られてしまう。
「こてつさんの…」
 言いよどんでいると虎徹の手がポケットへ伸び、あっと思う間もなく振動が強められた。
「ああああっ、あん!やめっぇ…!いいましゅ、からぁ…!」
「トムが学習しねーからだろ?」
「ぃああ、こてつさ、の、おちんぽぉ!」
 淫らなことばを叫ぶと、開いた唇にそそり立った陰茎を突き込まれた。バーナビーはされるがまま性器にしゃぶりつき、しっとりと濡れた唇で先端をちゅっと吸う。じわりと塩気のある液体が滲んできて、一滴も零さぬようまるでミルクを与えられた赤子のように無垢に吸った。
「おひんぽが、しゅきれしゅ」
 口を離さないまま懸命に媚びた視線を向けると、やっと体内で暴れていたものの振動が弱められる。ほっとしたのと同時に物足りなさも襲ってきて、もどかしげに腰を揺らしながら喉奥へと虎徹を受け入れた。時折舌を動かしながら喉を締め、虎徹が腰を動かすのに合わせてされるがまま頭を揺さぶられる。
 がぽがぽがぽ、くぐもった音だけが響いて、まるで自分がこのトイレの一部になってしまったかのような錯覚に陥る。便器に座り喉をさらけ出して、排泄のための道具にされる感覚。バーナビーという人格を家に置いてきたあとは、人権すらなくしてしまったかのように思える。公共の場で勃起した性器を服の下に隠しながら口淫に耽るなんて、とてもまともじゃない。
 唾液のたっぷり乗った舌を目一杯伸ばして、喉の奥で虎徹のものを受け入れる。突かれるたびえづいて吐きそうになり、胃が痙攣するのがわかる。が、段々とそれも曖昧になっていく。虎徹にとっては喉がびくびくと波打つのが心地いいらしい。普段は決してされないような乱暴な扱いにひどく興奮している自分がいて、バーナビーの酸欠でぼやけた思考がアブノーマルな快感をキャッチした。
「…っ、も、いきそ…」
 汗を浮かべた虎徹が短く呟くと、ぼんやりしていたバーナビーの喉奥に粘ついた精液が叩きつけられる。当たり所が悪かったのか盛大に噎せ、ひゅっと音を立てて息を吸い込んでから暫く咳き込み続けた。一部飲み下したものもあったが大半の精液は口から零れ、半透明の液体がどろどろとバーナビーの唇を汚す。
 どれくらい噎せていたのか、咳は落ち着いてきたものの鼻の奥が痛くてたまらない。鼻から垂れている鼻水ともカウパーともつかない液体を手の甲で拭いながら必死に虎徹を見上げると、吐精後にしては凶暴な目つきでじっとバーナビーを眺める双眸と目が合った。ぼろぼろ泣いたせいでぐしゃぐしゃになった目元を乱暴に拭われ、外していたサングラスを戻される。
「口拭いたら、行くぞ」
 虎徹らしからぬ冷淡な言葉にのろのろと腰を上げると、口淫にすっかり感じ入っていたのか股間がぐっしょりと濡れて張り付いていることに気付いた。はしたないお漏らしがばれてしまうのも時間の問題だろう。中のローターを刺激しないよう慎重に立ち上って、洗面台で軽く口をゆすいだ。


 

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